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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 115「AM HOUSE」

窓を隠し、ドアを壁に溶け込ませる、「家らしさ」を消して町に潜む家


エキスパンドメタルのスクリーンに覆われた外観

幹線道路にほど近い、雑多なエリアに建つ。1階道路面は、玄関ドアもシャッターも同一のアルミ素材で構成。2階から屋上までは、2枚重ねのエキスパンドメタルで覆った


付属物を消し、壁に溶け込む玄関ドア

玄関ドアにはノブも鍵穴もなく、縦に3つ並んだLEDランプの小さな光で位置を示す。帰宅時はスライド扉を開けてテンキーで解錠し、ドアを押して開ける


高さ9メートルの吹き抜けの玄関ホール

玄関ホールは、打ち放しの壁に挟まれた吹き抜けの空間。床の目地も壁のコンクリートにそろえ、端正に仕上げた。玄関ドアを開けても見えるのは階段室だけで、生活の場は見せない


天井や壁の凹凸を隠し、躯体の形を際立たせる

2階LDK。壁構造の建物は、梁(はり)や柱型が出ないすっきりとした箱形。天井と壁は躯体(くたい)を現し、床のみ硬質な塩ビシートを張った。写真左手の収納は取っ手をなくして壁のように見せ、照明器具はコンクリートの躯体天井に埋め込んでフラットに仕上げている


LDKと床レベルをそろえた和室

客間として使う和室は、床がLDKと同じレベルになるよう縁なし畳を敷き込み、引き戸だけで仕切った。日常的にはLDKとひとつながりに使える。階段の踏み板もエキスパンドメタルで、トップライトの光を透かす


階段の裏側に隠された私的な空間

階段の踊り場に隠されたドアを開けると、プライベート空間がある。写真はその中から階段方向を見通したところ。各踊り場に対応して3層あり、内部でも小さな階段で上り下りできる


自然に接する屋上空間

内外の接点は屋上に求めた。ここまで上れば視界も広がる。デッキを張って水栓を設け、子どもたちの遊び場やアウトドアパーティーに、また物干しなど生活の場として使う


 敷地は、幹線道路に続く幅員7メートルほどの道路に面しています。背後には住宅街を控えているものの、このあたりはまだ商店や事務所ビルが混在し、雑然とした環境です。街並みとしての個性に乏しく、ここに「家らしい家」をつくることに、あまり意味はないと思われました。

 不特定多数の人や車が行き来する地域でもあり、建て主は厳重なセキュリティーを求めています。ならばいっそ、徹底して外観から「家らしさ」を消し去ってしまおう、と考えました。

 「家らしさ」を決定づけるのは、窓や玄関のあり方でしょう。とはいえ敷地にゆとりはなく、両隣は建物が近接しているので、道路面に窓を開けないわけにはいきません。

 そこで、建物の前面を、2枚重ねのエキスパンドメタルですっぽり覆うことにしました。これは、工事現場などで用いる、金属製の目の細かいメッシュ状のもの。少しすき間を開けて重ねると、光が干渉してモアレが生じます。家の外から中は見えず、中からは外がほんのり透けて見えます。

 玄関とガレージのある1階部分は、ドアもシャッターも同一のアルミ素材で構成しました。ドアにはノブも鍵穴もなく、小さなLEDランプがかすかに位置を示すのみ。通りすがりの人は、そこにドアがあることさえ気付かないでしょう。

 このドアは、押せば内側にすっと開く仕組み。中は3階まで続く、高さ9メートル・奥行き8メートルの吹き抜けのホールです。この吹き抜けを通じて各階の空間がつながっていますが、玄関から生活の場がのぞかれることはありません。

 生活の中心となるのは2階のLDKです。隣接して和室を設けていますが、日頃は引き戸を開け放っておけば、LDKと一体に使えます。エキスパンドメタルに守られた、デッキの窓も全開可能。建物の端から端まで全長15メートルが、ひとつの空間として体感できます。

 3階は主寝室と水回り、2人の子供の部屋。このほか階段の裏側に、3層の隠し部屋があります。各階の踊り場に入り口を持つ、半階分ずつずれた空間で、それぞれクローゼット、書斎、ロフトに充てました。入り口には玄関同様ノブがなく、外からは壁にしか見えません。

 ノブや取っ手は、「開く」行為を想起させ、誘発します。他人に開けられたくない扉は、それが「開く」と思わせなければいい。そんなことを考えながら、この住宅を設計しました。

 もうひとつ、この住宅で徹底したのは、壁式構造のフラットな躯体(くたい)を生かすことです。壁にも天井にも凹凸をつくらない。壁面収納の扉も取っ手なし、照明はコンクリート天井を丸くくり抜いて取り付けました。

 建て主は、デザインの徹底や無機質な素材の選択に積極的に賛同してくれましたが、生活上の要求もたくさん持っていました。住宅の設計では、こうした要求の数々に、どう対処するかが課題です。それらを整理し統合し、建て主本人さえ気付かない本質を探り出して、造形に結びつけることが私たちの仕事だと思います。

 それと同時に、住宅は町を構成する建築物として、公共的な性格も備えています。「AM HOUSE」は街の性質上閉じましたが、いかなる建物も周囲の環境を拒絶し続けることはできません。敷地一つ一つの個性とどう向き合うかも、重要なことだと考えています。
(川口英俊/アーキテクト・キューブ)

AM HOUSE

建築データ
  所在地: 東京都渋谷区
  家族構成: 夫婦+子ども2人
  竣工: 2005年12月
  敷地面積: 198.34平方メートル
  建築面積: 120.02平方メートル
延べ床面積: 250.28平方メートル
  構造・規模: 鉄筋コンクリート造り、地下1階地上3階
  設計: 川口英俊
  施工: 三浦工務店
  写真: アーキテクト・キューブ
連絡先  
  アーキテクト・キューブ 一級建築士事務所
  代表: 川口英俊
  住所: 〒108-0074東京都港区高輪4-21-11アレックス高輪ビル3F
TEL: 03-5449-1829
FAX: 03-5449-1830
E-MAIL: info@a-3.co.jp
URL: http://www.
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