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クリエーターたちの挑戦
Sakuma Toshihiro
作間 敏宏さん(美術家)
死によって生きる群れとしての人間を描く
lead
問「出発点となった“治癒”のシリーズはどのように生まれたのですか」
 美術家として活動を始めたころは、人間の深層心理に強い関心を持っていました。7年間1日も欠かさず夢を記録し続け、自分自身の意識の海に潜って、そこからイメージを持ち帰ろうとしていたのです。昨日が深度50メートルなら今日は100メートル、明日は150メートルの深さまで潜ってやろうと思っていました。

 しかし、それは日常生きている地平とは別の次元に創作の源を求める行為です。続けるほどに息が苦しくなっていくばかりか、見ている人にも伝わりません。無意識に潜むイメージより、誰にでも伝わるサインを手掛かりに創作する必要があると考えるようになりました。
「Healing」1994年、電球・ソケット・電線によるインスタレーション

 ちょうどそのころ奨学金を得て、しばらくニューヨークに身を置くことができました。その時暮らしたのがおんぼろアパートで、しょっちゅう電球が切れるんです。電球がパチッと音をたてて切れるとき、“死”を感じました。たかが安物の電球に、思わず人間の生死を重ねたのです。

 帰国したのはお盆の時期で、家に戻ったら姉が家系図をつくっていました。それを見て、以前は顧みなかった“家族の系譜”と、電球に触発された“死”のイメージがつながりました。亡くなった祖先から今生きている自分、そして子供から孫へ。家系図に連なる命の一つ一つを、光量を絞った電球に託したのです。

 死んだ誰かから生まれくる誰かへと命が受け渡されていくことは、細胞の新陳代謝に似ています。傷ついてできたかさぶたがはがれると、ぴかぴかした新しい肌が現れる。そこで、このシリーズを「治癒」と題しました。

「治癒」1996年、電球・家具によるインスタレーション
「治癒」1995年、電球・布団・ガラスびんによるインスタレーション
 以後、治癒シリーズでは電球をメーンに、家具、布団、ビニールハウスといった、身の回りの物を素材に用いています。どれにも、人それぞれの思い出や記憶がまつわっているでしょう。そこに電球をあしらって見せることで、イメージが喚起されるはずです。

 作品は一方的にメッセージを発信するためのものではなく、相手のイマジネーションを引き出す装置。作り手が考えることと、受け取る人が感じることは違っていて当たり前です。そうとらえることで大上段に構える必要がなくなり、日常生活と創作の分離に苦しまなくて済むようになりました。

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