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第80回 買ったマンションの売り主が倒産したら? 民事再生法の仕組み(企業再生編)

 「夢のマイホーム」と言われるように、住宅取得は生涯の中で結婚や出産と並んで、喜ばしい出来事でなければならない。しかし、今日ではマンション不況が災いし、「売り主の倒産リスク」という新たな懸念材料が現れてきた。

 思い起こせば2003年3月、マンション分譲中堅のセザールが経営破綻した際、契約はしたものの引き渡しを受けていない新築マンション購入者が487人いた。セザールが受け取っていた手付金は約17億円。単純計算で、契約者1人当たり約350万円もの金額(債権)が一般債権として扱われ、減額の危険にさらされることとなった。この出来事は、売り主の経営安全度を確認する必要性を痛感させると同時に、建物が未完成の段階で売買契約しなければならない「青田売り」の怖さを露呈した騒動だったともいえる。そこで、売り主が民事再生法の適用を申請した場合、その後、契約者はどうなってしまうのか? 想定されるケースをもとに、考えられるシナリオを描くことにする。

■売り主の破産に対して、販売広告を掲載した新聞社が買い主から訴えられる

 「倒産の連鎖はいつまで続くのか?」―― 誰もが、こうした疑問を持っているに違いない。今春から目立ち始めた不動産業者の経営破綻は、今秋になっても収まる気配を見せない。むしろ、さらに悪化しそうな勢いで、販売不振および金融機関による融資態度の硬化というダブルパンチを受けた不動産各社は、体力疲労(経営難)により自力再建もままならず、民事再生法の適用申請という末路を迎えている(文末参照)。「売り主の倒産リスク」という新たな懸念材料が顕現化した理由が、まさにここにある。

 こうしたリスクに対し、買い主側には一体どのような対抗手段があるのだろうか? 以下に、興味深い裁判例を1つ紹介しよう。時は昭和44年(1969年)、今から40年近く前の話だ。買い主が倒産企業の広告を掲載した新聞社を訴える――という裁判が起こされた。

 訴えを起こしたのは、とある青田売りの分譲マンションの契約者5人。大手新聞社3社の発行する各新聞に当該マンションの広告が掲載されており、この広告を見て昭和44年の秋、原告5人は購入契約をした。ところが翌年、分譲主に出資法違反の疑いが浮上し、その結果、宅建免許が取り消され、昭和46年に分譲主は破産宣告へと追いやられた。原告はマンションの引き渡しも手付金の返還も受けることができなくなり、広告を掲載した新聞社に損害賠償を請求することとした。訴訟理由は次の通りだ。

 (1)新聞社と購読者の間には「情報提供契約」が締結されており、この契約に基づき新聞社は購読者に対して瑕疵(かし)のない情報を提供すべき義務を負っている。ところが、今回、広告内容にある建物の竣工・引き渡しは実現されなかった。その点において新聞社は広告内容の調査確認を怠ったことになり、このことは情報提供契約に対する債務(契約)不履行に該当する。

 (2)新聞社は青田売りマンションの広告を掲載する場合、広告主である業者に広告内容を実現するだけの能力があるか否かを前もって調査し、引き渡し能力に欠けるおそれがあるときは広告掲載を拒否するなどの注意義務を有する。しかし、今回はこうした義務を怠っており、不法行為に基づく損害賠償請求事由に該当する。

■広告内容の真実性まで前もって調査確認する義務は負わない 東京高裁判決

 原告にしてみれば、苦肉の策だったのだろう。しかし、司法の判断は原告には歓迎しがたいものだった。第一審の東京地方裁判所では、原告の請求はすべてしりぞけられてしまった(東京地裁 昭和53年5月29日判決)。そのため、続いて東京高等裁判所へと控訴。売買契約からおよそ10年、ようやく以下の判決が言い渡された(東京高裁 昭和59年5月31日判決)。

(1)新聞広告について新聞社と購読者の間に、その内容の信頼性を担保するよう何らかの契約を締結しているとみることは無理がある。よって、本件広告につき新聞社の契約責任はない。
(2)本来、広告は取引について1つの情報を提供しているにすぎず、読者が広告を見たことと広告にかかる取り引きをすることとの間に必然性があるとはいえない。そのため、新聞社は広告掲載にあたり、広告内容の真実性をあらかじめ十分に調査確認した上でなければ広告を掲載してはならないとする一般的な法的義務までは負わない。以上により、控訴人らの主張は失当である。

 原告には気の毒かもしれないが、妥当な判決だったと筆者は考える。本来、怒りの矛先は売り主に向けるべきであり、新聞社へ向けたのは筋違いだった。ただ、当時は不動産取引に関する消費者保護の仕組みが今ほどは整っていなかったのも事実。世の中に一石を投じたという意味では、勇気ある行動だったと評価したい。

■建設工事が中止されても、手付金は全額戻らない可能性がある

 さて、40年後の現在、買ったマンションの売り主が倒産したら、契約者はどうなってしまうのだろか?―― 続いて民事再生法をもとに、その流れを見ていくことにしよう。売買契約後、引き渡し前に売り主が民事再生手続きを申し立てた場合、「マンションの建設工事が継続されるか?」あるいは「中止になるか?」で買い主の対応は分かれることになる。

 まず、スポンサー企業が見つかる、あるいは施工業者が自ら売り主になるなど、工事が継続されて引き渡しに向けた努力がなされた場合、特段、売買契約上の権利義務関係は変動しない。そのため、予定通り引き渡しを希望するのであれば「契約解除できるか?」「手付金は戻ってくるか?」といった問題は発生しないことになる。唯一、引き渡し日が遅れるといった心配は想定されるが、致命的な損害に至らなかった分、高い“授業料”を払わなくて済んだことを好感すべきだろう。運が悪かったと割り切るのが一番だ。

 むしろ、心配なのが引き渡しを希望しない場合だ。工事は継続されるのに引き渡しを希望しないとなると、手付金の取り扱いが気にかかる。民事再生法では「双方未履行」といって売り主も買い主も契約の履行を完了していない場合、売り主にのみ「契約の解除(工事の中止)」または「債務の履行(工事の継続)」を選択する権利が認められている。買い主には選択権が認められていないのだ。そのため、売り主が自ら契約解除を申し出て返金してくれない限り、手付金が戻る可能性はないことになる。手付金の没収(手付け解除)を覚悟しない限り、解決策はないわけだ。そもそも、民事再生法は企業再建を後押しするために誕生した法律。再生企業に優位に作用するのは、こうした根源的な理由に由来する。

 一方、工事が中止された場合には、買い主は売り主または管財人に手付金の返還を請求することができる。ただ、ここでも気がかりなのが、返還される手付金の金額だ。民事再生法では契約が解除(=工事が中止)された場合、手付金(の返還請求権)は「再生債権」といって、弁済順位の高くない債権として取り扱われる。そして、再生債権は特別の場合を除き、再生計画に基づいてしか弁済されない決まりになっている。そのため、なんらかの保全措置を講じていれば手付金は全額取り戻せるが、そうでない場合はほかの債権者との奪い合いも考えられる。要は、全額返還は難しくなるわけだ。

 買い主側には落ち度がないにもかかわらず、損害を被ってしまう現実。―― 改めて「売り主の倒産リスク」を意識したマンション購入が不可避となるだろう。不安心理をあおるつもりはないが、これからは売り主の経営安定度にも目を配る必要がありそうだ。

経営破たんした不動産業者の一例
申立日企 業 名上場の有無負債総額
10月31日ダイナシティジャスダック520億円
10月31日康和地所143億円
10月30日ノエル東証二部414億円
10月9日ニューシティ・レジデンス投資法人東京証券取引所1123億円
10月2日エルクリエイトジャスダック60億円
9月29日ランドコム東証二部309億円
9月26日シーズクリエイト東証一部114億円
9月19日Human21ジャスダック464億円
8月29日都市デザインシステム203億円
8月13日アーバンコーポレイション東証一部2558億円
7月29日マツヤハウジング279億円
7月18日ゼファー東証一部949億円
(2008年11月10日現在)

(住宅コンサルタント 平賀 功一)

[ 2008年11月12日 ]


住宅コンサルタント 平賀 功一氏
 「マイホーム選びの基準」とは一体何だろう? 世間ではマンションブームといわれる一方、地震や台風の災害リスク、金利上昇懸念やリストラによる返済リスク、さらに欠陥住宅といった構造上のリスクなど、夢のマイホームが悪夢に変わるおそれは少なくない。このことは、マンション購入に関する「成功の方程式」が見えにくくなっていることの表れであり、こうしたリスクを回避するには“トレンド”を読むことが欠かせない。敵(=時代の潮流)を知らずして、正しい戦略は立てられないからだ。
 そこで、はじめてのマンション購入のヒントとなるよう、時代をとらえた“旬”な話題をコラム形式でお届けしよう。

e住まい探しドットコム(http://www.e-sumaisagashi.com/)代表
ネットを中心に公平・中立なスタンスで「失敗しない住宅選び」のための情報発信を行う。
日経住宅サーチ「マンション管理サテライト」でも連載中。

ファイナンシャルプランナー 宅地建物取引主任者

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