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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第87号 既存住宅の価値と評価制度を考える

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 今回は住宅の価値について考えてみたいと思います。日本の不動産流通において、欧米と比較して住宅の価値が極めて低いことは、よく聞く話だと思います。日本の戦後の住宅は、寿命は短く価値は低く、スクラップアンドビルドを前提として建てられており、欧米から見て極めて異様に見えるはずです。


1.既存住宅の価値


(1) 日本では


 不動産流通でよくあるチラシを見ると、「既存住宅有り」と書いてあればまだ良い方で、「中古住宅」と書かれると価値感は無くなり、さらに「古屋有り」と書かれると、価値ゼロどころか解体費用負担分マイナスのイメージになると思います。


 それでも、大規模住宅地開発の分譲住宅や大手住宅メーカーの物件は、「○×ハウスの建物」などと書くことによってやや価値があるように表現することはありますが、それでも、20年経つと価値が無いということになってしまします。


 そんななかで、最近、大手不動産会社などでは仲介物件について建築士などが調査し評価するビジネスモデルがあります。この調査は、仲介物件を取り扱う段階で「調査済み」と表現し、施主が興味を持つと、さらに詳しい調査オプションがあり、調査とともに一定の保証をする場合もあると聞いています。


(2) 欧米では


 アメリカのホームドラマなどで、家族総出で自宅のペンキを塗っていたり補修しているシーンが映し出されることがあります。日本でも大きなホームセンターなどDIY専門店が存在していますが、欧米の場合と日本の場合では、少し事情が異なる気がします。


 日本の場合、模様替え的な感覚や壊れたり破損したときの補修であって、価値が向上するイメージはあまり見えてきませんが、欧米では、住宅そのものの価値の向上につながるケースが一般的と言われています。グラフは日本と欧米の住宅の流通統計(平成20年集計)ですが、日本が中古流通の割合が13.5%と圧倒的に少なく新築志向なのに対し、欧米では中古住宅が住み替えの主流になっていることが解ります(イギリスで90%弱、アメリカで78%、低いフランスでも66%など)。


 ある時、アメリカの知人から、今度「リポット」するとの連絡がありました。「リポット(repot)? 植木の鉢を入れ替えるのかな」と思ったのですが、実は住み替えのことだったのです。よく聞くと、新婚当時から子供が生まれたなど家族構成が変わるたびに住み替えていて、今度は最後のリポットで、暖かいハワイに住むのだというのです。そのご主人に聞いた話では、購入した中古住宅は売る時には価値が無くなるどころか、ほぼ同額で売れたケースと値上がりしたケースがあったとかで、今度の住宅は2人だけなので狭くなったぶん「差額が老後資金にもなる」との話でした。土地は別として、建物の購入価格が売却時の同等の価格かそれ以上になることを考えられるのは、日本に置き換えてみるとある意味すごいことです。


 日本では、賃貸が良いか購入した方がよいかと言う議論があります。単純に家賃と返済金額の差が議論になります。実際には、ローン返済金だけでなく購入金額と売却価格の差を住んだ年数で割って、合わせてどうかを比べないと行けないのですが、欧米では建物の価値が変わらない前提で考えられるのです。


 そして、アメリカで中古住宅流通を支えているのが「ホームインスペクター制度」です。仲介物件には不動産エージェント、ホームインスペクター、アプレイザー(価格の査定をする専門家)、金融関係者など多くの専門家達が関わっていますが、絶対欠かせない制度がホームインスペクターによる中古住宅の調査なのです。


 まず、売り主は、住宅の詳細を正直に書き込んで役所に提出せねばならないことになっています。そのうえで、買い主はさらにホームインスペクターを雇って調査するのです。また、融資を利用する場合は、融資を受け持つ銀行がホームインスペクターによる調査を融資の条件にし、自ら派遣する場合もあるのです。これによって購入者は安心して買え、売りたい側は、常にメンテナンスを心がけるのです。そして、価値の認められた家が価値通りに流通するという訳なのです。


(3) 日本でも戦前までは


 20年で評価価値ゼロとは言え、江戸時代から昭和初期に建てられた農家や京町家、旅館、商家など100年以上経過した今でも、補修しながら実際に住まわれているケースは多く存在しています。使われている建材の質が素晴らしいものも多くあります。また、分譲住宅も田園調布などむしろゆとりある高級住宅を意味していた感があります。


 日本の中古住宅の価値を無くしたのは、むしろ戦後の高度成長期時代の頃です。最初は分譲地などと言われる郊外で、敷地をそこそこ広くとったそこそこの家並みの住宅でしたが、住宅需要が急増しはじめてから登場した建売住宅からは、将来の中古流通を見据えた発想は少なくなったように思います。


 新築住宅着工数が飛躍的に伸びてきたなかで、新しい建材が生まれ、多様化し、建て方もすっかり変わって行きました。その結果、安全面で問題がある建材や欠陥住宅などが社会問題化し、中古住宅の価値を下げていった感じがするのです。


 バブル景気のころなどに「土地本位制」が台頭。建物は資産価値として軽く考えられ、「古い物件は更地にした方が売れる」という考え方が広がっていきました。


 さらに、大きな地震が起きるたびに法規制が強化され、特に1981(昭和56)年の新耐震基準以前の建物は、阪神淡路大震災などでも耐震性に問題があったことが中古住宅の評価を下げる要因に加わりました。


2.インスペクター制度の導入


 日本において中古住宅の価値が低いのは、その本当の価値が判断できないという事情からです。実際の建物の評価が本当に無いのではありません。そこで、日本でもインスペクター制度を設けることが議論され、住宅仲介時に義務化しようとしているのです。公的なものさしを使って家の価値を定め、流通を活性化するものです。例えば、返済期間30年などの長期ローンで買った家が、ローン完済後にも中古市場で価値があれば、売却して老後資金に充てることもできるのです。そうなれば、日ごろの住み方やメンテナンスの重要性が高まるでしょう。


3.インスペクター制度の課題


 インスペクター制度に関する課題としては、およそ3つあります。


ア.省エネルギー性能や耐震性能調査
イ.基礎の高さなど耐久性に関わる性能調査
ウ.アスベストなど現在は使用禁止されている素材を使っていないかの調査


 現行の建築基準法などを遵守する前提で考えると、調査費用が別途かかるうえに、改修などの費用が嵩むという問題があります。


[2016/2/3]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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