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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第73号 部屋の高さを確保する

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 住まいの空間を考える時、多くの施主は平面的な間取りプランを考えていくのが一般的だと思います。居間の広さや位置、寝室の配置やお風呂の広さなどです。しかし、設計側は施主からの要求の途中でも、立体的な高さの確保を想像しながら話を進めていきます。なぜなら、建築では建ぺい率など平面で考えるほかに、高さ制限、特に北側斜線とか道路斜線などがプランニングに大きな影響を与えるからです。


1.高さに関わる制限


図1 高さ制限概要

 図1は、都市計画法の地域地区で、住宅地として最も厳しい「第一種低層居住専用地域」にかかわる高さ方向の規制です。図は、東側から見た立面で、真南に道路がある事例です。

 この地域では、「絶対高さ」と言って、建物の高さの上限を10メートルと定めています。一般的な住宅の場合の室内の天井高は2.4メートルですから、単純に計算すれば3階建てでも何とか建てられそうな高さなのです。ところが、良好な住宅地の町並みを確保するには、絶対高さだけでなく、各戸に十分な日射や風の流れなど配慮が必要で、そのために斜線と呼ばれる規制が加わります。


 図1の左側に「道路」と書かれている部分に斜線が描かれていますが、これが「道路斜線」と言います。道路幅が4メートルの場合、道路反対側の地点から斜線がかかり、この線から建物が出ないようにしなければなりません。商店街などで上階が斜めになっているビルを見かけたことがあると思いますが、引っ込んだぶん空が見える、つまり日射や風の流れを良くすることなどを目的にした規制なのです。


 次に、図1の北側(図の右側)の隣地境界線上を垂直に5メートルの地点からの真南へ向かう斜線を「北側斜線」と言い、道路斜線と同様この線から上に建物を建てることは出来ません。この斜線により北側の隣家に太陽の光が差し込むように配慮することを目的としています。


図2 北側斜線

 図2は、ある住宅の立面の一部ですが、高さ方向で考えると、まず、地面から1階床高さまで基礎や土台、床根太、床板などが必要でその高さをAとします。次に階高(1階床から2階床までの高さ)をBとし、さらに、2階床から天井裏にある梁や桁と呼ばれている構造上必要な躯体までの高さをCとします。その上は屋根になるのです。このうち、BとCは部屋空間の高さも含まれており、その高さは在来木造では2.4メートルが一般的です。

 問題はここからです。住宅を建てる際、南側をできる限り空けて庭などにし、建物は北側に寄せたいところですが、北側に寄せると先ほどの北側斜線が絡んでくることを考慮しなければならないのです。図2では、隣地境界線から1メートルの処に建物が建っている例(境界線から建物外面)ですが、赤線で示した境界線から垂直に5メートル上がった点から真南方向へ斜線が北側斜線です。ご覧のように、2階の北側窓上部に絡んでいます。つまり、この線以上の壁や屋根は、北側斜線にかかるので建てることが出来ません。


 ちなみに、図2の建物の位置で、2階の部屋のいちばん北側の天井高は1.6メートル程度になってしまいます。そこで対策としては、2階部分を南へ引っ込めるか(床面積が狭くなる)、高さを抑えた居室にするかになるのです。


2.容積率と斜線規制


 建ぺい率とか容積率という専門用語を聞くと、立体的なイメージを持たれる方が多いと思いますが、建ぺい率とは敷地に対して建物が建てられる面積で、容積率は1階と2階の延べ面積のことを指します。


 例えば、敷地面積が100平方メートルの土地で、建蔽率50パーセント、容積率100パーセントの場合、単純に言えば1階の床面積は50平方メートルで、2階も同じ広さで延べ床面積が100平方メートルの住宅が建つ計算になります。ということは、1階2階とも同じ床面積の総2階の建物が可能となります。しかし、この延べ床100平方メートルの総2階建物を、先ほどの斜線の関わる敷地に建てようとして北側に寄せると、北側の居室は、天井高が1.6メートルの斜め天井の部屋になり、2階北側の部屋は使いにくい空間が多く占めることになるのです。


 また、北側を空けようと南へ建物をずらすと、南側は道路斜線で同じように境界から離す必要が出てくるので、建物は敷地に対して中途半端な位置になってしまうか、2階の床面積を狭くせざるを得ないことになります。


 そこで、この問題に対する対策が問題となります。


3.高さを抑える工夫


 考えられる一つの方法が、建物全体の高さを下げることです。2階の床高を下げて図2のGの高さを確保することです。いちばん北側が1.6メートルでは低すぎるけれど1.8メートル以上の高さを確保した斜め天井であれば、小屋裏風の部屋としても何とか使えます。


 ここで考えなければいけないことは、図2のGを出来るだけ確保する方法です。手っ取り早いのが各階の居室天井高を下げる方法です。


(1) 天井の高さを下げる


 室内の高さは2.4メートルが一般的ですが、少し下げて2.2メートルにする方法です。実は、従来の団地やマンションでは、和室のマンションサイズに代表されるように、6畳と言ってもやや狭いのですが、天井も2.2~2.3メートルと低い場合が見られます。私が昔住んでいたマンションでも、天井を触ることが出来るほどだった記憶もあります。


図3 天井高さを下げると…(左は通常で右は下げたイメージ)

 しかし、部屋の高さを下げるのは、良い案ではありません。図3はイメージですが、昔の開口部の高さは1.8メートルで、居間などではサッシの上に欄間を設けていました。しかし、最近のサッシや室内ドアの高さが2メートルあるので、天井を下げると右側のように開口部上の壁が少なくなり圧迫された感じになると思います。


 それでも天井高を下げた場合、施工コストは安くなればよいのですが、そういう訳にはいきません。なぜなら、石膏ボードなど内装材の製品寸法は、一般的な室内高さに合わせて幅0.9長さ2.4メートルで製造されています。天井を低くしても、壁材などは既製寸法材をカットして使わなければならず、結果、材料コストは変わらず、手間とごみが増えるだけになってしまうのです。


(2) 隠れた懐を狭くする工夫


 次の方法ですが、部屋の高さを変えずに階高を抑える方法を考えてみます。


 図4は、従来の在来木造の1階天井から2階床までの懐(ふところ)部分、つまり1階の天井部分兼2階の床下部分です。従来の在来木造では、図4のようになっているのですが、懐の高さは60センチメートルもあります。


 一方、図5のツーバイフォー工法では、床根太に使われるツーバイフォー材の高さ方向は24センチメートルで、建物全体の高さを下げる点では、優れています。


図4 在来木造の2階床下懐

図5 ツーバイフォー工法2階床組



 そこで最近は、在来木造でも2階床躯体の主流は「格天井(ごうてんじょう)」です。格天井とはお寺などの天井のように半間(91センチメートル)ごとに梁や小針などを格子状に組み、その上に床構造用合板、下部の面に天井下地ボード(石膏ボードなど)を直接張りますから、図6の梁下に懐を設けなくてもよくなり、その分、階高を低くできるようになり(図7)、高さ制限や斜線制限の中、一般的な室内高さを確保できる空間を増やすことが出来るのです。


 また、もう一つ良い点は、格天井は懐を薄くするだけでなく、2階床がテーブルのように変形しにくくなり耐震上でも強度が増すことになります。


図6 最近の在来木造、格天井

図7 懐調整で全体高さを調整



図8 太鼓張り、床材と天井材が皮の役目

 しかし、ツーバイフォー工法と格天井の難点は、1階天井に防火も換えた石膏ボード張り、2階は床構造用合板を張りますから、両側から太鼓の革のよう構成になるために音が伝わりやすいくなることです(図8)。この対策としては、防振ゴムや石膏ボードなどを2階床面に張ることで遮音防音性能を少しでも高めることができます。


 もう一つ、問題になるのが、1階天井から2階床までの懐で処理していた天井裏のダクトなど、排気の配管や配線が施工しにくいことです。


 このような、構造躯体と設備配管配線等の問題は別の機会にお話ししますが、施主の間取りに関する要望を、平面でプランニングするだけでなく、立体での影響も考慮しながら設計者が対応していることを、少しでもお分かりいただければ幸いです。


[2014/12/10]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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