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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 11 「T-set」

水回りと個室を家具に見立てて配置、余白は町につながる自由空間

大きな白い空間に黒い箱が2つ
1階の黒い箱の中にキッチンがあり、奥に洗面、トイレ、浴室がまとめられている。頭上には個室2つ分を納めた大きな黒い箱が浮かぶ

2つの開口部から夕暮れの気配が流れ込む
室内夕景。玄関上と踊り場、南北両側に設けられた開口部から外の気配が流れ込む。室内の柔らかな光との調和が美しい
余白でできたホール状の空間
1階と2階の大小の箱は上下左右互い違いに配置。このため、天井高が様々に変化したホールのような空間が生まれた。踊り場には、天井高1.2メートルほどのロフト部分と、道路まで見通せる吹き抜け部分ができた
町への視界が開く窓
2階個室から吹き抜けを通じて町を望む。夜間など、道路からの視線が気になるときは、引き戸で遮断すればいい。個室は必要に応じて2つに仕切れる
光が映える白と黒のインテリア
玄関から室内を見通す。白い床と壁に窓の光が反射する。光を吸い込む黒い天井が、落ち着きを与える
路地のような住宅アプローチ
正面の建物が「T-set」。右手の外壁は隣家。玄関上の開口部が、室内の気配を感じさせる

 前面道路からは1軒に見えますが、実は縦長と横長、2つの住宅です。奥まった方が「T-set」。私が初めて手掛けた「建売住宅」です。手前はあらかじめ住む人の決まった「注文住宅」。この2つの設計を同時に進めました。

 もともとはひとつの大きな敷地。設計は、それをいかに分割するかということから始まりました。中央にまっすぐ境界線を引けば、敷地はウナギの寝床状に。それでは、長屋のような細長い住宅しか建ちません。道路から見れば、建物が2つぴったり並んだ風景になるでしょう。下町ならそれもいいのですが、ここは世田谷の住宅街です。ゆとりのある空地と建物が、町の雰囲気を醸成(じょうせい)しています。町の風景と2つの家の意匠を、どう関連づけようかと考えました。

 都市に住むということは、集まって住むこと。自分の陣地を囲って閉じこもるのではなく、町と連続的につながっているほうがいい。家を建てることによって、町の風景にどう寄与するか、内から外へ、どんな風景を獲得するか。その町に住んでいる実感が持てるようにするべきです。

 そんな考えから、敷地を道路に面した矩形の敷地と旗竿状の奥の敷地に分けました。道路側の敷地には、建物を南に寄せて配置。このことによって、全体としては2つの空地が生まれます。道路側の家の南には隣地の「竿」の部分が空地として担保され、奥の敷地からは、北と南に、道路まで視線の抜ける空間が確保されるわけです。町から見れば、ひとつの敷地に2つの空地があるような風景になります。

 奥の住宅「T-set」は「建て売り」ですから、誰が住むかは決まっていません。家族構成も暮らしぶりも読めない中で、何を手がかりに設計すればいいのか。住宅とは何か、生活とは何かということを、真剣に考える機会になりました。

 どんな家族にも、キッチンや浴室、洗面、トイレは必要です。これらの空間は用途が決まっています。寝室も、ある程度固定的に考えられるでしょう。しかし、生活のそれ以外の部分は人それぞれです。家族で食卓を囲む時間を最優先に考える人もいるだろうし、大画面で映像を楽しむのが一番という人もいる。

 そこで、この建物では、水回りと個室をそれぞれ箱に詰め込み、大きな家具に見立てて配置しました。1階にひとつ、2階にひとつ。その間を階段でつないでいます。残った空間は、住む人が自由に使ってくれればいい。

 この「残った空間」は、同時に、敷地の2つの空地にリンクしています。おのおのの空地に面して大きな開口部があり、双方向に視界が開けている。人目に付きたくない場所は箱の中にしまい、残った空間は、町と対話する。それが、都市住宅の理想だと考えています。

 室内の床・壁・天井はすべて白に、2つの箱の外側は黒く塗りました。生活が始まれば、様々な色が持ち込まれます。背景は、光を反射する白い素材と、光を吸収する黒い素材の2種類でいいと考えています。

 この「T-set」の設計を通して、住宅はこのぐらいシンプルでいいのだと再確認しました。最近は住まいへの関心が高まり、「自分の暮らしに合わせて作り込みたい」という欲求が強くなっていますが、こうした風潮には賛同できません。家族は変わっていくものです。いつかは住み替えるかもしれない。ある時点の、ある家族のためだけにつくれば、変化を受け付けない堅苦しい家になってしまう。50年、100年もつ建築を目指す時代に、それでは通用しないでしょう。
(千葉 学・千葉学建築計画事務所)


「T-set」


建築データ
  所在地: 東京都世田谷区(建売住宅)
  竣工: 2002年7月
  敷地: 63.05平方メートル
  建築面積: 31.52平方メートル
  延べ床面積: 57.42平方メートル
  構造・規模: 木造、地上2階建て
  総工費: 約1429万円
  設計: 千葉 学(千葉学建築計画事務所)
  施工: 日野建設
  写真: 千葉学建築計画事務所
連絡先
  千葉学建築計画事務所
  代表: 千葉 学
  住所: 〒151-0051
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-54-4 B1F
  TEL: 03-3796-0777
  FAX: 03-3796-0788
  E-MAIL: manabuch@zg7.so-net.ne.jp
  URL: http://www.chibamanabu.jp/
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