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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第83号 緊急報告・鬼怒川氾濫現場を取材して ~前編~

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 2015年9月10日、台風18号の影響を受けた豪雨で、鬼怒川が決壊氾濫しました。私は、一級建築士・防災アドバイザーとしてあるテレビ局の報道・情報番組の取材に同行し、現場を見てきました。今回はこの様子をレポートしたいと思います。


 現場は、水は引いたものの長靴でなければ歩けない状態で、送迎のハイヤーが黒塗りから白グレーに染まるほど砂ぼこりがひどい状態でした。過去、阪神大震災などの地震被災地、東日本大震災の津波被災地などにも、直後に現地入りして視察してきましたが、それらとは、また違う光景が広がっていました。


 堤防が決壊したのは幅約140メートル、そこから流れ込んだ濁流は扇状に広がり、地平線までと思える広い範囲を濁流の色に染め、所々に建物の残骸が引っかかっている感じで残っていました。ごく普通の町並みが一瞬に消えた衝撃は大変なもので、被災された方々の事を思うと心が痛むばかりでした。


1.鬼怒川・絹川と常総市


 鬼怒川は、栃木県北西部の群馬県境に近い鬼怒沼(標高2020メートル)から、瀬戸合峡を経て途中、男鹿川、大谷川を合流して塩谷町地点で扇状地性低地に移り、結城市で田川を合流した後、守谷市で利根川に合流する河川で、流域面積1760キロ平方メートル、幹川流路延長176.7キロメートルの河川です。


 鬼怒川は、元々「絹川」と呼ばれていたようですが、大きな洪水による被害をもたらしてきたことから、「鬼が怒るような川」となったとの逸話があります。また、近くを流れる小貝川は、1986年8月の台風10号によって、100年に一度と言われた決壊災害を起こしていますが、さらに氾濫の歴史を見ると昭和初期は2、3年に1回は、鬼怒川・小貝川のいずれか、あるいは両方の川で洪水が発生し、大きな被害に見舞われたようです。


図1 常総市は鬼怒川と小貝川に Google

図2 鬼怒川流域



 常総市は、図1のように鬼怒川と小貝川に囲まれた扇状地性低地で、昔を遡ればいろいろ蛇行しながら現在の位置に流れているだけとも考えられます。高低差が無い平地のために、氾濫後、ポンプ車45台が24時間体制で排水作業にあたりましたが、なかなか水が引かない状態だったようです。


2.流されずに残った奇跡の「白い家」


 冒頭に書いた鬼怒川決壊では、写真1のように川の近くでは道路も基礎もみんなバラバラに流され、家の残骸ははるか遠くに流されていました。一方、東北の海岸で見た時は道路も基礎も残っていて、建物だけが無くなっていました。この違いは、濁流の流れ方、圧力、速度などの要素もあると思いますし、東北は寒冷地なので、凍上(凍結の際に土の中の水分が氷柱となり家を持ち上げること)もあって、基礎を深くしているケースがあります。また、道路のアスファルト舗装も、同じ理由により、通常より厚みがあったことも考えられます。


写真1 鬼怒川決壊濁流後(撮影・荒尾博)

写真2 東北津波後(撮影・荒尾博)



 そんな中で、写真3のように新しい白い家が2棟も家がぶつかっているのに流されなかった家があったとニュース映像などで話題になりました。写真1でも奥に見える白い家がそうです。


写真3 残った白い家(撮影・荒尾博)

図3



 この白い家は、ある大手住宅メーカーの軽量鉄骨工法の住宅で、ネット上でも災害に強い家とメーカーの評価が上昇しているようです。その理由は、建物が頑丈だっただけでなく地盤に鋼管杭が採用されていたと報道されていました。鋼管杭とは、生け花の剣山を逆さにしたような地盤改良法です。


 この住宅メーカーは、設計当初、地盤調査をした結果、地盤が軟弱で、しかも支持層まで10メートルほどあったので、鋼管杭(図3の4項目)を選択したのです。この住宅メーカーのコメントでは、地盤調査などしっかりして最良の方法を提案、実施したことは自慢できるが、左右の激しい濁流の前では流されないとは言えないとコメントがありました。実際に現場に行き見ましたが、図4のように建物は基礎底盤下の土は流され、鋼管杭に支えられている古墳時代の高床式住居のような形で残っていました。無理すれば潜り込めるくらいの空間もありました。周辺の建物が基礎ごとバラバラに流されているのを見れば、その違いは明らかです。鋼管杭は、図5のように地盤調査をして良好地盤を見つけ、さらに、ばらつきが無くしっかり支持できる層まで鋼管を打ち込むことで地震に耐えるようになっていたことが濁流にも力を発揮した形になったのです。


図4 白い家の下部状況(イメージ)

図5 鋼管杭深さ10m+(イメージ)



 ただ、基礎から上の躯体となると、濁流の水圧にもよりますが、外壁等かなりの損傷は免れないとも思えます。なぜなら、津波の場合で1平方メートル当たりトン単位の水圧力がかかると言われています。たとえばサッシですが、風圧だけで言えば、風速50メートル(毎秒)だと、風圧力は1250ニュートン(1平方メートル当たり)とはるかに小さい想定なのです(1ニュートンは約0.101キログラムなので125キログラム換算)。


 単純には言えませんが、まともに濁流を受ければダメージは大きいはずです。しかし、決壊直後の報道画像で見る限り、白い家の前には数軒の家があり、激しい濁流は左右に分かれるように見え、直接白い家には当たりにくい位置にあった感じだったのです。さらに、その後流された家が図4のようにぶつかり、白い家の盾になり、お陰で濁流が横に流されたことも大きいと思います。濁流が直接当たらなかったことが、外壁や構造躯体への影響が少なく、かつ、全体を流そうという力は、基礎の鋼管杭によって打ち勝ったと言えるのではないでしょうか。


 残った白い家を見て、当たり前に事前調査から地盤補強方法などしっかりと対策をとる重要性を改めて感じました。


 また、あくまで私見ですが、この住宅メーカーだけでなく最近の在来木造やツーバイフォ-工法でも、この現場条件では当然に鋼管杭を採用したはずですし、耐震性能などから、基礎と柱など構造躯体を接合するホールダウン金物などを使っているはずですので、同じ条件であれば同じように保てたかも知れないと思いました。


3.決壊濁流は、設計の想定外だった


 住宅の設計では、地盤調査をして基礎までが決まり、外力に対しては主として耐震性能を求め、風や雨についても考慮するのですが、濁流や津波対策はしていません。単純に基礎を高くすればとも思いますが、高さ制限やバリアフリーから見れば問題です。


 しかし、河川に近い扇状地性低地平野にお住まいの方の場合、多くの場合、軟弱地盤に建っていることと思いますので、液状化なども踏まえて専門家に相談した方が良いと思います。


 今回のレポートは、あくまで災害直後の現場を視察した私の見解で、今後、いろいろな角度から専門的な検証がされると思いますので、そちらもご注目いただきたいと思います。そして、被災された方々や町の復興を願いつつ、今後の建築の教訓として生かせればと思います。


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[2015/10/7]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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