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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第82号 震災時、建物から安全に避難するために ~玄関編~

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 大正12年9月1日に発生した関東大震災を契機に、9月は全国各地で防災訓練などイベントが開かれます。自宅にいて大きな震れを感じたとき、急いで玄関から外に飛び出して安全な避難場所に向かいたい……。


 でも、そう簡単ではないこともあるのです。


1.玄関までたどり着くことができるの!?


 大地震に見舞われた際に重要なことは、自助です。まずは、自らがケガなどせず助かることです。もし地震の際に自宅にいた場合、まずは机の下などで揺れがおさまるのを待ち、次に火の元の安全を確かめ、そして、最終的には、建物の外に出て安全な避難場所に向かう必要があります。その際、玄関など外に出られる開口部までたどり着くことが重要だということは、意外に知られていないように思います。


 例えば、防災対策の重要ポイントとして、「スリッパなど履き物を寝ている場所の近くに置いておくことが重要」と、よく言いますね。いざ地震が起きると、いろいろなものが部屋の中に散乱します。もちろんその中には、硝子や瀬戸物の破片も混じっています。そこにスリッパで歩くことが出来ますか? 普通の靴だって疑問です。手だって、素手よりましとは言え、軍手では危険です。家具など散乱している中、夜中、真っ暗な中で懐中電灯を手探りで探すことすら危険で困難です。


2.玄関口の障害物


 そして、何とか玄関にたどり着いたとしても、まだまだ危険はあります。例えば、玄関にある下駄箱は、低いタイプは置かれているだけで(図1-3)、高いものは固定されていると思われるものの、扉が地震時に開かない対策付きは少なく、下駄箱が大きいほどいろんなものが入っていると思われますので(図1-2)、それこそ玄関ドアにたどり着く直前で下駄箱がバリアになる可能性があるのです。


図1-1 玄関と下駄箱

図1-2 靴が飛び出る

図1-3 下駄箱が倒れる



 地震力は重さに関係なく作用します。例えば、タンスと帽子があったとして、激しい上下動では、同じ挙動をします。つまり、衝撃で50センチメートル浮くとすると、両者ともものすごい力ですから飛び上がるわけです。ただ違うのは、帽子が飛んでもケガはしないと思いますが、タンスや食器棚などは脅威です。だからこそ、しっかりと固定することが大事なのです。


 対策としては、下駄箱が壁などに固定されているか、扉を開けるなどで確認する。特に、低いタイプの場合は置かれている場合も多ので確認する。固定の方法は、壁の裏に隠れている間柱や、柱に固定するのが原則です。また、下駄箱が固定されていても扉が開いて中身が飛び出してくれば、靴や傘が散乱してしまいます。要は扉が開かなくすることも大切なのです。地震時に扉をロックする金具はキッチン用などで市販されていますので、日曜大工店などでお聞きください。


3.玄関ドアが開かない!?


 “玄関にたどり着いたけれど、玄関ドアが開かない可能性は高い”……建築士の立場から、これは事実です。というのは、地震による建物躯体のダメージは、歪みとなって玄関など開口部の変形をもたらします。「相関変異追随性」と言って、躯体などが変形した場合でも、開口部サッシなど変形や損傷しない許容範囲がありますが、許容以上の変形をした場合、ドアが開かない状態になるのです(図2は、相関変位のイメージ)。


 そこで重要なことは、建物の変形の度合いにもよりますが、建物が明らかに傾いた場合以外では、こじ開けられるように準備しておくことです。つまり、玄関付近などで必要な道具として、バール(図3)などがあればと言うことなしです。


図2 玄関戸の相関変位

図3 バール(釘抜き)



 マンションの場合、避難口はベランダ側と玄関側の2方向しかないので、玄関が開かないことは深刻です(もっとも、最近新築されたマンションでは、変形しにくい玄関ドアの採用が進んでいますので確認しておくことをお奨めします)。


 他方、戸建て住宅では開口部が多く、サッシであれば、硝子を割ることも出来ますが、実際、強化ガラスを割ることは至難の業で、ここでも、バールのようなものが必要でしょう。


4.玄関先の危険


 図4は、ある団地の建物です。社宅や団地の鉄筋コンクリート建物は、梁で構成されている構造ではなく、壁構造という面で構成された建物で、比較的地震には強いと言われています。しかし、各戸から降りて1階の部分に鉄筋コンクリート製の庇が出ているケースがあり、この庇が地震で落ちたケースがあったのです。


図4 庇が落ちる可能性

図5 木造の庇も

図6 鉄柱が錆びている



 木造の場合の庇はどうでしょうか? 図5のように壁から片持ちで出している場合、構造的にどう処理されているかが問題です。また、庇の先柱を立てて持たせている場合(図6)、木の柱では風雨にさらされることで特に最下部の処理などで腐れの問題があり、よく使われている鉄柱の場合も錆などでかなり痛んだままになっている場合があります。通常時であれば良いのですが、地震の際は劣化している部分から庇が崩れるケースがあるので、普段からよく点検された方が良いと思います。


 さらに、屋根が古い瓦の場合、落ちてこないか? 2 階のエアコンの室外機の位置は大丈夫か? 2階のベランダに植木鉢とかいろいろ置いていないかなどなど点検をしておきましょう。


 また、玄関先には門柱やブロックの塀などがありますが、門柱もブロック塀もしっかりとした施工やその後のメンテナンスに問題があると地震時に倒壊することがあります。特に、心理的に怖いのが、人間は大きな震れに突然遭遇すると、壁など寄りかかれるところに動いてしまうのが一般的なのです。家の中にいた時に大きな震れが始まり、気が動転している中で玄関から外に出たとたん大きな震れがまた起きると自然に危険な門柱やブロック塀に頼ってしまうのです。その時に門柱や塀が倒壊したら大変です。


5.大切なことは、性能を知ってイメージしておくこと


 防災上大切なことは、建物の各所の状態を知っておくことと、いざという時の対応をイメージしておくことだと思います。


 例えば、自分の家の壁や天井など内装下地は石膏ボードと知っていれば、防火的性能は良いといえますが、天井の照明器具がビスなどで止まっていれば、落ちる可能性があると考えるべきでしょう。阪神大震災直後に神戸で調査や相談に応じた際、マンションの石膏ボードの天井照明器具がかなり落ちていたのを思い出します。原因は、ビスの長さ不足でした。通常の板天井用のビスの長さでは、石膏ボードでは抜け落ちる可能性があります。


 また、家の周りの塀がブロックであれば、常日頃から壊する可能性があるとインプットしていれば、いざという時に近づかないと思うのです。


 ○×はこうだから危険、○×はこうだから安全など、防災月刊の9月は、身の回りにあるものを防災の目で見て、震災時の対応をイメージしておくことが、いざという時に正しい行動を即座に出来ることにつながるのです。


[2015/9/2]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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