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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 111「光膜の家」

隣家の屋根越しの光を、白壁で受けて住空間を照らす


間口5メートルほどの敷地に建つ3階建て住宅

西側外観。片流れの屋根がカーブして外壁までつながっている。建て主が好きな「クライン・ブルー(画家イヴ・クラインが用いた青)」を屋根材と外壁の一部に用いた


光を受ける壁に沿って3階まで続く階段

玄関を入った所。軽やかな階段が3階まで一直線に続く。写真左手は屋根まで連続する壁で、南の空に開いた窓から差し込む日光を反射する


東西を貫く吹き抜けに面して居室を配置

3階、階段上から吹き抜けを見通す。建物の北側3分の1ほどが東西方向に抜ける吹き抜けになっており、その南側に居室が並ぶ


ほど良く落ち着いたダイニングスペース

2階西側のダイニング。収納の奥は対面式のキッチン。吊り戸棚の扉には、CDジャケットをはめ込むようになっている。天井は厚さ9ミリの素地の桐板で、調湿効果がある。右手奥、階段の向こうはワークスペース


隣の両親の家につながる屋上テラス

南隣にある両親の家の屋根を借りたテラス。右手は2階リビングダイニングに続く。設計者である安井さんが敷地調査を実施した際、屋根の間に生まれた空間の心地良さに着目し、2階同士をつなぐプランを提案した


3階は使い道を定めない自由なスペース

弧を描く天井に包まれるような、3階の「多目的室」。左手壁面の収納には、映像ソフトや書籍をしまう計画。いすとテーブルは「スタンダード・トレード」の渡邊謙一郎さんのデザイン・製作。テーブルの高さは食卓より低めで作業向き。楕円(だえん)形なので、座る位置が自由に選べる


密集地のすき間の緑を生かした眺め

小さな坪庭に面した1階洗面脱衣室。塀の向こうは隣家の庭。植栽の緑を借景に利用させてもらった


 建て主は40代のご夫婦と長男、長女の4人家族。かつて人に貸していた古家を建て替えて住むことになりました。南隣はご両親の住まいです。

 いつものように、設計は敷地を念入りに調べることから始めました。前述の通り、南にはご両親の家が軒を接して建っています。北側も隣家が境界ぎりぎりに迫ります。

 道路は西側で、向かいが駐車場になっていて見通しが開けるのが利点。午後から夕方にかけては日当たりが期待できるでしょう。東の隣家は、庭に緑があるのが救いです。

 南北はふさがれ、東西方向に一部だけ、かろうじて視界が抜ける。この「抜け」をどのように生かそうかと考えました。

 最初に浮かんだのは、手のひらで光を受けとめながら、柔らかく敷地を覆うイメージです。それが進化して、片流れの屋根から外壁まで、一体につながる建物になりました。

 玄関を入ると、階段を抜けて3階の窓まで、一気に見通せます。ここは北側の壁に沿った吹き抜けで、この壁には一切窓がありません。

 けい藻土で滑らかに仕上げた壁は、3階の高さで弓なりに曲がって天井となり、南の空に向かって開きます。隣家の屋根越しに差し込む光が、白い壁に柔らかく反射します。

 刻々と変化する日光を映す壁は、映画のスクリーンになぞらえることもできるでしょう。建て主は映画や美術に造詣が深く、打ち合わせでもしばしば話題に上りました。屋根や外壁、収納扉の一部に深い紺色を用いたのは、建て主がニコラ・ド・スタールやイヴ・クラインが描くブルーが好きだと話していたからです。

 各階の居室は、開放的な吹き抜けの階段に沿って展開します。1階南側の畳室は夫婦の寝室。廊下に出ることなく、クローゼットを通って水回りに行ける動線です。

 2階はリビングダイニング。吹き抜けとは対照的に東西にはほとんど窓がなく、南のご両親の家と向かい合います。ご両親の家の2階はあまり使われていなかったので、子ども室に改装させてもらうことを提案しました。下屋の屋根の上にデッキテラスを載せ、2階同士で行き来できるようにしています。

 さらに、階段西側にはデスクを造り付けた「ワークスペース」、東側の階段下にも一人掛けのいすを置き、ちょっとしたコーナーをしつらえました。

 3階の「多目的室」は、壁面に収納を造り付けただけの自由な空間です。現在は音楽や読書を楽しむ趣味の部屋ですが、ライフスタイルの変化に応じて、文字通り「多目的」に使えるでしょう。

 人の生活は多様なものですし、人生にはさまざまな場面、局面があります。住宅も、臨機応変に使いこなせるようにしたい。それには、ひとつの建物に多様な場所を用意することが必要です。「光膜の家」は小規模でシンプルですが、開放的な吹き抜けと落ち着いた居室、用途の広い畳室や多目的室、小さなコーナーと、変化に富んだ場所を持つ住宅に仕上がったと思います。
(安井正/クラフトサイエンス)

光膜の家

建築データ
  所在地: 神奈川県横浜市
  家族構成: 夫婦+子ども2人
  竣工: 2007年2月
  敷地面積: 71.13平方メートル
  建築面積: 42.43平方メートル
延べ床面積: 104.25平方メートル
  構造・規模: 鉄骨造り、地上3階
設計: 安井正
  写真: 和田高広、安井正
連絡先  
  クラフトサイエンス
  代表: 安井正
  住所: 〒124-0012東京都葛飾区立石6-12-2-507
TEL&FAX: 03-5698-8387
E-MAIL: info@craftscience.jp
URL: http://www.
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