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失敗しない家づくり教室

一級建築士でFPの荒尾博氏が一戸建てを新築・改築する際のノウハウや注意点を解説。新しい法規制の動きなどもタイムリーに取り上げます。

第65号 中古住宅の価値を評価「既存住宅インスペクター制度」(2)

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 前回に引き続き、既存住宅(中古住宅)の評価制度として平成25年6月に国土交通省が策定した「既存住宅インスペクション・ガイドライン」の内容について考えてみます。


1. 売却しづらい間取り


図1 広くて敷地も広い既存住宅

図2 同住宅平面図  (マイホームデザイナーで作成)


 図1の住宅は、敷地の変形もなく、比較的広い庭を持つ邸宅のイメージで、価値の点では一見評価が高いと思われる物件例です。しかし、平面図をみると、1、2階ともトイレ、洗面、浴室があり6LDKと広いのですが、昔の大家族用の間取りであり、現在の家族単位で住むには広すぎ、かといって2世帯で使うには使いづらく、案外購入する方は、限られてきます。


 ただ、2世帯住宅にリフォームしようと考えるならば、この物件の評価は大きく変わります。玄関ホールに階段があり、ここで室内ドアなどで1、2階で世帯を分けて2階の主寝室、書斎などをLDKなど改造すればなどなどいろいろ考えられるとも思われます。


 そこで、間取り以外の物差し(評価基準)があり、それにより評価が高いとなれば、リフォームの発想も生まれ、見方も大きく変わるのではないでしょうか。


2.公正な物差しの必要性


 このように、既存住宅の価値は、外観のデザイン、規模、間取り、耐震性、可変性、建設地の環境、エクステリア、地域のイメージなど千差万別、判断基準は今ひとつ明確ではありません。しかし、人口減少や少子化などで既存住宅数が世帯数を上回り新築住宅が減る傾向の中で既存住宅の価値について考えてみると、その価値判断を単に市場に任せるだけではなく、誰もが判断材料になる客観的評価基準、つまり公正な物差しがほしいところです。


 今回制度化された既存住宅インスペクション制度とは、建築物としての基本的な性能についての物差しを定めたもの考えられます。ただし、基本的な性能の中でも重要性の高い耐震性能とか断熱性能などについては、建築基準法、耐震改修促進法や改正省エネ基準、低炭素法などを考慮する必要があり、その意味では純粋に建物の劣化等の調査に近いものとなっているようです。


3.既存住宅インスペクター調査項目


 表1は、この制度の基本的な調査項目と主な概要です。表を見てもわかるように、調査検討項目は一般の建物として現れた劣化などの現象項目が主で、住んでいる方も気がつく内容だと思います。ただ、制度では、建築士など専門家が国のガイドラインに従って調査し、報告書としてまとめるもので、実際の調査書は、調査項目と確認項目があって、その項目に従って専門家としての目力と判断力などから導きだしてまとめるものです。


表1 主な調査項目

4.誤解されやすい調査個所


 劣化調査では、汚れや経年変化(太陽光や酸性雨などの影響)、経年劣化(細かな亀裂など)は、確かに見た目は悪いかもしれませんが、建築の構造や雨水の浸入など住宅品質確保促進法や、瑕疵担保履行法などで問題となる項目と見た目とはやや評価が異なっていることから、誤解されているようなこともあります。


図3 基礎と化粧モルタル

 この手の誤解の代表が亀裂です。ガイドラインでは、構造上問題とする亀裂の幅は5ミリメートルを目安にしています。ただ、基礎で言うと、多くの住宅の基礎では、表面に化粧のためのモルタルを塗っています。そのモルタルの割れだけの場合は、構造上問題とまでは言えません。しかし、施主の立場から見れば、「割れている」イコール「亀裂」ですから、基礎が割れているのではと不安になると思います(図3)。


 この場合、専門家は、基礎構造そのものの亀裂ではないことを確かめ判断して、その周辺を叩いて、その打音が軽いからこれは表面のモルタル化粧が浮いているだけと説明し、構造的には問題がないと思われますと説明します。


 しかし、外壁の亀裂となると、モルタル自身が防火構造など必要な性能ですので、多少の亀裂も大丈夫とは言えません。


 もう一つ誤解されやすい事例は、シーリングの劣化判断です。耐震診断やリフォームの相談会の機会に、施主の方から、「まちを巡回しているリフォーム業者からサッシなどと外壁の間にあるシーリング材の表面を爪で押さえると爪痕が残るぐらい柔らかくなって劣化しているのでやり替えた方が良いと言われたが、本当にそうなのか」という質問をよく受けます。この答えは反対で、サッシと外壁では熱などで膨張などを生じるのですが、それぞれ微妙に異なった動きをする関係から間の防水や防火の目的で埋めてあるシーリング材は、柔らかいことが重要で、爪痕が残りその後元に戻ってくれば安心で、逆に硬ければ問題ありということなのです。


 制度研修をきちんと受けた専門家は、これらの現象などについても理解したうえで調査していますので、その点では安心です。「既存住宅インスペクター制度」は始まったばかりですので、現場での問題によっては、これからまだまだ若干の変更があると思いますが、中古住宅を購入しようとする買主にとっての目安になり、売主にとっては一定の価値ある住宅の証になると思います。


 さらに今後はこの制度に加えて、耐震性能、省エネルギー性能上の評価基準が制度化され、性能上評価されている住宅が、流通上も価値のある住宅として評価されることになることは確かだと思います。


[2014/4/2]

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住まい創りのプロデューサー 荒尾 博

一級建築士、FP(ファイナンシャルプランナー)、インテリアプランナー、ビル管理士、横浜市木造住宅耐震診断士、神奈川県福祉のまちづくりバリアフリーアドバイザー、民間地震対策研究会主幹会員、地震防災と高齢社会住環境に興味あり。


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