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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第85号 横浜の地盤データ改ざんマンションを取材して

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 前回ご紹介した濁流で流されなかった“白い家”で、一気に株を上げた住宅関連企業が、今度は、マンション建設の杭のデータ改ざん事件で問題になっています。どちらも地盤に関する対策が要因でした。あまりのギャップに、何を信じて良いか不安になられた方もおられるのではないでしょうか。


 鬼怒川氾濫現場に続いて、今回もあるテレビ局の仕事で関連資料など基に解説をさせていただきました。実際に住まわれておられる方は、手すりの段差から話が始まり、杭の問題、そして、全棟建て替え案の提示など、驚きと不安の中で大変な思いをされておられました。


1. 杭の調査データ改ざんの背景


 今回の事件の経緯は、マンションが傾斜したことから発覚し、杭が支持層に未達とか杭先端のミルクセメント処理がされていないなどの問題が浮上しました。


 杭の問題については、正直なところ、施工後の状態は、地中を掘ってみないと届いているか届いてないか分からないと言うのが本当のところです。


 さらに、ボーリング調査は費用がそれなりにかかるため、問題のマンションでは1棟ごとに3カ所のボーリング調査しかされていなかったことが分かりました。


 問題のマンションは、支持層までの距離が40メートル以上あるような埋め立て地ではなく、鶴見川の扇状地で支持層までの距離が十数メートルと比較的浅い場所。一般論で言えば、比較的問題が少ないと思われるケースだったことから、ルーズに取り扱われた背景があったのかもしれません。


図1 横浜市地盤データベース

図2 同データ土質柱状図例(中間省略)



 一般的に戸建て木造住宅を建てる際の地盤調査では、建物自体がマンション等に比べて軽いこともあり、一般的にはスウェーデン式サウンディング法という簡易的な調査方法をもちい、マンションなどのボーリング調査法に比較してかなり安い費用で行えます。そこで、30坪程度の敷地でも、周囲4カ所、中心1カ所の計5カ所の調査をするのが一般的です。それから比べて、3カ所地調査はどうかとも思います。


 さらに、私の場合は、図1、2のように各自治体が新築などで調査された結果を地盤データベースとして公開している情報を事前に調べたうえで調査データを検証します。


 図1は横浜市が公開しているデータベースですが、オレンジ色の丸印が、過去の調査地点です。周囲のデータを見ることで支持層の起伏などある程度分かります。さらに、国土地理院の「土地条件図」とか、民間の地盤調査会社のジオテック株式会社が公開している「ジオダス」などから、周辺の地盤情報や支持層の深さや起伏などを推定しています。


2. 「2.5センチ」ってどの程度の傾きなの!?


 問題のマンションは、数棟からなっており、今回問題のきっかけになった棟から伸びる廊下の先で、隣の棟の廊下の手すりとの差が2.5センチメートルもあったということがニュース映像で何度も映し出されました。住民が異変に気付き販売会社に問い合わせたのは、それより1年も前だったようです。


 家が傾きビー玉やゴルフボールが転がるという話は、今までも欠陥住宅などで問題になりましたが、建築関連法では、住宅の傾きについてどのように考えているのでしょうか? 一つの答えが、住宅品質確保促進法の中にあります。


 「住宅紛争処理の参考となるべき技術基準」(平成12年建設省告示第1653号)という基準があり、それによれば、


(1) 3/1000未満の傾斜は、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が低い
(2) 3/1000以上6/1000未満の傾斜は、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が一定程度存する
(3) 6/1000以上の傾斜は、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が高い


……となっています。


 「床面など水平面では長さが3メートル以上、壁や柱など垂直面では2メートル以上の2点間」で計測するのが基準になっています(図3、4は傾いた壁や床のイメージ)


図3 部屋の断面図と傾斜

図4 傾斜(単位はミリメートル)



 今回のマンションでは、2.5センチメートル下がった場所は、建物の廊下側の一番の端の地点でしたが、建物の長手方向は約60メートルで短手方向は約10メートルですから、廊下の傾斜として2.5/6000で換算すると0.4/1000となります。短手方向では2.5/1000で許容範囲内のうえ、各室が内壁で仕切られていますので判断は難しいと思いますが、単純に言うと、前記の基準では許容範囲内なのです。


 つまり、今回のケースでは、たまたま2つの棟の渡り廊下で、目で見てわかる程度の段差ができたため、この傾斜が発覚したのですが、単棟のマンションであれば気づかれなかった範囲なのです。ただ、最初からそうだったのか、時間とともにますます傾斜角度が拡大していくかはわかりませんので、杭との関係を否定できるものではありません。


3. 自宅の傾斜を調べる場合のご注意


 この事件がきっかけで、自分の自宅の傾きを調べたいと思われている方が増えていると想像します。そこで、室内の傾きを調べる際のご注意を紹介します。


 まず、室内での傾斜を見抜く方法としては、よく言われているビー玉とゴルフボールを置くと動くかどうかが一つの方法です。しかし、耐震診断などで私が実際に体験した限りでは、(3)の6/1000あたりからボールが転がることがある程度で、実際のところ(1)(2)程度ではなかなか判断しにくいです。また、6/1000以上になると、敏感な方ですと、歩くだけで違和感を感じるようになります。


 戸建て住宅とマンションの違いで言うと、戸建ての場合は床に傾斜があったから建物全体が傾いているかというと意外にそうでもなく、調査で持ち込むレーザー水準器で柱など構造躯体を測定すると、建物全体(構造的)が傾いているケースより、部分的(内装施工的)に問題があることが多いのです。


 一方、マンションでも1階と2階以上とでは床構造が異なっている場合があります。鉄筋コンクリート造の場合は、床もスラブ床と言って、コンクリートで形成しますが、1階だけ在来木造工法の床を採用しているケースがあります。「鉄筋コンクリート造の耐火構造なのに木組みが許されるの?」と不思議がられるかもしれませんが、1階は地面があり支えを多くとれるので、木にした方がコスト的に安く済むことや、配管類を1階床下で集約している場合、木の床の方が、メンテナンスが楽なことなどがその理由です。


 私もいろいろ床の傾きについての相談を受けるのですが、マンションの場合、この木造床組の1階リフォームなどで床の傾斜が起きていたケースはありました。しかし、2階以上は傾きがあると構造躯体の疑いも否定できなくなりますので、より精密に調べる必要があります。


 また、一つの住戸だけでなく複数の住戸で傾きを疑うことができれば、構造躯体の問題が高くなります。もし、変だなと感じたら、建築士さんや大工さんなどの専門家に見てもらうことをおすすめします。


[2015/12/9]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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