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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第93号 既存住宅インスペクター制度を検証する

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 4回にわたって中古住宅のチェックポイントについてお話をしてきましたが、義務化が予定されている「既存住宅インスペクター制度」を踏まえたうえで解説してきました。そこで今回は、改めてこのインスペクター制度の検証をしたいと思います。


1.義務化が予定されている既存住宅インスペクター制度


 中古住宅を購入する方にとって、従来の仲介業者が作成する重要事項説明書だけでは物足りないと感じてこられたのは当然のことだと思います。重要事項説明書では、敷地の制限や接道の有無、ガス、水道などのインフラの有無など、形式的な状態は記載されていますが、建物の状態についての情報は、ほとんどありませんでした。既存の建物を壊して新築するのならそれでも良いですが、既存の建物をそのまま使いたいと思って購入する人には、今までの情報量では怖くて判断できないというのが本当のところだと思います。また、そのことが中古住宅市場が活性化しなかった原因の一つでもありました。


 そこで、誕生したのが「既存住宅インスペクター制度」です。国は「新築中心の住宅市場から、リフォームで住宅ストックの品質・性能を高め、中古住宅流通により循環利用されるストック型の住宅市場に転換する」ことを目指しているようです。


2.調査対象と限界


 国土交通省が示しているインスペクター調査ガイドライン(図1)の調査項目を見ると、ほぼ住宅品質確保促進法や瑕疵(かし)担保履行法で瑕疵の対象としている構造躯体(くたい)と雨水の浸入、設備配管部分の状態調査が中心でとなっています。そして、その検査方法は、一部クラック(ひび割れ)や傾斜など計測を求めているものもありますが、ほとんどは「目視」です。これは、既存の民間団体が実施している調査内容も、ほぼ同じような内容です。


国土交通省インスペクター調査対象ガイドライン

図1 既存住宅インスペクター検査対象例(国土交通省ホームページより抜粋)

 ここから読めるのは、検査の中心は劣化事象が中心ということです。柱の太さや筋交いの厚みなど、耐震性や断熱性に関わる住宅そのものの性能を判断する項目は無く、単に劣化状態の判断に限っていることが分かります。その他の雨水の浸入や設備配管などについても、設計時や施行上の瑕疵も含めて現状調査にとどまっています。原因調査までは要求しておらず、あくまで推定にとどめ、補修や改修の薦めとして報告することになっています。


3.調査報告の例


 図2は、実際のインスペクター検査報告例です。1階和室の調査表です。


図2 検査報告例

 まず、検査に該当するかその他なのかを判定します。例えば、画像のように天井の一部に雨水の浸入跡(雨漏れ跡)があった場合は検査に該当します。評価については、すでに仲介時にインスペクター制度を採用している民間不動産会社の事例を見ると3~7段階に分類しているようですが、最も多いのが5段階制です。評価の表現は各部位で異なりますが、図1では「1.明確な不具合」から「3.要注意指摘」までが問題ありとして再度確認(オプション調査など)のうえ対処してほしいとしています。


 「4.修繕履歴確認済」とは、仲介業者を通じて売り主が、たとえば、「天井の雨水の浸入跡は○×年に補修してある」などの記録を確認できた場合に記載されます。これは、長期優良住宅などで採用されている住宅版履歴書「いえかるて」が全ての住宅に採用されることなど前提にしています。


 いずれも、あくまで目視の範囲での調査です。例えば、小屋裏は脚立などでのぞくものの、中に上がって調査はしないことになっておりますし、床下に潜ることも想定していません。


 ただし、インスペクター調査をすでに実施している不動産業者の中には、別に防蟻(ぼうぎ)処理業者に調査依頼して床根太や土台、基礎裏面など確認しているケースもあります。


4.ガイドラインでは対象とされていない重要検査項目


 調査対象のガイドラインには入っていませんが、私から見て購入後に大きく影響する調査項目としては、断熱性能と耐震性能があります。


図3 省エネ基準変遷(努力義務から義務化へ)

 断熱性能は、オイルショック(1973年)の影響などで建物の断熱化が進むなか、「省エネ基準」が施行されたのが最初です。その後、地球規模での資源や温暖化の問題で省エネ基準も改正されて今日に至っています。当初は努力義務でしたが、2020年から新築住宅に義務化する方向です。


 省エネで言えば、住宅メーカーや建売住宅の業者が「ZEH(ゼロエネルギーハウス)」化へ一気に進んでいます。既存住宅の流通過程でも、省エネ化につながるリフォームは評価すべき項目だと思います。


 耐震性能については、1981(昭和56)年の新耐震基準が目安になります。それ以前の建物については、耐震改修されているかどうかが重要な判断項目となります。インスペクター制度とは別に、耐震改修促進法などで地方自治体が優遇制度を用意して「耐震診断」を推奨していますので、住宅を売却するしないにかかわらず、耐震診断を受けることをおすすめします。詳しくは都道府県や市町村などにお問い合わせしてください。


ただし、耐震診断には一次診断と二次(精密)診断があり、一次診断は原則、目視が中心で、小屋裏や床下をのぞく程度です。より正確に診断するためには、一部の壁を外すなどして実際に測定する必要があります。このような、より正確性の高い調査の実績が、高い評価につながるような流通市場になるべきでしょう。


5.より良いものが評価される社会に


 以上のように、既存住宅インスペクター制度の誕生と義務化は、スクラップ・アンド・ビルド社会からストック社会への転換を目指すうえで大変意義のある制度改革です。


 せっかくの有意義な制度を形式的で骨抜きの制度に終わらせないために、「より丁寧に建てられた住宅」や「より大切に管理されてきた住宅」が相応に評価され、国民の経済的メリットにつながる制度に成長することを願うばかりです。


[2016/8/3]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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