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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第86号 2016年は“住宅感”転換の年

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 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。


 早速ですが、本年2016(平成28)年は、住宅に関して一つの節目になる年かもしれないと思っています。空き家問題や既存住宅の評価制度など、住宅に対する発想の変化が予見されます。みなさんも、ぜひ発想の転換の準備をお願いします。


1.堅固と非堅固


 まずは、戦後の我が国の住宅政策の流れを簡単におさらいしておきましょう。


 1950(昭和25)年に、住宅を建てる際に核となる法律「建築基準法」が施行されました。第二次世界大戦が終わって5年後、まだ日本の都市に焼け野原が多く残っていたころです。その法律の中身は、住宅が密集している「都市」だけが対象であったことと、「仕様規定」が主だったことです。その「仕様規定」も、例えば建築資材としては、木、鉄、セメント、ガラス、煉瓦(れんが)、土、砂だけで、アルミやプラスチックは想定されていませんでした。


 建物の分類も、旧借地借家法で言う「堅固と非堅固」、つまり「鉄筋コンクリート造や鉄骨造と木造」で扱いが明確に分けられていました。堅固の建物については、前提となる仕様は「不燃材」として、鉄やコンクリート、石などしか認められていなかったのです(図1)


図1 堅固と非堅固

 その後、高度経済成長期の中で、建材もアルミやプラスチックを使った「新建材」と呼ばれる複合材が生まれました。これらの建材は、既存の材料と比較して、例えば「土塗り同等」とか「モルタル同等」などで評価していたのです。ある意味、曖昧な基準だったことは否定できません。


 そして20世紀末、建築基準法は大改正という「大」が付くほどの改正が実施されました。その一つが「性能規定」の考え方です。防耐火建材においても試験方法が定められ、試験に合格すればどんな建材も認められるようになったのです。たとえば、防火構造などの外壁や内壁の防耐火仕様については、今まで不燃材料が大前提でしたが、試験で合格すれば、木製の外壁やドアも防火仕様として認められるようになったことは画期的でした。


2.21世紀初頭に求められた品質


 このコーナーでもこれまで何度もご紹介したように、20世紀末から21世紀初頭にかけて、住宅を取り巻く法律が大きく変化しました。一番は「品質」に関わることで、次いで「耐震」、「バリアフリー」「省エネ」についてそれぞれ法律が整備され具体化していきました。


 まず、「品質」ですが、2000年4月に、住宅の性能表示や瑕疵に関わる問題、関連する紛争処理対応を定めた品確法(住宅品質確保促進法)が施行されました。欠陥住宅や住宅の瑕疵を無くすことが目的でした。この法律には、その後瑕疵に関わる工務店等の倒産などに対応して、瑕疵担保履行法が生まれました。


 次に「耐震」ですが、1995(平成7)年の阪神淡路大震災をきっかけに生まれたのが「耐震改修促進法」です。1981(昭和56)年の新耐震基準施行以前の建物について耐震診断や耐震改修に努めることとされた法律で、住宅については同基準以前の建物の耐震診断や耐震改修に補助金をつけて促進してきました。


 「バリアフリー」については、2006(平成18)年にそれまでの関連法を統合する形で、「バリアフリー法」が施行されています。住宅では、介護保険との絡みでバリアフリー化を促進する補助金制度があります。


 「省エネ」については、従来あった法律を改正した「改正省エネ基準」とあらたに「低炭素法」が施行されています。改正省エネ基準は、新築住宅については2020年からの義務化となっていますが、法律自体は、既に2015年4月に完全施行されています。


3.住宅を取り巻く今年の動き


(1) 消費税問題


 今年の住宅にまつわる問題の一つは、消費税問題です。2017(平成29)年4月をメドに消費税率が改正されるとなると、新築住宅では、9月末までに契約する必要があります。ただし、これについては、前回の駆け込み事情を考慮し、消費税がアップされた後の優遇政策も予定されており、施工の面でも、無理に建材・設備メーカーや施工者が忙しい時期に家を建てるデメリットを考えると、この問題については、過度に反応する必要はないかもしれません。とすれば、今までと違った発想が必要になります。


(2) 空き家問題


 もう一つの問題は、空き家の増加問題です。これについては、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が2015(平成27)年5月26日に完全施行されました。空き家問題は、住宅事情だけでなく、相続事情や税制度などが複雑に絡み合い、そう簡単に解決できる問題ではないのですが、空き家の活用として、中古物件の市場流通や賃貸物件の増加、さらには今話題の「民泊」などの宿泊利用の増加が、その緩和政策にともない一定程度進むものと思われます。ちなみに、最近、山手線内で家賃が下がる傾向にあるとも言われています。新築や売却だけではない発想が可能となります。


(3) 既存住宅インスペクター制度


 そこで、中古住宅の流通を促進する政策が、今年から動き始めます。日本と欧米の住宅事情を比較すると、既存住宅の流通の違いがあります。欧米では、流通のほとんどが中古住宅なのに比べ、日本では新築住宅が中心で、中古住宅の価値は限りなくゼロに近いどころか、解体費など考えるとマイナス評価というのが現状です。約5000戸以上もあると言われている既存住宅の性能を高めないと、COP21パリ協定で定められた温暖化防止のための基準は、とてもクリアできません。


図2 性能向上と評価基準が住宅を変える

 これらの性能的な問題も含めて、中古住宅が流通しにくかった理由に、今まで中古住宅の価値が客観的に判断できない点にありました。そこ中古住宅の診断を義務化する方針が打ち出されたのです。既存住宅のインスペクター制度です。私の解釈では、公的な物差しを用いて既存住宅の性能や耐久性などの評価をすることで流通を促進させようというものだと思っています(図2)


 既存住宅は、リフォームからリニューアル、さらにリノベーションと、その価格の割に性能もあり新築同様な状態の既存住宅が売れるようになってきました。省エネルギーだけでなく、省資源対策にもなる既存住宅の流通促進の動きは、意味ある動きとなると思われます。


 一方、新築住宅は、最盛期の200万戸に近い数字から現在は80万戸とも60万戸とも言われるような状態です。その建設コストも職人さん不足や性能設備機器向上対応などを反映して高騰し、坪あたり100万円近くとも言われています。このような状況の中では、人口問題も考えると、今後増える可能性は少ないと思います。


(4) スマート住宅元年


 「スマート」という言葉は、携帯電話だけでなく住宅にも使われ始めています。「スマートメーター」や「スマートハウス」などなど。再生可能エネルギーや電力やガスの自由化などのエネルギーの効率的な使い方をはじめ、エネルギー機器をどうコントロールするか、スマートな制御システムが住宅にも求められ始めています。さらに、改正省エネ法による2020年新築義務化を受け、大手住宅メーカーやホームビルダーなどでは「ZEH」化へ一気に進もうとしています。ZEHとは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」のことで、1年間に住まいで使う電気やガスなどのエネルギー量より、太陽光など各住宅内で発生させる再生可能エネルギー量の方が、同じか多い住宅のことを言います。


 このように、2016年は、まさに新しい住宅のライフスタイルの始まりの年だと感じています。そこで、いろいろな社会事情の変化からもたらされる住宅政策の流れを知っていただくことは、「失敗しない家づくり」にとって重要だと考えていますので、今年も新しい動きを積極的にご紹介していきたいと思っています。お楽しみに。


[2016/1/6]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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