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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 06  「松原の家」

壁に囲まれた「風の起動器」、光と風、自然と暮らす快適な住空間
プライベート空間の確保
敷地の周囲をコンクリートの壁で囲い、扉を閉めると外と遮断された居住領域となる。駐車スペース側の外壁にスリットを入れることで、内から外の気配を感じることができ、閉塞感を和らげている。

開放的なプライベート空間
壁によって外界の視線から解放された居住空間。木製サッシでできたガラス壁によって庭に大きく開かれた空間は、光が降り注ぎ、風が通り抜ける。透けた階段は、風の通り道を妨げないためでもある。和室の外壁には杉板が使用されている。

開放的な「憩う空間」
ガラス壁で透明感溢れる2階のリビング。トップライトからは日射しが降り注ぐ。ガラス壁のサッシは、この家のために設計したオリジナルの木製。アルミや鉄などの断熱サッシより安価で、結露がないためメンテナンスが容易。木製サッシは、空間を温かい雰囲気で包む。

ライフスタイルを多様に彩る「動く壁」   家の中の風道
リビングとキッチンを仕切る吊り壁は、用途に応じて空間を自在に変化させることができる。リビング空間の明るさも調整することができる。
 
明るく開放的な2階リビングとキッチン。テラスの出入口となるガラスの引戸は、空気の流れも調整する。
夏、引戸を開けてホールのトップライトで熱気を逃がすと、1階の冷やりとした空気が2階に引っ張られて上がってくる。冬はリビングの扉を開けると、ホールで温まった空気が補助暖房として活躍する。

自然を楽しむ和室
にじり口が設けられた和室。にじり口からは前庭が眺められ、四季折々の風情を楽しむことができる。外壁に守られ、都会の喧噪が忘れられる空間。

 この家は、東京・世田谷区の住宅密集地にあります。かつて駐車場として利用されていた敷地は、周囲を個人住宅やアパートが取り巻いているため、一般的な建て方で家の設計を考えてしまうと、そこに住む人のプライバシーを保てる環境ではありませんでした。この家の設計では、「プライベートな空間を確保しつつ、いかに快適な住空間をつくるか」が課題でした。

 施主は30代半ばでメディア関係の会社に勤務されており、現在、奥さんと1歳になるお子さんの3人でお住まいです。お客様が多いのと、将来は奥さんが料理教室を開く予定もあり、道路側を思い切ってセットバックし、相応な駐車スペースを確保しました。これは、周辺環境に対する圧迫感を軽減することにも役立ちます。

 建物は、高さ5.8メートルのコンクリートの壁で外周を囲い、前庭+住居部分+裏庭という構成です。ゲートの大扉を閉じると、外からは完全に遮断された空間になります。コンクリートの外周壁は、防犯と防火の機能を併せ持ち、プライバシーを確保できるだけでなく、庭の隅々までくまなく有効に使える家となりました。

 庭に面する部分は、床から天井まで大面のガラス壁にすることで、透明感のある開放的な空間にしました。家の中央部分に計画したトップライトから、日射しがたっぷりと降り注ぐため、2階のリビング周辺だけでなく1階も明るく、この家が外周壁で囲われているという現実を忘れさせます。

 空間を固く間仕切ってしまうのではなく、住む人がライフスタイルに合わせて空間のかたちを自在に変えられるように、1階の寝室と2階のリビングに「動く壁」を設けました。リビングの「動く壁」は、キッチン・ダイニングとリビングを仕切るときに使うだけでなく、開閉することで空間の視覚的な奥行きや光量が変わるため、多様な空間が生まれます。

 ところで、この家は「風の起動器」という別名があります。壁で囲われた領域のなかに庭を2つ計画することで、風を自然につくりだす工夫を試みました。前庭で温められた空気は軽くなって上昇します。そのとき、裏庭の比較的低い温度の空気が、前庭へ引っ張られて移動します。家に風道をつくっておけば、風が流れるという仕組みです。

 これは、私自身が子供のころに体験した京の町屋にヒントを得ています。2つの庭に生じる温度差を利用した、いわば自然の空調です。トップライトのあるホールは、太陽熱で空気が温められますが、冬はこの空気を暖房の補助として利用できます。こうした工夫は光熱費の節減につながり、エコロジーに配慮した建築といえるかもしれません。エアコンなどの機械に頼りきらない、自然と調和した暮らし方の提案です。

 最後に、設計全般にわたって私が常々考えているのは、何事にも「バランスとセンス」を大切にしたいということ。快適性も機能性もデザインも、すべてバランスとセンスの上に成立していると思うのです。住宅の設計は、敷地や施主の要望など諸条件によって、様々な解決策が考えられますが、居住空間として最良のものを目指すことには変わりありません。住む人の望みをかなえるために、どんな工夫をし、どんな空間を提供できるか。そのチャレンジが、建築家の愉しみでもあるのです。
(岡田哲史・岡田哲史建築都市計画研究所)


「松原の家」


建築データ
  所在地: 東京都世田谷区
  家族構成: 夫、妻、子供1人
  竣工: 2001年7月
  敷地: 266.69平方メートル
  建築面積: 85.00平方メートル
  延べ床面積: 151.04平方メートル
  構造・規模: 鉄筋コンクリート独立耐震壁構造
  坪単価: 83万円
  設計: 岡田哲史(岡田哲史建築都市計画研究所)
  写真: 平井広行
連絡先
  岡田哲史建築都市計画研究所
  代表: 岡田哲史
  住所: 〒162-0067
東京都新宿区富久町6-12-303
  TEL: 03-3355-0646
  FAX: 03-3355-0658
  E-MAIL: mail@okada-archi.com
  HP: http://www.okada-archi.com/
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