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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 14 「元麻布の家」

パークルームを見せる家、車愛好家が求めた究極の都市住宅

ショールームのようなエントランス空間
天井を鏡張りとし、パークルームの床は白く塗装。ショールームを歩くような楽しさを演出している。エントランスのガラスの壁は、車輪の内輪差を計算し、道に対して45度角に開いた

各階をつなぐ螺旋(らせん)階段
階段の縦ダクトの中に換気ファンを仕込み、熱環境を改善。また、踏み板をパンチングメタルにし、エントランス空間の雰囲気を上階に反映させた

プライベートスペースの工夫
夫婦の互いのプライベートスペースを確保するため、ベッドを大きく離して配置。右側の丸く仕切ったスペースは、明かりを苦手とするご主人のスペース
柳の木肌が光をやわらかく変換
斜線規制のため傾斜した壁に、柳を採用。白い木肌によって柔らかくなった光が、螺旋階段から下階へ降り注ぐ。上はロフトスペース。スチールのファインフロアと白で統一されたインテリアが、室内をより明るく開放的にみせる
落ち着いたリビングスペース
木のぬくもりを感じる屋根裏部屋のようなリビングスペース。細い柳のスリットが、傾斜した壁と天井の圧迫感を軽減
街を配慮した外観
外壁の一部に、地下鉄の地上換気口などに用いるスチールのファインフロアを使用。建築の量感を感じさせつつ、透過する光によってやわらかな表情を生む。ガルバリウム鋼板の屋根を茶色に着色したのは街並みへの配慮

 ここは東京都港区元麻布。かつて都内の高級住宅地として閑静な佇まいであったこの界隈(かいわい)も、今は小さく区画された敷地に多くの住宅が建ち並びます。その一角の建て売り住宅に20年間お住まいの施主は、50代のご夫婦。夫婦2人だけの生活で、「都会ならではの暮らしを享受できる、遊び心のある住まい」を望んでいました。高層マンションへの移住も考えたそうですが、共用廊下やエレベーターが心理的に都市との距離を遠くする、と建て替えを依頼されました。

 三角に変形した約19坪の敷地。限られた敷地条件と床面積で、理想の住まいを実現するには、住み手の希望する条件にプライオリティをつけること。その主旨を理解されたご夫妻から出された条件はふたつ。それは、車が大好きなご主人のために2台分のパークルームを確保すること、老後を見据えてエレベーターを設置すること、でした。

 この家を個性的にしている最大の要因は、1階のパークルームとエントランスフロアーのデザインです。エントランスと曲面ガラスで仕切られた2つのパークルームには、ご主人の愛車、ポルシェ・ボクスターと来客者の車が、オブジェのように置かれます。天井を鏡張りとした効果もあって、訪れる人は、まるでショールームにいるような楽しさが味わえます。都市を移動する車と居住空間を視覚的につなぐことで、都会性を強く感じさせる、こだわりの都市住宅を実現しました。

 2階はご夫婦の寝室。1階の雰囲気とは対照的に、柳の細角材をつきあわせた内装仕上げによって、現代和風的なイメージをかもし出しています。柳の柔らかな質感は、空間を包み込むようなやさしさを感じさせます。壁の一部に鏡を埋め込み、空間の広がりを視覚的に演出。都市の喧噪から解放される、くつろぎの空間を提案しました。

 2階には洗面台が2つあります。ご夫婦の生活習慣がほぼ同じであるため、朝の洗面は同時に済ませたい、とのご要望に応じました。しかし、ベッドは離して配置。少しでも明かりを感じると眠れない、というご主人のために、可動の間仕切りで、ベッドスペースを独立させることができます。

 その一方で、この住宅には、いわゆる「お風呂」がないのも特徴です。大好きな車のパークルームとエレベーターのために、「普段ほとんど使わないものを省くのは当然」と、施主の明確な方針から、バスタブは置かずシャワールームとしました。

 3階はキッチンと居室です。斜線制限をクリアするために、屋根裏部屋のような形状になっていますが、2階と同様に柳で仕上げられた壁により、圧迫感を感じません。家具は北欧産の白木で統一。南西に面した窓から差し込む光は、木の温もりとパンチングメタルのフィルター効果によって柔らかな光となり、螺旋(らせん)階段を通って下階へ降り注ぎます。

 白く細い螺旋階段が、1階から2階、3階を一体の空間としています。これは、パークルームにあふれる遊び心を、建物全体に感じさせると同時に、熱環境を改善するための装置として機能します。夏は、下階の冷えた空気を上階へ、冬は上階の暖かい空気を下階へ送るため、換気ファンを縦ダクトの中に仕込みました。

 また、2階、3階の外壁と2階の床および屋根にセルロースの断熱材を使用し、さらに、ルーバーをバルコニー前面に設置。2階東西面の窓には普通のペアガラスを、3階東西面はLow-Eペアガラスを使用することで、空調負荷の軽減を図りました。

 外観の大きな特徴は、地下鉄の地上換気口などに用いられるスチールのファインフロアを、外壁のテラスにあたる部分に使用していることです。外に対しては建築としての量感を感じさせながら、内に対しては透過性を確保し、光や風を遮ることなくスムーズに室内に導きます。

 設計に当たっては、最初に示されたふたつの条件以外は、材料の選定やカラーコーディネートなど、すべてを任されました。「都市とのかかわりを大切に、アクティブに暮らしたい」という、施主の明快な意思表示が、空間を発想する上で大きな手がかりとなりました。その一方で、施工段階まですべて任されたことは、良い意味でのプレッシャーでした。「住まいづくり」は、施主と設計者の信頼関係が大切だと、あらためて感じています。

 住む人のキャラクターを十分理解し、その人にフィットした住空間を提供することが私たち建築家の仕事です。その上で、省資源や省エネルギーなど、地球環境時代にマッチした素材の選択やデザインを提案し、街と生活との調整装置として、人にやさしく、環境にやさしい住まいづくりにチャレンジしていきたいと考えています。
(早草睦惠・セルスペースアーキテクツ)


「元麻布の家」


建築データ
  所在地: 東京都港区
  家族構成: 夫婦
  竣工: 2002年1月
  敷地: 62.50平方メートル
  建築面積: 37.45平方メートル
  延べ床面積: 112.35平方メートル
  構造・規模: S造、地上3階建て
  施工:

梅村工務店

  工事費: 坪95万円(ほぼすべての家電製品込み)
  設計: 早草睦惠(セルスペースアーキテクツ)
  写真: 木田勝久
連絡先
  セルスペースアーキテクツ
  代表: 早草睦惠
  住所: 〒146-0085
東京都大田区久が原3-12-3
  TEL: 03-5748-1011
  FAX: 03-5748-1012
  E-MAIL: mutsu@kt.rim.or.jp
  HP: http://www.cell-space.com
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