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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 103「井の頭の住宅」

プロが提供する入れ物に、建て主が命を吹き込む家づくり


漆喰の空間に展開するオープンなスキップフロア

築20年ほどの住宅のリノベーション。写真は北側2階のキッチンから見た室内全景。屋根の形を現した天井と外周の壁は漆喰(しっくい)で塗り、建物の輪郭を強調している。既存の床を一部抜き、家全体がつながるオープンなスキップフロアとした


建て主自身の手で塗装した間仕切り壁

中2階の居間から2階のキッチン方向を見る。キッチンの下、1階は浴室に続く。居間は、畳敷きに掘りごたつ式の座卓。ラーチ(針葉樹)合板の壁や居間の天井などの木質部分はすべて建て主が自分で塗装している


手づくりの味わいが生きるラフなつくり

間仕切り壁は合板の断面をそのまま現した単純なつくり。素人の塗装が映えるように考えられている。居間の出入り口や窓は壁に穴を開けただけ。建て主が古民家の建具をはめ込む計画である


和風旅館をイメージした浴室

1階洗面室から浴室を見る。脱衣室は畳敷きにし、浴槽は床と同じレベルに落とし込んだ。「純和風の旅館のような家」という建て主のイメージを反映した設計である


2階廊下から光を落とす玄関ホール

1階玄関ホール。リノベーション前は、左右両側に階段があった。左手の階段を撤去し、天井にアクリル板を張って2階からの光を落とす。廊下突き当たりは洗面室・浴室に通じる


既存住宅の段差を生かしたリノベーション

外観はほぼ既存のまま。写真右手にビルトイン車庫があり、その高さがスキップフロアの段差に反映している。ボウウインドー(出窓)部分が中2階の居間にあたる


 「井の頭の住宅」の最大の特徴は、設計から工事までの全工程に、建て主が主体的にかかわったことにあります。平面図を描き、模型をつくり、工程表を作成。工事に入ってからも塗装や配線など、できる限りのことを建て主が自らの手で行っています。

 コストを抑えるためでもあり、建て主の自発的な意思があったからできたことですが、私たち設計者としても、ひとつのチャレンジでした。

 おそらく多くの設計者は、建て主が自分で図面を引くことを歓迎しないでしょう。施工会社にとっても、素人が工事にかかわるのは煩わしいと思います。しかし私たちは今回、あえて黒子に徹し、建て主に「自分がつくっている」という実感を得てもらおうと考えました。

 このプロジェクトは、バブル期に建てられた木造住宅のリノベーションです。1階にビルトイン車庫が設けられていたため、建物は小さいのに床段差が複雑で、階段が2つある不自然で使いにくい間取りでした。そこで、外装と骨組みだけ残し、全面的な改装を施しています。

 設計は、建て主の案と私たちの案をすり合わせながら進めました。階段を1つにして動線を整理し、床を一部抜いて、家全体をスキップフロアでつなげるプランです。1階玄関から半階上がった所に畳敷きの居間、さらに上がった2階にキッチンを設けました。折り返して半階上がると寝室で、居間の真上に当たります。

 建て主は「純和風旅館のような家」を望んでいたので、そのイメージをいかに表現するかも課題でした。しかも、塗装は建て主が行う前提ですから、出来栄えが予想できません。そこで、素人の手仕事がうまく生きるようなつくり方を考えました。

 既存の内装をはがすと、屋根の形が現れます。新しいプランは間仕切りが少ないので、家の中にいながらにして、屋根の形をはじめ家全体の輪郭が感じ取れるようになりました。まず、この輪郭にあたる壁・天井を白い漆喰(しっくい)で塗り固めます。プロの左官の手によるなめらかな壁面で、家の形を強調しました。このことで、実際の面積以上の開放感が得られたと思います。

 内側の木の部分は、すべて建て主が塗装します。柱や梁(はり)は黒く塗り、和風のイメージに。間仕切り壁は2枚の合板で柱を挟む単純なつくりにして、素人の塗装が映えるよう演出しました。しかし、その合板の割り付けや釘のピッチは設計側で注意深く計算しています。建て主の手仕事を生かすための素地を、プロの技術でつくっているわけです。

 工事が進むにつれて、建て主がだんだん頼もしく見えてきたのが印象に残っています。手伝いに駆り出された建て主の友人知人も、とても生き生きと楽しそうでした。最初は戸惑っていた職人たちも、やがて喜んでコツを伝授してくれるようになりました。

 建て主が「自分でつくった」と感じているせいか、完成後もクレームは皆無です。それどころか、住み始めてから配線を変えるなど、自分の手でどんどんカスタマイズしているようです。私たち設計者にとっても、従来のプロジェクトとはひと味違う達成感が得られました。

 現代の家づくりは「誰かがつくったものを買う」感覚で行われているように思います。自分の家なのに、どんなふうにつくられているか知らずに済ませてしまう。住む人とつくる人の間に、深い溝があると感じていました。けれども、このプロジェクトを通じて、その溝を解消する糸口がつかめました。誰にでも同じ方法を押し付けるわけにはいきませんが、建て主がそれぞれ可能な範囲で家づくりにかかわれる仕組みをつくりたいと思っています。
(馬場兼伸+古澤大輔/メジロスタジオ)

井の頭の住宅

建築データ
  所在地: 東京都武蔵野市
  家族構成: 夫婦
  竣工: 2006年9月
  敷地面積: 62.10平方メートル
  建築面積: 42.24平方メートル
延べ床面積: 88.55平方メートル
  構造・規模: 木造、地上2階
施工: 井端建築
設計: メジロスタジオ
  写真: ナカサアンドパートナーズ
連絡先  
  メジロスタジオ
  代表: 古澤大輔・馬場兼伸・黒川泰孝
  住所: 〒171-0032東京都豊島区雑司が谷3-3-25-811
TEL: 03-3981-5229
FAX: 03-3981-5219
E-MAIL: mejiro@par.odn.ne.jp
URL: http://www.
mejirostudio.com/
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