住宅政策が大きく舵(かじ)を切り、良質な住宅ストックの形成へ向けて動き出したのは周知の通り。昨年6月に施行された住生活基本法によって、こうした意識が国策としても鮮明に打ち出された。ところが、いくらロングライフ住宅を目指しても、建物には必ず「寿命」がある。物理的あるいは機能的な劣化に太刀打ちできないのは、鉄筋コンクリートの堅牢住宅といえども例外ではない。そのため、「マンションの末路」=「住めなくなった後に建物をどうするか?」を意識した物件選択が重要な意味を持つようになっており、事実、諸外国では日本と異なった行動が取られている。そこで、日本ではまだまだ馴染みが薄い「末路を加味したマンション購入」について一緒に考えてみたい。
■区分所有権がマンションの末路を阻害する?
分譲マンションが日本に誕生して半世紀。その過去を振り返ると、大正12年の関東大震災が日本の住宅環境を大きく変える契機となったことは疑う余地がない。ご存じのように大震災では、揺れそのものではなく火災による二次災害によって多くの犠牲者が発生。それが契機となって、火災に強い住宅として「マンション」=「鉄筋コンクリート造りの共同住宅」が誕生した。同潤会アパートが大震災の義援金によって建設されたのは有名な話だ。
ところが、その同潤会も老朽化が進み、行く末が危ぶまれたのは記憶に新しい。歴史建造物として保存するかどうか意見が対立する一方で、そもそも建て替えられるのか……根本的な不安は消えることがなかった。さらに、12年前の阪神・淡路大震災や、一昨年の耐震偽装事件でも状況は同じ。原因こそ、老朽化ではなく自然災害や人災といった違いはあるが、住めなくなった住宅をどうするか、区分所有者の悩みは尽きなかった。阪神・淡路大震災による被災マンションでは、建て替え決議の効力をめぐり裁判に発展した例まであったほどだ。
もし、一戸建て住宅に住んでいたら、これほどまでの苦悩を背負うことはなかっただろう。そこには、「区分所有法」という権利の“しがらみ”が暗い影を落としていた。
そこで、平成15年6月に区分所有法が改正され、事実上、5分の4以上の賛成だけで建て替えができるようになった。建て替え要件が大幅に緩和されたことで、建て替えがしやすくなったことは間違いない。
■建て替えを前提にした法整備は諸外国から見れば特異な状態
しかし、その一方で「マンションの末路」=「建て替え」という方程式は必ずしも正解ではないと唱える動きが出ている。富士通総研は「マンションの終末期問題と新たな供給方式」と題された研究レポートの中で、『区分所有権の解消という選択肢を新たに追加すること』を提言している。
前段でも振れたように、マンションの建て替えには多くの困難を伴う。容積率や既存不適格といった法令上の問題から費用負担の問題、さらには各区分所有者の思惑も絡み合い、合意形成に多大な時間と労力を要しているのが現状だ。そこで、同レポートでは「そもそも同じ場所に建て替えようとすること自体に無理がある。建物の寿命が尽きたら別な所へ移り住むのは自然なこと。寿命を迎えたマンションは取り壊し、周辺街区と併せて、その時代に合った適切な土地利用がなされるのがふさわしい」と結論付けている。
確かに他国と比較しても、“建て替えありき”の発想が日本独特であることが分かる。たとえば、アメリカでは日本同様、「5分の4決議」という数値を掲げている。しかし、決議される事項は区分所有権の解消についてで、建て替えは想定されていない。ドイツ・フランスもほぼ同じ。アメリカほど区分所有法の解消には積極的でないにしろ、やはり建て替えについては両国とも想定外となっている。区分所有権を引き継いで、マンションを再建築する……このことを「当然」と考えている我々日本人にとっては、新鮮にさえ感じられる内容だ。
<マンション法制の国際比較>
| | アメリカ | ドイツ | フランス | 日 本 |
| 区分所有法の解消 | 事由を問わず、5分の4決議で解消を認める | 一定規模を超えた滅失・損傷の場合に解消請求を認める | 一定の滅失要件により、再建決議とともに解消決議を認める | 全員の一致を要する(民法) |
| 老朽化による建て替え | 予定せず | 予定せず | 予定せず | 事由を問わず、5分の4決議で認める(区分所有法) |
(出所)富士通総研 研究レポート「マンションの終末期問題と新たな供給方式」(2005年9月)
日本人が建て替えを好む理由について、同レポートでは「諸外国と比べた住宅寿命の短さ」と「日本人の所有権へのこだわり」を指摘している。「犬小屋」と言われながらも一家の「大黒柱」になりたがる日本人の住宅感(持ち家主義)が根底にあることを示唆している。マイホームを取得する理由は人それぞれだが、自分のものになるという動機は誰しも共通。「自分のものになる」=「一生涯、住み続けることができる」からこそ、何十年もの住宅ローン地獄に耐えられるわけだ。それが、一定周期で振り出しに戻されるとなれば、抵抗を感じるのは無理もない。
しかし半面、建て替えの苦難から逃れられる魅力も否定できない。マンションがより大規模化・高層化する現状では、長く険しい合意形成から開放されるメリットは捨てがたいのも事実だ。『自分たちの財産をどのように未来へ承継していくか?』…今後、こうした視点に立ったマンション選びが、ストック重視を掲げる日本の住宅市場において新機軸となるべきなのだろう。所有権でありながら“利用権”的な権利形態を日本の住文化が受け入れられるかどうか、変革の時期に差し掛かっているといえそうだ。
(住宅コンサルタント 平賀 功一)
[ 2007年3月14日 ]
住宅コンサルタント 平賀 功一氏
「マイホーム選びの基準」とは一体何だろう? 世間ではマンションブームといわれる一方、地震や台風の災害リスク、金利上昇懸念やリストラによる返済リスク、さらに欠陥住宅といった構造上のリスクなど、夢のマイホームが悪夢に変わるおそれは少なくない。このことは、マンション購入に関する「成功の方程式」が見えにくくなっていることの表れであり、こうしたリスクを回避するには“トレンド”を読むことが欠かせない。敵(=時代の潮流)を知らずして、正しい戦略は立てられないからだ。
そこで、はじめてのマンション購入のヒントとなるよう、時代をとらえた“旬”な話題をコラム形式でお届けしよう。
e住まい探しドットコム(http://www.e-sumaisagashi.com/)代表
ネットを中心に公平・中立なスタンスで「失敗しない住宅選び」のための情報発信を行う。
日経住宅サーチ「マンション管理サテライト」でも連載中。
ファイナンシャルプランナー 宅地建物取引主任者