日本経済新聞 関連サイト

住宅サーチ for Premium Life

住宅最前線 こだわリポート

業界紙出身のベテラン記者・牧田司氏の独自取材記事。街づくり、団地再生、震災復興などがテーマ。愛情あふれた辛口コメントに注目です。本コーナーの記事内容に対するお問い合わせは「RBAタイムズWeb版」までお願いします。

宅建主任者を宅建取引士に昇格させる意味が全く分からない

「士」の印籠を振りかざすのかイチジクの葉っぱか

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • この記事をmixiチェックに追加
  • この記事をtwitterでつぶやく


 宅地建物取引主任者(宅建主任者)を「宅地建物取引士(宅建取引士)」に“昇格”させる議員立法を自民党が作成中であることを業界紙が報じた。手元に法案に関する資料がないからよく分からないが、現行の試験制度はそのままにし、宅建取引士に公正かつ誠実に行う義務を課し、信用失墜行為の禁止などを求め、能力向上に努める規定を新たに設けるようだ。そのための宅地建物取引業(宅建業法)の一部を改正する法案を今国会に提出するという。


 宅建主任者を宅建取引士に昇格させる話はずいぶん前からあったので驚きはしないが、どうして現行の宅建主任者を「士」にしなければならないのか、その理由が全く分からない。宅建主任者の資質を向上させるため、現在、約90万人いる宅建主任登録者の資格をはく奪・ご破算して再試験を行うというのなら意味はあるが、名称だけ変更し、新たな「士」に何を求めるのかが分からない。


 名称を「士」に変えたところで、山積する問題の解決につながらない。むしろ「士」を隠れ蓑にした新たな儲け先を企図する陰謀ではないかと勘ぐらざるを得ない。


◇     ◆     ◇


 宅建業界の現状を概観するとこうだ。この数字を見るだけでもどうすればいいかの課題も見えてくる。


 国交省のデータによると、平成25年3月末の全国の宅地建物取引業者(宅建業者)の数は約12万業者だ。平成4年の約14万業者から14.1%減少している。このうち約85%が5人未満の業者で、従事者は約52万人。


 記者は、この宅建業者の数は極めて多いと思っている。街の商店などはどんどん姿を消しつつあるのに、宅建業者はしぶとく生き残っている。個人業者の平均年齢はずっと右肩上がりだ。24年度は63.9歳だから、あと1~2年には高齢者人口に仲間入りするのは間違いない。


 総務省の平成18年度のデータによると、いわゆる街の不動産屋さんと呼ばれる「不動産賃貸・管理業」は約25.5万で、420の事業分類でトップに君臨している。「食堂・レストラン」の約23.5万、「医療業」の約23.3万、「教育・学習支援業」23.2万、「バー・キャバレー」の約15.2万などをしのぐ。


 一方、宅地建物取引主任者(宅建主任者)の平成24年度末の登録者数は約90万人で、平成14年の約71万人と比べると27.0%増加している。


 宅建主任者も多い。主任者登録者のうち仕事に従事している専任の取引主任者は約20万人で、1業者当たりの平均取引主任者数は1.6人だ。宅建主任者の資格者が90万人もいるのだから、資質はともかく人数に不足をきたすことはないはずだ。問題は質だ。この資格者を含め不動産業界で働く人がすべて社会から評価されるようにするのが先決だ。


 また、平成23年度の宅地建物取引業法(宅建業法)違反は免許取り消し216件を含む358件で、そのほかに勧告・指導を行ったものが793件ある。違反、勧告の数値はこの10年間でほとんど横ばいだ。


 この数が多いのか少ないのか。記者は判断できる材料がないが、以前と比べれば違反件数は激減したのではないか。バブル崩壊前は、都内などのミニ開発の建売住宅の大半は違反建築だった。違反を摘発するパトロールが行われたが、これなどは「違反に厳しく対処している」というアリバイづくりでしかなかった。


 違反は減ってはいるが、詐欺師そのものの不動産投資の勧誘を行うあくどい業者が後を絶たない。資産などまったくない記者の自宅に電話してくるくらいだから、「振り込め詐欺」と同じ被害者がいなければいいがと心配している。


 宅建主任者が取得しなければならない宅地建物取引主任者資格の試験(宅建試験)もなかなか理解しづらい制度だ。


 受験資格に年齢制限がないため、過去の最年少合格者は小学6年生だし、最高齢者は90歳のおじいちゃんもいた。宅建主任者は、単に重要事項の文章を読んで聞かせるだけではない。相手に理解させるのが目的だ。小学生や高齢者でも合格できる制度が適当かどうか考えるべきだ。ペーパーテストのみで資質まで見抜こうとするからこうなる。記者は、20年くらい不合格になっても「俺がルールブックだ」と豪語した立派な営業マンを知っている。


 合格点も一定していない。本来、資格試験は一定の資質を問うものだから、試験の難易度は一定であるべきだが、そうなっていない。毎年のように合格基準は変わる。平成2年は50点満点のうち26点で合格という国家資格の格を問われる失態をやらかした。逆に不動産不況で需要が減退したときは、36点でないと合格できなかった年もあった。一定の合格者を確保したい各都道府県関係者と、一定のレベルを確保したい試験機関が綱引きをするからこのような結果になる。試験が形骸化し、調整弁の役割しか果たしていない現実がここにある。


 過去の試験問題が参考にならなければ、受験者も講習屋もパニックになる。とくに過去問題を必死で取り組んでいる受験者にとっては災難だ。


◇     ◆     ◇


 記者は、そんな呼称の変更よりも現行の宅建業法を徹底させることが重要だと思う。


 宅建業法の第1条では、「この法律は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする」と高らかに宣言している。この目的の実践あるのみだ。


◇     ◆     ◇


 「士」について参考になる、沖縄の泡盛を「全国区」にし、中小企業研究の第一人者として知られる明治大学名誉教授・百瀬恵夫氏の文章を紹介する。


 百瀬氏は共著「『武士道』と体育会系 <もののふの心>が日本を動かす」(発行:第三企画出版)で「『武士道』とは、日本人が長い歴史をかけて磨き上げてきた『もののふの心』というべき精神性の基盤である。残念ながら、現在は『武士道』精神に代表される日本人の伝統ある美しいならわしが大きく損なわれてしまった。…それが、多くの社会問題の原因ともなっているのは疑いない」「先見性に富み、潔く、清々しい心を持つ日本人はどこへ行ってしまったのか。『もののふの心』をもう一度見直し、日本人がそこから広く新しい道を切り開いていくことが今、われわれに問われているのではないか」と記している。


◇     ◆     ◇


 ある業界紙のコラム氏は、「『士』への名称変更は、不動産業界で働くすべての人たちが、顧客を決して裏切らないプロフェッショナルになることを誓うような証(あかし)のようなものであろう」と言い放った。


 記者もコラム氏の言うように宅建主任者であろうと宅建取引士であろうと名前はともかく、真に「士」のように崇められるプロになってほしいと願う。しかし、今検討されている問題は、「士」の印籠を振りかざし、イチジクの葉っぱのように恥部・暗部を覆い隠し「身の証」を立てようという狙いが見え隠れする。「顧客」とはいったい誰のことかも書いてほしかった。


[2014/4/30 提供:RBAタイムズWeb版]

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • この記事をmixiチェックに追加
  • この記事をtwitterでつぶやく


RBAタイムズ 牧田司

第三企画(東京・新宿)が発行する住宅・不動産業界情報紙「RBAタイムズ」編集長。記事の大半を自身で取材・執筆している。月1~2回の紙面発行に加え、「RBAタイムズWeb版」で随時ニュースを配信中。紙面は住宅・不動産業界の親睦と発展を目的に業界関係者に無料配布しているが、広告を一切掲載せず、(第三企画も含めた)特定企業の利害にとらわれない編集方針をとっている。


牧田編集長から住宅サーチ読者へのメッセージはこちら


バックナンバー


※正しく表示されない場合はしばらくお待ちいただくか
こちらのリンクをクリックしてください

 

このサイトについて

日本経済新聞社について