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クリエーターたちの挑戦
Maebayashi Akitsugu
前林明次さん(アーティスト)聴覚とコンピューターを手掛かりに人間の未知なる知覚を探求する
オブジェや映像など視覚素材を用いたインスタレーションなら、作品のほんの一端なりとも写真に撮って見せることができる。しかし、前林明次さんの作品を構成するものは、主として「音」だ。それも、「音」そのものより、人間が空間を認識する手段としての「聴覚」が主題。鑑賞者は自らの体で作品を「体験」するよりほかないのだ。新しい聴覚体験の場をつくることで、前林さんは何を表現しようとしているのだろうか。
 
問「なぜ、聴覚に関心を持ったのですか」
 出発点は音楽です。かつてはジャズを演奏していて、作曲の道具としてコンピューターを使うようになりました。さらにユニークな音を求めて楽器以外の音を録音し、コンピューターで編集しているうち、音楽よりコンピューターの方に関心が移っていったのです。

 僕にとってコンピューターの面白さは、情報を取り込み、並べ替えて出力する、一連のプロセスにあります。そのプロセスは、人間が持つ知覚のシステムに近似しているように思えます。

 コンピューターなら、入力から出力までのプロセスを自由にデザインできる。それを利用して、人間の知覚をシミュレーションできるかもしれない。そのことで知覚システムを拡張したり、システムそのものを疑うことも可能なのではないか。僕の興味はそこにあります。その素材として、音と聴覚の関係が面白かった。おそらく人間の五感の中でも、未知の部分が大きいのではないかと思うんです。
Radio room 2004年 Palazzo delle Papesse、イタリア・シエナ
鑑賞者がラジオの前に座ってヘッドホンを着けると、最初は目の前のラジオから音が聞こえるように感じられるが、次第に床の枯れ葉が動く音、外にある樹木の枝のざわめきへと移り変わり、聴覚だけがどこか別の場所に連れ出される。
問「演奏活動からインスタレーションに転換したきっかけは」
 ライブでも、パフォーマーの心拍が音声の録音・再生と連動するような実験的パフォーマンスを行っていました。それを見た人が、メディアアートの展覧会に出展してみないかと声をかけてくれたのです。
Disclavier-コラボレーションのための仮想楽器 1997年 ICCオープニングイベント、東京
別々の場所にいる3人の鑑賞者がコンピューターのつくる仮想空間に集まり、 そこにある緑色のレコード盤におのおの針を落とすことによって、共同で音楽を演奏する(写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター)
 メディアアートは「体験する」アートです。鑑賞者は客体として作品を見聞きするのではなく、作品そのものの中に入り、作品に関与することによって作品を味わう。大勢同時にではなく、1人ずつ、あるいは3人一組で。それだけに、体験としてより強いものになる可能性がある。そこが、発表形態として面白いと思います。
Audible Distance(視聴覚化された「間」)1997年 ICCコレクション
鑑賞者3人は機材を身に付け、暗い空間に入る。それぞれの位置や向き、心拍数のデータが音声と映像に変換されて伝えられる。生身の姿や声でなく、コンピューターがつくり出す視覚情報と聴覚情報によって互いの関係をとらえる体験(写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター)

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