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住宅最前線 こだわリポート

業界紙出身のベテラン記者・牧田司氏の独自取材記事。街づくり、団地再生、震災復興などがテーマ。愛情あふれた辛口コメントに注目です。本コーナーの記事内容に対するお問い合わせは「RBAタイムズWeb版」までお願いします。

事実の報道とは何か 絶対的、客観的事実はあるのか

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 住宅ジャーナリスト・櫻井幸雄氏が3月20日付「週刊住宅」のコラム「先端を読む」で、「住友不動産が週刊誌の記事に対して抗議を行い…事実に反する記事内容を正し、デジタル版にも掲載されていた記事を削除させた」と書かれている。


 独断と偏見に満ちた際どい記事を書いている記者はドキリとし、早速、件のマンションについての同社の告知を読んだ。同社はそのマンションが値下げされたかのように書かれた記事を「何の裏付けもないにも関わらず読者の耳目を集めようとした悪質な記事」として、「誤報」した週刊誌に抗議し、該当部分の記事を削除させたとしている。


 同じような週刊誌の「誤報」は過去にもあったような気がする。週刊誌の記者が値下げの有無を確認していればよかったのに、それを怠ったために「誤報」となった。初歩的なミスを週刊誌記者は犯したということだ。「悪質」と言われても仕方ない書き方だ。


 この問題はそれで一件落着なのだが、ジャーナリズムのはしくれとして毎日記事を書いている記者としても見逃せない問題をはらんでいるので私見を述べたい。


 櫻井氏は「マスコミは本来、間違った情報を流さないよう努力しなければならない。その努力が弱まったのであれば、(住友不動産のように)強い姿勢も必要ということだろう」と結論づけている。


 確かにそうだ。問題は「事実」とは何かということだ。多くの方も指摘されているように、あらゆる事象は事実にもなるし誤報にもなりうる。右から見ればアカで、左から眺めれば暗黒社会になった時代もあるように、記事には書く本人の考え方、思想が色濃く反映される。みんな色眼鏡でものを見ている。自分のモノサシでしかものを測れない。無色透明などあり得ない。その意味では、われわれは間違った記事を書き続けているともいえる。


 つまり、絶対的な客観的な事実は結局ないということだ。記事は脚色せず事実だけを書かなければならないとすれば、官報のようなものばかりになる(官報も正確に事実を伝えているかどうか疑問だが)。ニュースリリースはコピー&ペーストで済む。しかし、そんなものが果たして読まれるか。書いた本人の視点、フィルターを通して書くから記事は読まれる。それを否定するのはファッショだ。


 ただしかし、先にも書いたように記者の色眼鏡によって「事実」がゆがめられることもある。ジャーナリズムに身を置く者は耐えず自らの立ち位置を検証し、日々生起する事象をしっかり分析して伝えないといけない。ペンは凶器にもなる。


 分かりやすい事例を示そう。かつて一般新聞(全てではないが)は銀座のクラブのママさんが殺害されると決まって「銀座の美人クラブママ」と美人という代名詞をつけて書いた。絶対的美人がいないように美人であるか否かはひとそれぞれによって異なり絶対的美人などいないのに、異論を唱える人はいなかった。事実とか常識などというものはそのような危うさもあるということだ。


 かく言うわたしも同じような記事を書いた。ついこの前、三井不動産レジデンシャル「パークコート一番町」のモデルルームの美しさにほれ込んだのだが、ボキャブラリーの乏しい記者は困り果て、異論・反論があるのを承知で「女優に例えるなら吉永小百合さんか八千草薫さんクラスだ」と書いた。今のところ三井さんからも吉永さん、八千草さんからも、モデルルームをコーディネートした芦原弘子さんからもクレームがない(もちろん吉永さん、八千草さんには了解は得ていないが、芦原さんの事務所には「ぜひ読んでください」と伝言を頼んだ)。これは事実ではないが、これくらいの脚色は許されると思う。


 これはわたしも含め同業の記者が考えなければならないのだが、われわれは正確に「事実」を伝えているかという問題だ。正直に言えば、これははなはだ怪しい。


 例えば各社が行う見学会のルポ記事。その際、心掛けなければならないのは記者の目から読者に何を伝えるかだ。主催者の発信する情報(事実)だけを伝えるだけでは、読者が知りたい情報(事実)を伝えることにはならない。無色透明の何のポリシーも持たず書く記事は読者の共感を呼ぶことはできない。記者は“記事はラブレター”をモットーとしているが、いつも意識している読者とは恋人のような存在だ。


 マンションの記事であれば、読者が一番知りたいのは価格だ。ところが、価格を未定として公表しないデベロッパーは多い。その主催者の語るあれやこれやの特徴をそのまま伝えたところで、「価格は未定」の記事はただのプロパガンダにすぎないと思う。


 読者が知りたいということではネガティブ情報もそうだろう。これは難問だ。いかに優れたマンションであれ難点はある。これを伝えないのは客観報道にならないとも考えられる。われわれ業界紙の記者はその点で“落第”かもしれない。この問題については機会があればまた書きたい。


 「値下げ」についても一言。かつて不動産は「値下げ」について厳しい規制が設けられていたが、現在は旧価格に×印をつけて新価格を表示するいわゆる二重価格表示が一定の要件付きで認められている。


 いまだに「値下げ」記事が売れると考えているマスコミがいることにあきれるのだが、そんな記事に飛びつく読者も読者だ。自分の人生を左右しかねない一生に一度の大きな買い物になるかもしれないのに、素人記者のいい加減な記事など参考にすべきではない。売れなければ値を下げるのは当たり前ではないか。価格は市場が決める。


 デベロッパーにも注文したい。櫻井氏も指摘しているのだが、以前は良くも悪くも各社の広報担当とマスコミは持ちつ持たれつ親密な関係にあったように思う。かの浜渦氏が強調したように「水面下の交渉」が良好な人間関係を生み、ことを穏便に済ませてきた。


 その是非は差し置くとして、記者を育てる意味でデベロッパーはどんどんマンション見学会・懇親会などを行うべきだ。記者もまた現場に足を運ぶべきだ。現場を見ると見えないものが見えてくる。


[2017/3/23 提供:RBAタイムズWeb版]

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RBAタイムズ 牧田司

第三企画(東京・新宿)が発行する住宅・不動産業界情報紙「RBAタイムズ」編集長。記事の大半を自身で取材・執筆している。月1~2回の紙面発行に加え、「RBAタイムズWeb版」で随時ニュースを配信中。紙面は住宅・不動産業界の親睦と発展を目的に業界関係者に無料配布しているが、広告を一切掲載せず、(第三企画も含めた)特定企業の利害にとらわれない編集方針をとっている。


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