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第164回 東京都が新たな地震想定を公表 湾岸マンション購入にちょっと待った!

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 怖いもののたとえとして、これまでは「地震」「雷」「火事」「おやじ」という表現が使われていたが、昨年の3月11日を境に、この言葉は「地震」「津波」「液状化」「原発事故」へと変わった。政府の発表によると4月17日現在、東日本大震災の死者と行方不明者、負傷者を合わせた人的被害は2万4943名に達し、全壊と半壊、一部損壊を合わせた建築物被害は合計で108万8377戸に及ぶ。1年以上が経過しているにもかかわらず、いまだ全国で34万4477名が避難生活(親族や知人宅、公営住宅なども含む)を余儀なくされている。


 東日本大震災は住宅市場にも爪あとを残し、今年(2012年1月1日時点)の公示地価は液状化や津波の影響で地価が大きく変動した。液状化の被害がなかった千葉県浦安市の元町エリアでは3.7%の下落にとどまった一方、被害があった中町や新町エリアでは10%を超える下落率を示した地点があった。


 こうした二極化の傾向は被災地でも見られており、津波による被害が大きかった宮城県の沿岸部では10%を超える下落が見られたものの、浸水を免れた高台地区や被害が軽微だったエリアは被災住民の移転需要から地価は大きく上昇。たとえば、宮城県石巻市の住宅地では60.7%もの上昇を示した地点があった。宮城県全体では住宅地が0.7%下落していることを考えると、愚直なまでに津波の影響が地価に反映されているのが分かる。震災の爪あとが地価をも上下させたのだ。


 そうしたなか、新たな地震リスクがその切迫性を強めている。4月18日、東京都が首都直下地震などによる東京の被害想定を全面的に見直し、結果を公表した。その内容は最大震度7の地域が出るとともに、震度6強の地域が広範囲に及ぶというものだ。東日本大震災の発生を踏まえ、従前の被害想定の再点検を試みた。


 都心に潜む地震リスクについては、すでに2010年度の国土交通白書でも指摘がなされていた。高層マンションやビルの増加、地下空間の利用拡大といった都市構造の変化が災害リスクを高めていると分析。高層建築物では長周期地震動による被害やエレベーターでの閉じ込めが多発し、たとえ耐震性が確保されていても電気や上下水道などのライフラインが寸断され、そのうえ、エレベーターが一時的に機能停止してしまうと、高層階では孤立してしまう危険性(マンション難民化)があると警鐘を鳴らす。


 中枢機能が集中する大都会で巨大地震が発生すれば、日本の政治・経済・産業に大打撃を与えるのは想像に難しくない。当然、マンション市場にも被害は及び、“不動産ショック”の再燃を想起させる。復調のきざしが鮮明になるなか、またしても湾岸マンション販売に黄色信号が灯りかねない。今回、発表された東京都の被害想定をもとに、住宅選びの基準を再び考え直す必要があるのだ。南関東でマグニチュード7クラスの地震が、今後4年以内に起こる確率は70%に高まった可能性がある(東京大学地震研究所)。震災リスクは“現在進行形”であるとの認識に立ち、マンション選びの常識を今一度、見直す必要があるだろう。


東京湾北部地震が発生すると、死者数は阪神淡路大震災の1.5倍に

 今回、公表された東京の被害想定は客観的なデータや最新の科学的根拠をもとに、2006年5月に報告された前回の被害想定を見直して作成された。起こりうる被害像を科学的知見に基づき分析し、被害を軽減するための実効性ある手立てを検討していくことに重きを置いてまとめられている。


 被害想定では震災メカニズムに応じて4つのバターンが想定されており(表1)、最も被害の程度が著しいことから、しばしば「東京湾北部地震」が4パターンの中心想定例としてメディアなどで取り上げられる。


【表1】首都直下地震などによる東京の被害想定(概要)
東京湾北部地震
(M7.3)
多摩直下地震
(M7.3)
元禄型関東地震
(M8.2)
立川断層帯地震
(M7.4)
想定地震の型式首都直下型首都直下型海溝型活断層型
人的被害(人)死 者約9,700約4,700約5,900約2,600
負傷者約147,600約101,100約108,300約31,700
合 計約157,300約105,800約114,200約34,300
建物被害(棟)揺 れ約116,200約75,700約76,500約35,400
火 災約188,100約63,800約108,100約50,300
合 計約304,300約139,500約184,600約85,700
帰宅困難者(人)約517万

※被害の前提条件:冬の夕方6時・風速8メートル/秒


 その東京湾北部地震では約9700人の死者数が想定されており、同じ内陸型の首都直下地震だった1995年の阪神淡路大震災(死者6434人)の1.5倍相当の人数が犠牲になるとされている。地震を引き起こすプレートの境界面が従来予想より最大で約10キロメートル浅いことが、文部科学省のプロジェクトチームの調査によって判明したためだ。当然、震源が地上に近づけば、その分、地震動が強まるのは無理もない。


海溝型の地震なら、東京湾沿岸でも最大高2.6メートルの津波

 今回、筆者が特に注目したのは新たな被害想定として「元禄型関東地震」が追加された点だ。昨年3月の東日本大震災は、震災メカニズムが宮城・福島県沖(=日本海溝)を震源域とする海溝型の地震だった。実は、新しく追加された「元禄型関東地震」も同じく海溝型タイプの地震を想定しており、一般に海溝型地震は津波を伴う可能性が高いことから、今回の見直しで新たに追加されることとなった。


 実際、1703年に房総半島沖で発生した元禄関東地震は大規模な津波を伴い、南関東と東海地方沿岸部に甚大な被害をもたらした。今回の東京都による被害想定では、東京湾にも津波が襲来する可能性が指摘されており、東京都品川区の沿岸では最大2.61メートルの津波が想定されている。また、大田区では津波で1108棟の建物が全半壊する想定だ(表2)。津波が河川を遡上することによる浸水被害が原因と考えられる。湾岸マンション販売に黄色信号が灯りかねないことが、ご理解いただけるだろう。


【表2】元禄型関東地震が起こった場合に想定される主な都内湾岸エリアの津波被害
湾岸エリア中央区港 区品川区大田区江東区江戸川区
最大津波高2.39m2.47m2.61m2.27m2.55m2.11m
建物の全半壊棟数506棟48棟122棟1,108棟270棟222棟

※水門閉鎖の場合


 さらに、水災という意味では今回の被害想定では液状化の被害もシミュレーションされている。23区東部では軟弱地盤が厚く堆積し、地震動が増幅されやすいため、液状化の被害が発生しやすいのだ。東日本大震災で経験したように、液状化は建物自体に損傷がなくても、電気やガス・水道、エレベーターといったライフラインに被害が及ぶことで日常生活を困難にする。


 たとえば上水道の断水率を見ていると、最も被害が大きいのが元禄型関東地震の45.2%だ。全体の半数近くの住戸が断水する計算になる。また、電力の停電率は東京湾北部地震が17.6%となり、およそ5世帯に1世帯の家庭が停電を余儀なくされる。同じく、エレベーターの停止台数も東京湾北部地震が最多だ(表3)。送電がストップすれば自家発電装置を装備していない限り、エレベーターは動かなくなる。高層マンションではマンション難民の心配が、さらに高まる。


【表3】東京湾北部地震で想定される東京の液状化やライフラインの被害
東京湾北部地震多摩直下地震元禄型関東地震立川断層帯地震
液状化の建物被害全壊1,134棟817棟661棟20棟
半壊63,045棟45,428棟36,731棟1,096棟
上水道の断水率34.5%36.9%45.2%37.4%
電力の停電率17.6%8.8%11.8%4.0%
地震によるエレベーターの停止台数7,473台5,130台5,991台2,308台

※被害の前提条件:冬の夕方6時・風速8メートル/秒


湾岸マンションに逆風 「今は買わない」選択も視野に入れておきたい

 今回の被害想定を公表するに当たり、東京都は「東日本大震災の経験を踏まえながら、起こりうる被害をより広くとらえ、防災対策を立案するうえでの基礎資料となるように被害想定を作成した」と基本方針を説明している。筆者は、これからマイホームを買おうという人にも基礎資料として利用してもらいたいと考えている。このテーマを本コラムで取り上げたのも、そうした意図があったからだ。


 話が脱線するが、この大型連休に読者の皆さんはどこかへ出かけただろうか。マイカー族の人は家族で車を利用し、帰省したという人も少なくないだろう。高速道路では渋滞に巻き込まれ、ご苦労されたものと想像する。


 ここで一体なぜ、唐突にゴールデンウイークの話を持ち出したかというと、車で帰省すれば混雑するのは分かりきっている。公共の乗り物を利用したり、あるいは遠出せず近場で過ごせば、せっかくの連休を車内でイライラして過ごすこともない。あえて想定されるリスク(=道路渋滞)に自ら飛び込まなければ、余分なストレスを感じることもなく連休を過ごせる。にもかかわらず、なぜ、車で出かけるのか?―― もう、何を言わんとしているのかお分かりだと思うが、地震の被害想定が公表されている場所にわざわざマイホームを建てるなり購入することは無謀にほかならない。常に危険(震災リスク)が付きまとう。


 もちろん、「ゴールデンウイークしか連休が取れないので……」といった個別事情を抱えている人もいるだろう。それはそれで仕方のないことだが、特段、制約のない人までがあえて渋滞に飛び込む必要はない。津波や液状化が懸念されるエリアのマンションを買うことは危険を伴うのだ。地震や津波で自宅を失っても、住宅ローン(返済義務)はなくならない。被災地の人々は二重ローン問題に苦しんでいる。被災者には申し訳ないが、同じ憂き目に遭ってほしくないのだ。リスクは自分でコントロールできる。これを契機にマイホーム購入の本質を再考し、どう対応すればいいのかベストシナリオ(納得のいく答え)を自分で見つけてほしい。


【首都直下地震等による東京の被害想定】(平成24年4月18日公表)
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/assumption_h24.html



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[2012/5/9]

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住宅コンサルタント 平賀 功一

e住まい探しドットコム代表。ネットを中心に公平・中立なスタンスで「失敗しない住宅選び」のための情報発信を行う。


e住まい探しドットコム http://www.e-sumaisagashi.com/


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