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Housing File 16 「千駄ヶ谷の家」

中庭から光と風を取り込む都市型住宅、ローコストでも質の高い生活空間

外に閉じたコンクリートの外壁
都心の密集地でプライバシーを確保するために、外観は閉鎖的にした。コンクリート打ち放しの外壁は、素材そのものの質感を出すために上薬を使っていない。自然にまかせ、雨に濡れて色が変わっていくさまを見るのも楽しみのひとつ
外観からは想像できない開放感あふれる室内
1階は多目的スペース。小規模のコンサートを開いたり、絵画や版画の個展を開いたりすることもある。イベントがないときは、木材の保管場所になる。一部を吹き抜けとして、2階の仕事場と一体感をもたせた
中庭に向かって開かれた生活空間
3階は生活の場であるリビングとダイニング。ワンルームの空間を半円形の中庭が貫くことで、部屋の中にいながら屋外の雰囲気も楽しめる不思議な場所

家の中心を貫く中庭
都心では外に向かって大きな開口部を設けることが、必ずしも最善策ではない。必要な採光と換気をとるために、建物中心に3層吹き抜けの中庭を設けて、すべての部屋をそこへ向けて開いた

屋上をテラスとして有効利用
屋上を活用する家は少ない。広い庭を持つことが難しい都心では、屋上を緑化すれば、庭同様の空間が得られることに加え、屋根面の断熱効果もある。ここでは、屋上テラスに面してペントハウス風に寝室と浴室を配置
テラスに面した木曽ヒノキでしつらえた浴室
最小限の内装と設備しか備えなかったからこそ、素材にはこだわった。浴室はすべてヒノキの無垢(むく)材。外からは見えにくいガラスで大きな窓をつくり、屋上テラスの緑を見ながらくつろげる心地のよい場所となっている

 この家は、私たち夫婦の自宅兼事務所です。都心の建て込んだ地域にあり、道路に面した西側以外の3方が住宅に囲まれています。28坪しかない土地で必要な空間ボリュームを得るためには、3階建てにするしかない。木造では耐震・防火性に不安があるため、鉄筋コンクリート造を選択しました。コンクリート打ち放しならば、構造材がそのまま仕上げ材となります。しかも、耐久性は60年以上。結果として、ローコストでありながら性能の高い住宅を実現することに成功しました。

 この建物は外壁に窓がほとんどないため、外からは閉塞的に見えるでしょう。しかし中に入れば、各階がワンルームのゆったりとした空間になっている上に、建物中心に位置する中庭から降り注ぐ光で明るく、開放感を味わえる家だとわかります。1階はイベントに使う多目的スペース、2階が仕事場、3階がLDKです。外に閉じることでプライバシーを確保し、採光と通風は中庭でとる。都心の密集地ではこの形式が大変有効だと思います。

 そして屋上を庭園として利用する。私たちは都心の厳しい立地条件の中でも、自然を感じられる住まいをつくりたいと考えました。周囲の家を見渡すと、屋上はエアコン室外機を設置するか、洗濯物干場として利用する程度。しかし、植物をおいて、テラスとして屋上を有効活用すれば、都市部の狭小地でも庭同様の自然に触れる心地よい場所が自宅に得られるのです。

  浴室と寝室は、ペントハウス風に屋上テラスに面して設けました。天気のよい日は、テラスに出したテーブルで食事をとり、近くの新宿御苑の緑を借景に優雅なひとときを過ごすことができます。その一方で、ローコストでつくるために内装や設備は最小限にしつらえ、余分なものはすべてそぎ落とす。とは言え、内装には無垢(むく)のチーク材と木曽ヒノキを効果的に使っているので、決して貧相な印象は与えません。

  私たちは、ローコストでも質の高い生活空間をつくることが大切だと思っています。そのために、素材には人一倍こだわります。木、石、和紙、塗り壁など自然素材が持つ深みのある味わい。鉄、ガラス、コンクリートなど近代の材料が持つ力強さ。それら素材の存在感をうまく引き出すことができれば、それだけで空間は驚くほど美しく豊かになるのです。

 特に無垢材の扱いは得意とするところ。木材選びは工務店まかせにせず、自分たちで木場に買い付けに行きます。設計、施工が始まってからでは、良質のものがそろえられなかったり、割高になったりするので、安い時期にまとめて買い、それを事務所で乾燥させて保管しておくのです。

  ローコストだからと言って、チープな人工素材でよしとするのではなく、味わいのある無垢素材を使う努力を怠らないこと。生活に本当に大事なものを見極めること。それが、結果として質のよい空間を生み出すことにつながり、さらにはその素材に触れて生活する人々の精神にもよい影響を与えてくれる、そう考えています。
(松井英子・松井建築研究所)


「千駄ヶ谷の家」


建築データ
  所在地: 東京都渋谷区
  家族構成: 夫婦
  竣工: 1999年6月
  敷地: 92.4平方メートル
  建築面積: 59.4平方メートル
  延べ床面積: 184.4平方メートル
  構造・規模: 鉄筋コンクリート壁式構造、4階建て
  工事費: 約3500万円
  設計: 松井俊一、松井英子(松井建築研究所)
  写真: 八木沼卓
連絡先
  松井建築研究所
  代表: 松井俊一
住所: 〒151-0051
東京都渋谷区千駄ヶ谷5-11-9
  TEL: 03-3355-1254
  FAX: 03-3355-1255
  E-MAIL: matsui-k@topaz.ocn.ne.jp
  HP: http://www.matsui-ken.server-shared.com/
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