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Housing File 114「家族書庫の家」

本棚と屋根の“皮膜”で、家族で過ごす時間を包む


公園に向けて大開口を設けた建物外観

住宅街の端、西北側に低くなっていく傾斜地に建つ。南西側に広がる森林公園に向けて大きな開口を設けた。西日対策のため、家族室や子供室の開口にはブラインドや穴開きの折れ戸などを設置している


信楽焼の手洗い器を置いた広い内土間

1階の玄関は幅2.3メートル、奥行き3.2メートルの広い内土間とした。外部と内部を結びつける空間として位置付け、黒モルタルの床面や濃いグレーの天井などに外装と同じ色を用いた。庭仕事を楽しむご主人のために、信楽焼の手洗い器を置いている


吹き抜けで2階とつながる家族書庫

東の壁一面に、シナランバーの板材を格子状に組んだ本棚を造り付けた。階段の向こう側と手前にそれぞれ、3.6メートルと4.0メートルの長さのカウンターをしつらえ、子どもの勉強室と夫婦の書斎としている。本棚の上からトップライトの光が差し込み、吹き抜けは風の通り道となる。温水床暖房を設置


内土間に隣接する1階和室

開口を絞って落ち着いた雰囲気にまとめた和室。右に見える1.4メートル角の開口の先が内土間となっている。来客を迎える際や、ご主人が庭仕事を終えてくつろぐときなど、外とつながる空間として利用できるようにした


格子状の天井と書架で覆われた家族室

ワンルーム状の2階家族室。キッチンの奥に洗濯機を配置するなど、家事動線をコンパクトにまとめた。キッチンの両端にある引き戸を開けると、奥の浴室まで視覚的に一体化した空間となる


引き戸を開けると一体化する洗面室と浴室

家族室から続く洗面室(写真左)と浴室は、引き戸を開けるとつながった一空間となる。洗面室の壁には「文人茶」という渋い栗色の塗装を、浴室には「藍白」という瑠璃色系のタイルを用いた。浴室では外の景色に向かってザブンと入れるように浴槽を配置している


 この家族の特徴は何といっても本が多いこと。ご夫婦がそれぞれたくさんの本を持っているのに加え、文筆家である奥様のお父様の蔵書もいずれ引き取る予定です。さらに小さな二人の娘さんも本が大好き。今後、本が増えて収納が大変になるのは明らかでした。

 当初は図書館のような本棚で各自のスペースを仕切る案も考えましたが、最終的には東側の長い壁一面を本棚にしました。板材を格子状に組み合わせた本棚と屋根によって、家族のスペースを覆うという形です。

 ご夫婦は共働きです。打ち合わせで建て主夫婦と話している時には、家族で一緒に過ごす時間を大切にしたいという気持ちが強く伝わってきました。そこで、家族一緒に過ごせる大きなスペースをつくり、本棚と屋根の“皮膜”で守るような空間構成を考えたのです。

 この家は、新しく造成した横浜市内の宅地に位置しています。周囲は西側に向かって傾斜し、低くなった先に森林公園が見えます。南と東の隣地には家が建つことが分かっていました。東面に本棚の壁をつくり建物を敷地の東側に寄せて配置したのは、東側にある隣家からの視線を遮り、西側に見える森林公園の景観を取り込むためでもありました。

 生活の中心となる2階はワンルームの家族室です。カウンター式のキッチンと食卓、リビングのコーナーを並べています。食卓の横には屋外デッキを張り出させ、外部空間とのつながりを生み出しました。

 家族室の奥には、細長い洗面室と浴室を配しました。それぞれの両端には引き戸を設置。引き戸を開けるとリビングから浴室まで見通しが利き、空間が一体化するようにしました。お風呂に入っているご主人が家族室にいる子どもたちの様子を見ながら会話する、といったシーンをイメージしています。

 全体の空間を結びつけた2階に対し、1階に並べた個室は最小限の面積に抑えました。将来は区切って使うことを想定している子供室は7畳。主寝室もクローゼットを別にすると、ベッドが納まる4.6畳という大きさです。

 個室をコンパクトにした分、本棚に沿って細長いワークスペース「家族書庫」を造り付け、夫婦の書斎と子どもの勉強室に充てました。家族書庫は吹き抜けを通じて2階とつながります。ほどよい距離感を保ちながらも、家族の温かい関係を確保できるように意図しました。

 設計に際しては、いろいろな生活シーンを思い浮かべながら部屋同士の関係をつくりましたが、最後の味付けとして工夫したのが、色の使い方です。場所の特性を考えながら日本古来の色を散りばめました。

 1階の色のテーマは土や草。外との接点である玄関には、外壁に用いたガルバリウム鋼板の濃いグレーを持ち込んでいます。床は黒い土間で、天井も濃いグレーで塗装しました。隣接した和室の一面は「黄土」という色のじゅらく風仕上げとし、床の間奧の壁には本紫を使いました。

 2階は、窓の外に見える空と緑、あるいは食に通じる色を基調にしています。

 例えば、浴室では少し気持ちのモードを切り替えてリラックスしてほしいので、瑠璃色に近い「藍白」のガラスのモザイクタイルを張りました。洗面所は「文人茶」。栗色が入った少し渋めの茶色で、奥様の肌の色がきれいに映える色として選びました。トイレの「鴇(とき)色」はフルーティーなピンクです。

 打ち合わせを進めていく間に、建て主のご夫婦の愛の形まで少しずつ見えてくるものです。このご夫婦はこういうところで価値観を共有し、愛し合っているのかな、といった雰囲気もだんだんと分かってきます。そうしたご家族同士のいい関係をも建物のどこかに表現したいと思いながら、家の構成や色使いを考えました。

 建物がご家族の色に染まっていくのは設計の醍醐味(だいごみ)です。頼んで良かったと建て主に思っていただくためにも、ご家族の姿を反映した家を設計していきたいですね。
(八尾廣/八尾廣建築計画事務所)

家族書庫の家

建築データ
  所在地: 横浜市
  家族構成: 夫婦+子2人
  竣工: 2007年1月
  敷地面積: 187.99平方メートル
  建築面積: 70.93平方メートル
延べ床面積: 145.18平方メートル
  構造・規模: 木造、地上2階建て
施工: 栄港建設
設計: (建築)八尾廣、多田恵里花/八尾廣建築計画事務所、(構造)大内彰/エスフォルム
  写真: 田伏博
連絡先  
  八尾廣建築計画事務所
  代表: 八尾廣
  住所: 〒150-0045 東京都渋谷区神泉町18-8 松濤ハイツ204
TEL: 03-3770-7223
FAX: 03-3770-7224
E-MAIL: yatsuo@
a-yatsuo.com
URL: http://www.
a-yatsuo.com/
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