改めて今日、日本の多くの地域で都市化や核家族化によって人々のつながりが疎遠になり、地域間はもとより親戚や家族間ですら顔を合わせる機会が少なくなっている現実が浮き彫りになった。東京都足立区や杉並区で都内最高齢者とされる男女の所在不明が発覚したのをきっかけに、各地で所在・安否が確認できない高齢者が相次いでいる。
報道によると、問題の発端となった足立区の男性は生きていれば111歳だそうで、家族は死亡を確認していたにもかかわらず、放置したまま30年近く経過していた。また、杉並区では113歳で都内最高齢とされる女性が住民登録しているアパートに住んでおらず、住民票上では本人と長女が同居していることになっているものの、長女は「杉並に引っ越した時から一人暮らしをしている」と話しているという。さらに、大田区では生きていれば104歳の高齢女性の白骨遺体が見つかった。死亡届を提出せず、同居する長男が老齢福祉年金を自分の生活費に使うという、年金の不正受給問題にまで騒動が広がっている。
「年齢は取るものではなく重ねるもの」―― ある女流詩人の言葉だ。「長寿」という語句があるように、長生きはおめでたいものでなければならない。にもかかわらず、現実に浮かび上がったのは希薄化した長寿社会。不在高齢者問題は、われわれに「家族とのつながり」や「地域とのかかわり」といったコミュニケーションの在り方を問い掛けている。
高齢者になればなるほど活動範囲は狭まり、マイホームが生活する上での中心となる。マイホームは生活の基盤。その生活の基盤が安定せずして、良好な家族関係は構築されない。もはや高齢者福祉と住環境は切っても切れない関係になっている。そこで、本コラムでは「福祉住環境」という考え方を織り交ぜながら、分譲マンションが抱える問題と解決策について考えてみることにする。住民の積極的な参加による福祉文化の創造が、今まさに求められようとしている。
■高齢者が最も望むことは、要介護状態になっても住み慣れた自宅に住み続けること
思い起こせば5年ほど前になるが、筆者の身近なところでも長寿社会の「影」を思い知らされる出来事があった。東京都内の築30年(当時)を経過したマンションでのことだ。ある1室で5日前から玄関ポストの新聞受けに新聞がたまったままになり、室内に人の気配はなかった。隣人やマンションの管理員も気にはしていたが、旅行にでも行っているのだろうと思い、そのままにしていた。すると、近くに住むその部屋の住人の弟さんから連絡があり、突然の訃報を聞かされることとなった。その部屋には女性の高齢者が1人で暮らしていたが、ひっそりと室内で病死していたのだ。すでに息を引き取ってから1週間近くが経過しており、誰にも看取(みと)られることなく、その生涯に幕を降ろした。亡くなった人は知り合いで親族ではなかったが、孤独死は決して他人事ではないことを身をもって実感した次第だ。
内閣府が今年4月に公表した「高齢者の地域におけるライフスタイルに関する調査」によると、調査協力した60歳以上の42.9%が孤独死を身近に感じると答えている。さらに「60歳以上」かつ「1人暮らし」になると、その割合は64.7%にまで拡大(下図参照)する。加えて、健康状態が良くない人ほど孤独死を身近に感じていることも分かった。
| 孤独死について身近な問題だと感じますか?(世帯累計別) |
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※「孤独死を身近に感じる」とは、「非常に感じる」と「まあまあ感じる」の合計 (出所)内閣府「高齢者の地域におけるライフスタイルに関する調査(平成21年度)」 |
誰しも高齢になると始まる老化現象。時間にも生活にもゆとりがあり、退職後のセカンドライフを悠々自適に暮らす元気なアクティブシニアがいる一方で、加齢による身体機能の低下により日常生活も思い通りにならず、身内の介助やホームヘルパーなどの支援によって毎日を過ごす高齢者も出てくる。そうした中、いつかはやって来る「老い」に対し、多くの高齢者は介護が必要になっても自宅で生活し続けたいと望んでいる。なぜなら、最大の理解者かつ介助者である家族と一緒に住み慣れた我が家で暮らしたいからだ。個人が人としての尊厳を持ちながら、自宅で自立した生活が送れることがとても重要になる。こうしたストレスの少ない在宅生活の実現こそが福祉住環境の原点なのだ。
■「自助」「共助」「公助」の相互連帯で、高齢者の住環境整備を促進させよう
ここで、マンション(区分所有建物)という居住形態について考えた場合、マンションは区分所有者全員が共有する「共用部分」と本人が自由に使える「専有部分」が存在するため、どうしても一戸建て住宅ほど自由なリフォームはできない。「バリアフリー対応」とうたっているマンションもあるが、必要とされる改修内容は本人の残存能力に始まり、軽減してほしいと思っている介護負担の程度や家族状況によっても千差万別だ。一様に段差を解消し、手すりを付けたレベルで問題が解決するほど簡単な話ではない。そういう意味では、マンションという住居形態は高齢者などが住みにくい側面を有している。国策として「長く大切に使っていこう」と住宅政策を打ち出した中にあって、可変的な対応が早急に求められる。
それなら、「マンションを買うことは、その地域を買うこと」というように、地域全体で高齢者を支えることは可能だろうか。地域福祉の考えのもと、地域社会が連帯して高齢者の住環境整備に取り組もうという発想だ。地域には老若男女、あらゆる世代の人々が住んでいる。そうした人たちが協力し合えば、大きな効果が期待できる。先の不在高齢者問題では民生委員がクローズアップされた。民生委員とは厚生労働大臣の委嘱を受け、ひとり暮らしの高齢者に対する援護活動などを行う人たちだ。現在も地域社会の福祉向上に向け、様々な取り組みを行っている。
人間関係が希薄化する原因の1つとして、他人と付き合うことの煩わしさが挙げられるが、多様な価値観を持つ世代が交流を深めることは受ける感動も多い。災害の場面ではしばしば「自助」「共助」「公助」の精神が取りざたされるように、高齢者問題も同様に、“3助”の連携が重要になる。「小さな自治体」とも言われるマンション、その規模は高層化・大規模化によってどんどん巨大化している。多くの世代が限られた空間を共同所有するという意味では「大家族」なのがマンションだ。長男が生まれたばかりの三男のおむつを交換するように、共生・協働によってマンション内の高齢者問題は解決が可能だ。子供から高齢者まで多世代が支え合い、安心して暮らせるマンション ――。こうしたマンションが一刻も早く誕生することを切に願うばかりだ。
(住宅コンサルタント 平賀 功一)
[ 2010年8月25日 ]
住宅コンサルタント 平賀 功一氏
「マイホーム選びの基準」とは一体何だろう? 世間ではマンションブームといわれる一方、地震や台風の災害リスク、金利上昇懸念やリストラによる返済リスク、さらに欠陥住宅といった構造上のリスクなど、夢のマイホームが悪夢に変わるおそれは少なくない。このことは、マンション購入に関する「成功の方程式」が見えにくくなっていることの表れであり、こうしたリスクを回避するには“トレンド”を読むことが欠かせない。敵(=時代の潮流)を知らずして、正しい戦略は立てられないからだ。
そこで、はじめてのマンション購入のヒントとなるよう、時代をとらえた“旬”な話題をコラム形式でお届けしよう。
e住まい探しドットコム(http://www.e-sumaisagashi.com/)代表
ネットを中心に公平・中立なスタンスで「失敗しない住宅選び」のための情報発信を行う。
日経住宅サーチ「マンション管理サテライト」でも連載中。
ファイナンシャルプランナー 宅地建物取引主任者