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クリエーターたちの挑戦
Kenichi Kawaguchi
川口健一さん(構造デザイナー・東京大学生産技術研究所 助教授)
ダイナテクチャー(動く構造体)という美学の追究
lead
問「新しい研究テーマである“ダイナテクチャー”とは」
 1964(昭和39)年に竣工した、国立代々木競技場は、当時としては世界的にも類を見ない、高張力による吊り屋根式の大型建築物でした。意匠担当の丹下健三先生、構造担当の坪井善勝先生による、芸術的ともいえるフォルムは、内外から注目を集めました。しかし、このざん新な架構による建築の美しさも、基本的には、テンション(引張力)とコンプレッション(圧縮力)の釣り合いを拠り所として成り立っているのです。

 20世紀は、建築や土木、機械など、それぞれが専門に分かれて発展した時代であり、技術的には、行き着く所まで行ったという感があります。しかし、少し視点を変えれば、例えば建築と航空、建築とバイオなど、確立された分野の隙間に近未来の可能性がある。そういう見方で、「ダイナテクチャー」すなわち、「動く構造体」に着目したわけです。例えば、開閉式ドームなどが、その代表です。
ダイナテクチャー概念図
 それを追求するには、従来のアーキテクチャーとは異なる新しい発想を必要とします。今までの建築の延長にあるのではなく、全く新しい発想(思考)を必要としているという意味を込めて、“動く”を意味するダイナミックと、“建築”のアーキテクチャーを合わせて、「ダイナテクチャー」と名付けました。
「ローマ建築のアーチが壊れないのは、実は動いているからである」という説を裏付けるのがこの不安定アーチである。写真左は不安定アーチのエレメント、中央・右は不安定アーチの例
問「世界初のテンセグリティ建築をつくられたそうですね」
 東大生研の藤井 明教授と共同でデザインしました。普通の構造物は、圧縮材が連結して屋根の荷重を分散し、地面に伝えます。ところがこれは、圧縮材に相当する部材がバラバラになっています。圧縮材がお互いに触れ合っていないので、視覚的には不安定でダイナミック(動的)に見えますが、自己釣り合いのバランスによって自立する、非常に不思議な構造物です。これを「テンセグリティ構造」といいます。

 この構造体の命名者は、米国のバックミンスター・フラー(建築家・発明家・哲学者、1895─1983)で、ケネス・スネルソン(抽象彫刻家)との共同開発でしたが、特許はフラーがひとりで取得しています。テンセグリティは、テンションとコンプレッションの釣り合いのバランスが難しいうえに変形が大きいので、アートモニュメントの例はあったのですが、実際の建築物としては実現していませんでした。私たちは、自己釣り合い状態を完全に把握し、自重や風や地震などの応力をきちんと計算し、建築物として、世界で初めて成立させたのです。
「ホワイトライノ」と名付けられた、東大千葉実験所に完成した世界初のテンセグリティ建築物。左はホワイトライノの内観、右上はホワイトライノの夜景、右下は、施工風景と人力によるテンション導入する職人たち
 張力バランスを保ちながらの施工がなかなか大変なのですが、その対策として、職人の手でターンバックルを締めるという、ローテク技術を使うことにしました。ジャッキを使った従来の機械的な施工に頼るのではなく、手作業でつくれたことにも満足しています。現場でテンションを測定し、職人と直接やりとりしながらの施工でしたが、結果的に安く早くつくることができました。世界初の「テンセグリティ構造」による大型構造物を実現したカギは、職人たちの手技だったともいえます。

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