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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第84号 緊急報告・鬼怒川氾濫現場を取材して ~後編~

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 鬼怒川の決壊から1カ月、いまだに500名近くの方々が避難生活を余儀なくされていることに心は痛みます。さて、前回は、濁流に流されなかった「白い家」の検証をしましたが、今回はもう1棟の報告をしたいと思います。


1. もう一つあった流されなかった家


 決壊現場には、多くのテレビ局や新聞記者などが取材をしていました。私は、あるテレビ局から、残った「白い家」について、専門家としてコメントしてほしいという前提で現場に行ったのですが、その際、決壊箇所からほぼ同距離で、もう一棟流されずに建っていた洋風の2×4住宅(枠組み壁工法や2×4工法で建てられた住宅)を発見しました。


 近づいて見ると、その住宅の基礎から下は、約3分の1が流されていて、その基礎下には私でも十分潜り込むことができるほど空間があったのです(図2)。まるで、東北の津波現場で船が住宅地に流されていた光景のようにです。


【図1】洋館の位置関係(左) 【図2】船のように浮いていた洋館

 たまたま施主の方が現場におられて、ディレクターがお話を伺うことになり、私も参加させていただいたのです。私は初めてですが、施主の方の立場から考えると、被災されてから次から次と取材があり、大変気の毒と思ったのですが、お話を聞き、アドバイスがもしできればと思いながら話を聞いていました。大変な時でどこからどうしようかと思われていられる心境を含めて冷静にお答えいただいたことに申し訳ない気持ちと感謝する気持ちで一杯でした。


2. 外壁に亀裂が無かった!?


 決壊前の町並みを画像検索で見ると、川沿いに農家などの住宅があり、その東方には田んぼや畑が広がる田園地帯だったことが分かります。そこに、欧米風の2×4工法の洋館が建っていました。決壊後、現地に行った時は周りの家は無く、洋館だけが残っていました(写真1)。しかも、正面から見た建物の左右の地面がえぐられ、、空中に浮いた様にも見える位で、その下の空間には人が入れるくらいだったのです。濁流方向は玄関正面からで、建物の中央部にある両開きの玄関戸下部は、濁流により変形して閉まらない状況でした。


【写真1】実際の洋館(左) 【写真2】亀裂がほとんどない洋館

 しかし、驚いたことに一部に流された枝がぶつかって破損している以外、モルタル外壁に亀裂(クラック)が見られなかったことです(写真2)。ここで言う亀裂とは、建築等業界で瑕疵などの対象となる幅で、目視で明確に分かる程度の幅ということですが、正面など見る限り無かったと思います。


 しかも、基礎部分にもなかったのです。通常、基礎コンクリートにはモルタルで化粧しているのですが、その厚みは薄く亀裂が入りやすいのです。耐震診断などの判定での際も、化粧に隠された基礎に亀裂があるかどうかを調査します。


3. 流されなかった理由を考える


 現場で洋館を見て驚いたのですが、なぜ流されたり崩壊しなかったのだろうという理由を考えたところ、3つありました。


(1) 鋭角な二俣道路
 洋館の敷地は川に沿った道路から鋭角に分かれる道路に挟まれた敷地でした。テレビ報道動画を見た限り、当初は図1のように決壊場所から流れた濁流は、大きくは県道357号線を超えて東へ流れていますが、洋館は決壊場所の北端近くにあり、一部はAのように県道上を流れ、洋館のあった場所では分かれた道路B上に流れたようでした。その後どうなったかは報道動画は各テレビ局で時間を追って報道されていましたのでそれらをつなぎ合わせるように見る限り、その後、Bの南側が濁流で浸食されBの道路は南側からえぐられて舗装は流されてしまい、洋館の基礎下の土もえぐられたものの、この時間差が建物の3分の2弱を残したので流されなかったのではないかと推測しました。


(2) ベタ基礎
 洋館の基礎を見ると、ベタ基礎でした。木造住宅の基礎は大きく分けて3つあります(図3)。一つは昔の寺院などのような基礎石を並べているだけのもので、現在ではありませんが、コンクリートが無かった時代のやり方です。2つ目が布基礎で、ローマ字のTを逆さにした感じで構造躯体の柱や壁の下のみに設ける基礎です。3つ目がベタ基礎で、弁当箱を置いた感じでしょうか(図4)。


【図3】基礎の種類(左) 【図4】べた基礎のイメージ

 布基礎とベタ基礎の違いは、一番底の地面に接している面積です。布基礎は図2のように一定幅だけですが、ベタ基礎は図3のように全体の面になります。また、ベタ基礎の底盤には配筋があり建物の荷重は柱や壁、基礎立ち上がりを経て底盤全体で支えているのです。


 この他にコンクリートでも鉄筋の有無があり、新耐震基準の施行された1981(昭和56)年以前は無筋が多く存在していることもあります。ただ、ベタ基礎ではほとんど全て鉄筋が配筋されています。


 前回の「白い家」は、鋼管杭が地中10メートル程度打ち込まれていたとしましたが、この洋館が建てられた時の判定は、地盤が布基礎では耐えられないとの判断から、建物全体を面で支えることで建物を持たせようとしたと思います(地盤補強の方法や基準などは建築した時代で異なり、最近は地盤調査の結果で地盤改良から鋼管杭など設計時に検討される様になっている)


 つまりこの洋館は、鉄筋コンクリートのベタ基礎だったため、一部の地面がえぐられても変形しないで済んでいたのではないかと思えたのです。


(3) 2×4工法
 住宅など建築構造を考える際、マッチ棒とマッチ箱に例えることがあります。日本古来の在来木造は、軸組工法とも呼ばれ、図5のようにマッチ棒の両端を接合するスタイルです。一方、この洋館の工法は2×4工法と呼ばれています。日本的には枠組み壁工法と言うのですが、マッチ箱のように壁で構成された構造です。最近の車も、面で構成された「モノコックボディー」が主流になっています。


【図5】マッチ組み立て(左) 【図6】筋交い

 マッチ棒で構成された図5の場合、地震などを想定して1カ所に強く力を入れるとマッチ棒同士の接合部が外れたり変形し、崩れてしまいます。そこで、図6のように斜めに筋交いを入れることによって、耐震性を向上させています。一方、2×4工法では接合部が集中していないので、力が分散され耐震性を向上させています。


 最近建てられる在来木造は、壁には筋交いや構造用合板を貼り、床は剛構造と言ってお寺の天井のようなマス目にして強度を向上させて、マッチ棒構造に厚紙を貼った感じで耐震性が飛躍的に向上しています。


4. まとめ


 話をまとめますが、この洋館は2×4工法で外壁や床などに構造用合板が貼られ、ベタ基礎と共に変形しにくい構造だったことが、やや斜めになったものの外観上持ちこたえた理由ではないかと思います。


建築設計に携わってきた者として前回の白い家もこの洋館もいろいろな意味で知識を得ることが出来ました。そうは言っても、玄関ドアは変形し、濁流の一部は1階の各室に流れ込み、今後のことを考えると心が痛みます。取材で訪問した時に、この洋館の施主は、いろいろなマスコミの取材クルーのインタビューに丁寧に対応しておられた姿には感銘しました。1日も早い復興を願うばかりです。


[2015/11/11]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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