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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 09 「透光の家」

光のスクリーンがつつむ家、内と外が融合したシンプルライフ

幻想的な光のファサード
真っ暗な住宅街に浮かび上がる幻想的なファサードは、街に対する設計者からのメッセージ

徹底的なローコストの実現
主な構造材には、スギ、内部にはシナベニアを生地仕上げで使用。一般的に最も流通している材料でローコスト化を図った

中庭によって、内部空間と外部空間の一体化を図る
三角に切り抜いた窓は、日なたぼっこを楽しむ猫のエントランス
自由設計の設え
1階と2階を一室空間にするシンプルなデザインの階段

多機能な天窓
光を採り込むと同時に、夏は、天井にたまった暖気を外へ逃がす
「ロマンチック力学」
木の良さを最大限に表現する設計によって実現した、美しく力強い住まい

 大学で建築を学んだという施主は、現在、独身で一人暮らし。当然、建築には造詣が深く、時代の流れ、将来の家族構成や環境の変化などに、柔軟に対応できる融通性のあるプランを要望されました。そして、木で構成される建物の美しさや、力強さを感じられる家であること。これらの条件を満たし、しかも、60年以上の耐久性を持つ家をローコストで建てたい、とのことでした。

  都市の利便性と快適な居住環境。この2つを同時に手に入れるのは、至難の業です。相いれない条件をどうすり合わせるか、それが私の住宅設計を解くカギです。東西に細長い敷地。そこに着目しました。まず、建築物を敷地の中央に置き、公道に面した西側に中庭、隣家に接する東側には緑を借景とする外庭を配置。あとは、庭という外部の環境を建築空間化すれば、問題解決です。外部空間と内部空間の融合。それがこの住宅設計のテーマです。

  恵まれた環境を望むべくもない立地条件では、自らの敷地の中に環境を創造しなければなりません。この設計ではその役割を、半透過性のスクリーンで囲った中庭に持たせました。中庭の周りに構造材をめぐらせ、ポリカーボネート板で囲うのです。光を透過するスクリーンは、光や影、人の気配を映し出す装置です。内と外を同時に感じることのできる、小さな宇宙。

  夜は、透過する室内の光によって、中庭自体が照明器具化し、外界に柔らかな光を放ちます。彫刻家のイサム・ノグチ流に表現すれば「AKARIの舎」です。晴れた日は、屋根のないサンルーム。陽光が室内に満ちあふれたように見えます。床は、室内と同レベルのウッドデッキ。室内の生活をそのまま外部=中庭に持ち出すことができます。四季折々。朝、昼、夕。気の向くままに、外と内の一体感を楽しめる住まいです。

  ポリカーボネートのスクリーンに設けられたドアを開け、中庭を通って玄関を入ると、1階はキッチン、居間、風呂、トイレといった生活スペース。2階は、畳の間のあるオープンな居室です。与えられた敷地や予算の中で、最大限に豊かな空間を確保するため、部屋の概念を取り去り、間仕切りのない一室空間としました。1階と2階は、オブジェのような踏み板だけのシンプルな階段でつながっています。

  この家には、冷房設備はありません。西側の中庭から東側の庭に風が抜け、夏は、外気温が35、36度あっても、室内は28─30度に保たれます。また、冬は、階段近くに設置したガスファンヒーターが活躍。暖気は階段の吹き抜け部分を通って上昇し、2階を暖めます。そして、天井扇によって攪拌(かくはん)された空気が、再び1階に降りてくる仕組みです。一室空間だからこそ、1台のファンヒーターで家全体を暖めることができます。この効果は照明も同じです。室内で1カ所、照明がつくと、家全体が明るくなります。

 建て主は、建築を学んだだけあって、ハウスキーピング、特に木のメンテナンスに関しては豊富な知識を持っています。竣工して5年経た今も、美しい状態で住まわれているのには、建築家である私も驚かされます。「便利なものを追い求めて、大事なものを失うこともある」と、一貫した考え方を持ち、ご飯はガスで炊き、お湯もその都度沸かす。炊飯ジャーや電気ポットなど、むやみに家電製品を増やせば、生活空間が乱雑になってしまう。シンプルなライフスタイルを心掛ければ、結果、光熱費も最小限でまかなえる、そんなよい実例ではないでしょうか。

  私は、建築を理解し、理想的な住まい方をしてくださる施主はもちろん、建築の知識がない施主に対しても、「この家はこのように力が伝わり、大地に建っている」と、空間の成り立ちを説明します。家の構造を理解し、安心して住んでほしいと考えるからです。これを「ロマンチック力学」と呼んでいますが、そのために、骨組みを見せる意匠=構造を心掛けています。

  構造がしっかりしていれば、何十年も住むことができます。家族構成や価値観など、ライフスタイルの変化に合わせて、間取りや意匠はいかようにも対応できます。使い方を限定しない、懐の深い家をつくること。いうならば、コンパクトにたためて、広げればたくさんのものを包めるふろしきのような建築。そんなフレキシブルな建築空間づくりを目指したい、と考えています。
(三山真武・三山真武建築設計室)


「透光の家」


建築データ
  所在地: 神奈川県高座郡
  家族構成: 男性1人
  竣工: 1998年1月
  敷地: 140.05平方メートル
  建築面積: 61.28平方メートル
  延べ床面積: 85.30平方メートル
  構造・規模: 木造、地上2階建て
  総工費: 約2260万円(外構、植栽、設備全て含む)
  設計: 三山真武(三山真武建築設計室)
  写真: 栗原宏光
連絡先
  三山真武建築設計室
  代表: 三山 真武
  住所: 〒180-0004
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-30
サンロードプラザダイアパレス805
  TEL: 0422-20-2809
  FAX: 0422-20-1968
  E-MAIL: mezamasi@din.or.jp
  HP: http://www.din.or.jp/~mezamasi
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