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第143回 どうなる二重ローン問題 復興へ向けて急がれる応急対策
突然だが、マイホームを取得した人のうち、どの程度の人が住宅ローンを組んでいるか、その利用割合をご存じだろうか。国土交通省が行った「平成21年度住宅市場動向調査」によると、注文住宅で67.8%、分譲住宅で83.8%、中古住宅で71.1%の人が住宅ローンを利用して自宅を取得している。さらに借入額を見ると、注文住宅で2390万円、分譲住宅で2856万円、そして中古住宅では1885万円となっており、各世帯、年間で125万~150万円の返済をしていることが明らかになった(表参照)。
| 注文住宅 | 分譲住宅 | 中古住宅 | |
|---|---|---|---|
| 自己資金 住宅ローン 合 計 | 1,746万円(42.2%) 2,390万円(57.8%) 4,136万円(100%) | 1,315万円(31.5%) 2,856万円(68.5%) 4,171万円(100%) | 781万円(29.3%) 1,885万円(70.7%) 2,666万円(100%) |
| ローンの年間支払額 | 130万円 | 150万円 | 125万円 |
| 世帯年収 | 663万円 | 768万円 | 663万円 |
| 返済負担率 | 22.0% | 21.6% | 18.8% |
| 住宅ローン利用割合 | 67.3% | 83.8% | 71.1% |
(出所)国土交通省「平成21年度住宅市場動向調査」
マイホームは金額が高額なだけに、誰しも住宅ローン(分割返済)を組むことは半ば避けて通れないわけだが、近年、この住宅ローンが予期せず事態を引き起こしている。まず、真っ先に思い出されるのが16年前(1995年)の阪神・淡路大震災だ。この時には10万4906棟が全壊し、14万4274棟が半壊となり、およそ1万5000人が二重ローンを背負わされることとなった。また、2005年11月に発覚した耐震偽装事件では、ヒューザーが手がけた耐震強度が2分の1未満の分譲マンション10件が再建への対応を余儀なくされ、その中の1件、「グランドステージ藤沢」(現:ロワール湘南藤沢)では約14億円をかけて建て替えを敢行。2010年3月にようやく完成したものの、住民の追加負担は一世帯当たり約1700万円に達することとなった。
同様に、東京・世田谷の「グランドステージ千歳烏山」(名称変更なし)でも二重ローンを強いられることになり、ある住民は約3800万円の住宅ローンを借り入れて購入後、わずか2年余りで偽装が発覚。その結果、国などの補助を受けても新たに約2000万円のローンが上積みされ、毎月の返済額は15万円から23万円余りに跳ね上がった。
何とも気の毒としか言いようがないわけだが、2011年、またしても同じことが繰り返されようとしている。6月13日現在、東日本大震災による建物被害は全壊が11万1090棟、半壊が8万889棟に達しており、こうした人の多くが二重ローンの危機に直面している。
被災3県の雇用情勢を見てみると、4月の新規求人数は岩手が前月比40%増(7987人)、宮城が同72%増(1万5223人)、そして福島が同65%増(1万1633人)と、大幅に増加した。しかし、仕事内容はがれきの撤去や仮設住宅の建設などが中心となり、希望職種とのミスマッチによって被災者の方々の収入は不安定なままだ。日本赤十字社と中央共同募金会には合計で約2800億円(6月17日現在)の義援金が集まっているそうだが、いまだすべての被災者には行き渡っていない。被災者にとっては“頼みの綱”であり、最も優先されなければならない。にもかかわらず、時間ばかりが過ぎていく。震災から3カ月以上が経った今、スピードを意識した業務遂行が求められる。
そうした中、ようやく1つの動きが見え出した。政府が二重ローン問題への対応策を示した「二重債務問題への対応方針」を6月17日、取りまとめた。過去の“過ち”を繰り返さないよう、反省の念に立った施策といえる。はたして、この方針により住宅ローンを抱えた被災者の肩の荷は軽くなるのか?―― 本コラムでは個人向け住宅ローンに話を限定し、その有効性を検証してみることにする。
■金融機関と被災者の利害調整を円滑化するのが「個人向け私的整理ガイドライン」
二重債務問題への対応方針として示された内容は以下の通りだ。
<既存(震災前)の住宅ローンについて>
| (1) | 住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)から住宅ローンを借りている人に対しては、支払いの猶予や返済期間の延長、支払い猶予期間中の金利引き下げなどを行う。 |
|---|---|
| (2) | 被災者と金融機関の間で行った住宅ローンの私的整理について、金融機関側が債権放棄により一方的に損失を被らないよう、無税償却などが可能となる方策を検討し、その一環として「個人向けの私的整理ガイドライン」を新たに策定する。被災者にとっては債務免除の可能性が高まる。 |
| (3) | 自宅が完全に滅失しても、残存期間については住宅ローン減税を継続する。 |
<震災後の新規の借り入れについて>
| (4) | 少しでも返済負担が軽減されるよう、融資金利の引き下げや返済期間の延長(元金据え置き期間の設定)が可能な公的融資(災害復興住宅融資)を住宅金融支援機構で取り扱う。 |
今回、示された対応方針で注目すべきは、2番目の「個人向けの私的整理ガイドライン」だ。これまで(阪神淡路や耐震偽装事件)、返済の減免を拒み続けてきた金融機関に対し、債権放棄を促すよう政府として指針を示した点は大いに評価できる。「国難」「激甚災害」という異例の事態において、一方的に弱者(被災者)にすべての責任を負わせることはもはや許されない。
私的整理とは、簡単に言えば当事者間で債権・債務の取り扱いを話し合うこと。この反対が法的整理だ。被災者が自己破産(=破産法による債務整理)してしまえば、金融機関側は抵当権の実行(競売)によるマイホームの換価価値分しか債権を回収できない。それ以前に、そもそも競売に出したところで競落人が現れるはずもない。つまり、被災者の自己破産は貸し手側にとっても必ずしも喜ばしいことではないのだ。期待できる見込み収入を基礎に、私的整理によってリ・スケジューリング(返済計画の練り直し)をしたほうが、結果的に金融機関にとってもメリットになる。どこまで銀行側が受け入れるかは未知数だが、二重ローン問題の解決策としては大きな一歩(前進)といえるだろう。
ただ、課題もある。私的整理では自己破産と異なり、必ずしも債務免除が約束されるわけではない。窮地に追いやられた被災者にとっては納得しがたい部分だ。そこで一時、個人向け産業再生機構のような公的機関を創設し、住宅ローン債権を当該機関に買い取らせるといった案も浮上したが、残念ながら今回の方針には盛り込まれなかった。機構や企業再生ファンドの設立を打ち立てた中小企業向け救済策とは一線を画した格好だ。
「借りたものは返す」―― 極めて当然のことだが、時と場合によっては例外が必要だろう。借り主には借り主としての「自己責任」、他方、貸し主には公共性の強い事業(銀行業)という点から「社会的責任」が課されている。その調和点をどう見い出せるか、この部分が最大のカギとなる。今年5月、全国銀行協会は既存の個人住宅ローン向け対応策として「国による被災した土地の適切な価格での買い上げ」や「既存ローン残高や年収に応じた既存ローンの利子補給・元本返済の公的助成」などを挙げていた。銀行界が様々なサポートを進めていくに際し、公的支援が必要との認識を示した。
震災からの着実な復興のためには、この二重ローン問題を適切に対処することが絶対条件となる。そして、この復興をより確実なものにするには国、金融機関、被災者による利害調整が欠かせない。その合意形成の指針となるのが「個人向けの私的整理ガイドライン」だ。ガイドラインの出来・不出来によって、二重ローン問題のゆくえは大きく異なってくることになる。二度と同じ悲劇を繰り返さないためにも、過去の経験則や従来の枠組みにとらわれず、大胆な発想やアイデアを盛り込んだガイドラインの策定を期待する。
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◇
[2011/6/22]
住宅コンサルタント 平賀 功一

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