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鈴木敏彦さん(建築家)空間に機能を与える道具“モバイル・アーキテクチャー”
問「なぜ、そういう発想が生まれたのでしょうか」
 私は最初、都市デザインを学び、インターンとして渡仏してパリの新都市開発公社に籍を置きました。出発点は都市という大きなスケールの設計だったわけです。その後、独立して住宅設計を手掛け、さらに現在は大学のプロダクトデザイン学科で研究活動を行っています。

 都市・住宅・プロダクトと、さまざまなスケールのデザインを経験してきて、その差異が身に染みました。都市のスケールで物事をとらえているときに、ビス1個の位置までは考えられません。

 建築は、まず都市にどう配置するかが問われます。次に、建築そのものの空間が問われ、そこから機能が分化していく。細分化された機能を持つ家具までを、建築と同時に考えるのは困難です。同様に、家具などのプロダクトを緻密(ちみつ)に考えているとき、建築まではなかなか視野に入れられません。

 そのために“建築と家具の中間”のスケールが見過ごされてはいないか。そこに、何か新しい可能性があるのではないかと思うようになったのです。

 “建築より小さく、家具より大きいもの”と考えたとき、まず思い浮かんだのが茶室でした。茶室は母屋よりずっと小さく、分解して移動し、また組み立てられる大きさです。豊臣秀吉が朝鮮遠征に茶室を持っていったという話もある。
素庵/アルミの茶室 組み立て過程1  素庵/アルミの茶室 2000年 写真/Nacasa&Partners
素庵/アルミの茶室 組み立て過程2 素庵/アルミの茶室 組み立て過程3
組み立て過程
素庵/アルミの茶室 外観 素庵/アルミの茶室 内部
外観 内部
 組み立て式茶室「素庵」はモバイル・アーキテクチャーの原型です。それは文字通り“動かせる建築”でした。

 私も茶人の端くれですから、「素庵」では茶室としての内部空間をつくりたいと思いました。この茶室は、穴の開いたアルミハニカムパネルと、アルミと和紙の複合パネルの2重構造。2つのパネルの間に仕込まれた照明がゆっくりと明滅し、人工の光と外光が混じり合って内外の境界を曖昧(あいまい)にします。

 「素庵」は分解して専用のキャリーバッグに収納できます。しかし、パーツは大きく数も多く、たびたび移築するのはあまり現実的ではない。そこで次に、もっと“動くこと”に重きを置いてつくったのが「mobile ICHIJO」です。
mobile ICHIJO mobile ICHIJO mobile ICHIJO
mobile ICHIJO 2001年 写真/Nacasa&Partners
 「mobile ICHIJO」は厚さ12センチのアルミのスーツケースに納まる茶室。開くと1畳分の空間が現れます。床と屋根という建築の主要構造部を備えているから建築といえなくもありませんが、よりプロダクトに近くなりました。

 さらに発展した「mobile HANJO」には屋根はありません。ローテーブルから畳が出現することで、周りの空間を変容させます。収納部もあって多機能です。「mobile ICHIJO」よりさらに家具に近く、“建築と家具の中間”が担うべき役割が明らかになりました。
山のアトリエ 外観 山のアトリエ 内部
山のアトリエ 2003年 写真/Sadamu SAITO
アルミのシェルターとキャンピングカーで構成された、移動可能な建築。シェルターの中に設置した「素庵」をお茶席に、「mobile HANJO」を待合席としてお茶会も。すべて移動すれば周囲は元のままの自然に戻る

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