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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 122「中谷町の家」

道路とリビングを結ぶスロープ、農家のおおらかな空間を再現


傾斜地に広がる農村に建つ母屋

敷地と道路に約1メートルの段差がある状況を生かし、1階玄関へのアプローチのほかに2階リビングへ直接導くスロープを設けた。周囲の建物に合わせた勾配の傾斜屋根をかけ、モダンでいながら違和感のない外観をつくりあげている


1階から飛び出すように延びる2階リビング

黒いスギ板張りの2階部分が、塗り壁の上に突き出す。右手に見える2階建ての棟は以前から建っている離れ。かつて古い母屋があった場所を中庭とし、その南側に新しい母屋を建てた


大小の2つの棟に分けてボリュームを抑えた母屋

リビングや建て主夫妻の寝室などが入る南棟(左側)、和室と祖父の寝室が入る北棟をガラス張りの廊下と玄関でつなぎ、母屋全体のボリューム感を抑えている。細長い水面を設けた中庭は、正面に見える玄関へのアプローチにもなる


吹き抜けや屋外デッキで広がりと一体感を与えるLDK

ワンルームの2階LDK。手前の吹き抜けは1階の書斎に続き、壁の一面が書棚になっている。南側の大開口と細長いデッキは道路から延びるスロープと一体化し、内外空間のつながりを生み出す


窓越しに見える中庭とリビング

リビングの細長い窓から中庭と離れが見える。左手奥は、吹き抜けの片隅に設置した階段室と水回り。練り付け合板で周囲を覆ったボックス状の空間とし、開放的な室内のアクセントとしている


建具の鏡板を再利用したデスクを据えた1階書斎

リビングに続く吹き抜けの下に、L字形に配した書斎。正面の窓の外には田園風景が広がる。写真の手前側には薪(まき)ストーブを、足元には床暖房を設置した


中庭とのつながりを意識した1階の和室

玄関すぐ横に設けた和室。法事などで親戚が集まれるように用意した。障子の外には離れへの通り道になる濡れ縁を設け、中庭とのつながりを強めている


 北斜面の山すそに広がった農村に建つ住宅です。以前からある木造2階建ての離れの向かい側に、中庭をはさんで新しい母屋をつくりました。

 建物の特徴の一つは、道路と2階のリビングを結ぶスロープを設けたことです。敷地が道路面から1メートルほど下がっていたため、中庭を通って1階の玄関へと続く主動線とは別に、緩いスロープで2階へ直接行けるようにしました。

 スロープとつながる2階デッキはLDKが並ぶ広間の幅いっぱいに延び、そのまま一体化します。出入りしやすいデッキを介して、農作業の合間にちょっと休んだり、訪れた人がお茶を飲んでいったりという、かつての農家が持っていた大らかな外と内のつながりを生み出したいと考えました。リビングの中からは南側に広がる小高い丘が一望できます。

 この家に暮らすのは建て主夫妻と祖父。離れは、半ば独立している娘さん2人のためのスペースです。一家は長く兼業農家を続けていましたが、最近定年退職した建て主が本格的に農業に取り組むことになりました。

 農家では、1日に何度も田と家を行き来します。早朝に作業した後、朝ご飯を食べに帰る。再び田に出て、昼にいったん家へ戻ってから午後また出て行くという具合です。2階へ直接誘導するスロープは、広間への出入りのしやすさと同時に収穫物の運搬のしやすさを考慮したものでもありました。

 母屋は、大きな南棟と小さな北棟を並べて配置しています。南棟と北棟は逆向きの片流れ屋根をかけ、ガラス張りの玄関と廊下で間をつなぎました。棟を分割し、視線が抜ける空間を挟むことで、母屋のボリューム感を小さく抑えました。

 南棟の2階は片流れの屋根の傾斜をそのまま天井に現した広間、1階は建て主夫妻の寝室と書斎です。広間と書斎は、吹き抜けによって一つの空間にしました。北棟の2階は祖父の寝室(板間)、1階は親戚の集まりなどに使う和室です。祖父は、2階だけで主な生活ができるようにしています。

 祖父の寝室や和室、あるいは広間の北側に設けた細長い窓からは、玄関へのアプローチを兼ねた中庭を望めます。ここには以前、茅葺(かやぶ)きを金属板で被った屋根をもつ築100年以上の母屋が建っていました。老朽化が進んだため残念ながら取り壊すことになり、今回の新しい母屋を新築したのです。

 元々は旧母屋の周囲に離れと納屋が並び、南側に庭が広がっていました。今回は旧母屋を壊して中庭とし、以前は庭だった場所に新しい母屋を建てました。つまり、母屋と庭が逆転するように配置しています。かつて母屋が建っていた場所を空けておくことで、その記憶を日々の生活の片隅にとどめておけるようにしたかったのです。

 スギ板や砕石などで床面を張り分けた中庭には、細長い長方形の池を設けました。H形鋼でつくった水落口から落ちていく井戸水と通り抜ける風が、水面に小さな波紋を描きます。こうした小さな動きが、日常の景色にちょっとした変化を与えることを期待しています。
(高砂正弘/高砂建築事務所)

中谷町の家

建築データ
  所在地: 兵庫県小野市
  家族構成: 夫婦、祖父
  竣工: 2006年7月
  敷地面積: 435.11平方メートル
  建築面積: 123.88平方メートル
延べ床面積: 178.95平方メートル
  構造・規模: 木造、地上2階
  設計: (建築)高砂正弘/高砂建築事務所、(構造)天野悦治/天野構造設計事務所
  施工: 相互住宅
  写真: 松村芳治
連絡先  
  高砂建築事務所
  代表: 高砂正弘
  住所: 〒567-0034 大阪府茨木市中穂積2-6-22
TEL: 072-623-0136
FAX: 072-623-0179
E-MAIL: info@
takasago.co.jp
URL: http://www.
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