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クリエーターたちの挑戦
Araki Tamana
荒木 珠奈さん(アーティスト)実体験から生まれた手の温かみを宿す作品世界
昨年、2度目のメキシコ留学から帰国したばかりの荒木珠奈さん。旅や日常生活から得たインスピレーションを作品に昇華させるアーティストだ。彼女のインスタレーションには家や椅子(いす)や舟といった具象的なモチーフが繰り返し登場し、立体的な絵本を読むような楽しさがある。鑑賞者が参加できるタイプの作品も好評を博している。その世界の一端を紹介しよう。
 
問「最初からインスタレーションを手掛けていたのですか」
 美大では油絵と銅版画を学びましたが、その前から立体をつくるのは好きでした。それに、銅版画の制作工程って、銅板に凹凸をつけたり削ったり、プレス機で刷ったりと、立体をつくる作業に似ているんです。インスタレーションにも、よく銅版画を使います。
“旅のつづき” 「a’s」Gallery art soko cellar、1997年(撮影/長塚秀人)

 この作品の中央に流れているのは無数の蝶(ちょう)で、紙にゴム版を押し、一つ一つ切り抜いてつくったものです。ぶら下がっている家のモチーフの周りにも版画を張り付けていますし、奥の階段には、インクを詰めて乾かした銅版の板そのものを張っています。

 題材は、最初のメキシコ留学中に見たモナルカ蝶。この蝶は渡り鳥のような習性をもっていて、毎年12月ごろ、北米からメキシコの森に飛んできて冬を越すんです。森の木々に大群の蝶が集まってとまっている様子は、まるで巨大な松ぼっくりのようでした。蝶の重みで、今にも枝が折れそうなくらい。日が差すとその塊から蝶が一斉に吹き出して、それはそれは強烈な光景でした。強烈すぎて、作品にするまで2年もかかったほどです。

“遠くで永く” エキジビション・スペース、2000年(撮影/長塚秀人)

 「遠くで永く」はカナダで長距離バスに揺られながら見た風景に触発されてつくった作品です。バスは辺境の原野を20時間ひたすら走り続けるのですが、それでも道はまだ続いている。しかも所々枝分かれして、その道もまた、はるか遠くへ延びているんです。

 道があるということは、その先に人が住む場所があり、生活があるということでしょう。道の行く手に思いをはせてつくったのがこの作品です。巨大な糸玉から延びるたくさんの糸は、ヤマモモと、コチニールという虫から採れる染料で赤く染め、一つ一つ手で編みました。先端には、家や手や椅子のモチーフが結びつけてあります。

“地下の海” 松明堂ギャラリー、2003年 (撮影/早川宏一)

 2度目のメキシコ留学にたつ直前には、地下のギャラリーを舞台に制作しました。ブロック壁に黒い床で、段差があって、ギャラリーには珍しい、個性的な空間です。この場所で何をしようかと考えた時、思い浮かんだのが、当時よく行っていた鎌倉の海でした。暗いギャラリーの奥から波が打ち寄せてくるのはどうだろうかと。

 そこで、ギャラリーの天井にグラスオーガンジーという透ける布を何層にも吊るし、奥に扇風機を仕掛けて、常にゆらゆらとなびく状態をつくりました。そこに照明の光をあてると、まるでオーロラのような映像的な情景が生まれました。

 布の間を人が通っていくのを外から見ると、3層目ぐらいから少しずつ姿が消えていくように見えます。一番奥は筒状になっていて、頭上には小舟が浮かんでいる。水底から水面の舟を仰ぎ見る感じを体験してほしいと思いました。


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