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こだわりのデザイナーズ住宅 Back number

Housing File 184「HOUSE C 地層の家」

都心に住む一家が週末を過ごす、土の手触りがやさしい海の家



 目の前に広がるのは、波の穏やかな青い海。背後には自然そのままの里山が控えています。敷地を初めて訪れたとき、そのどちらもないがしろにしたくないと思いました。東西両隣に家が建つことがわかっていたので、南北両面に大きな開口を持つ門型の建物にすることは、比較的すんなりと決まりました。

 都心の超高層マンションに住む建て主は、せめて週末は自然の中で過ごしたいと、この土地を購入したそうです。要望は3つ。ベルギー出身で地震が苦手な夫のために、頑丈な鉄筋コンクリートでつくること、夫婦と幼い娘の家族3人が一緒に過ごせるワンルーム的な空間にすること、そして、海側に大きなウッドデッキを設けることでした。

 海のすぐそばに鉄筋コンクリートの建物をつくる場合、潮風による塩害に十分な注意が必要です。また、せっかくの自然豊かな環境に、コンクリートの無機質な表情はふさわしくないように思われました。そこで、コンクリートの建物を現地の土でくるみ、躯体(くたい)の保護とデザインを兼ねようと思い立ったのです。

 屋根の上の土は、そのままでは風で飛ばされてしまうので、野草の種をまいて根を張らせます。壁には土にセメントと樹脂を混ぜたものを5センチほどの厚さで塗りつけ、表面を木ごてや金ぐし、金ぼうきなど、さまざまな道具を使ってかき落としてならしました。この工程には建て主も家族総出で参加しています。土にはあらかじめ砂利や貝殻が混ぜてあったため、作業中にいろいろなものが土の中から現れて、まるで発掘のようでした。

 自然の土を使い、いろんな人がいろんな道具を使ってつくるこの土壁が、どんな表情に仕上がるかは、設計者のコントロールが及ぶところではありません。そこが、私自身にとっての楽しみでした。結果として、敷地の近くで見られる地層とよく似たものになったのがおもしろかったですね。

 建築とは、コミュニケーションのデザインだと考えています。建て主と建築家とのコミュニケーションはもとより、建て主と建物とのコミュニケーションも大事です。この家では、建てる時に壁に触れた記憶が、建ててからも思わず壁をなでたくなるような気持ちを呼び起こしてくれるといいと願っています。

 住宅は日常生活の場ですから、あまり刺激が強くてはいけないかもしれませんが、シンプルすぎるのも味気ない。それぞれ家族の個性にふさわしい、情感豊かなものありたいですね。それには、壁に触れたり、どこかに腰掛けたりといった、建築との触れ合いや、何かの周りを回るとか、小さな穴をのぞき込むとか、そんな小さな「行為」がきっかけになるのではないかと考えています。何気ない行為が引き起こす感覚や感情が、生活をより豊かにする、そんな住宅をつくっていきたいと思います。
(中村拓志/NAP建築設計事務所)


HOUSE C 地層の家

平面図
建築データ
  所在地: 千葉県
  家族構成: 夫婦+子ども1人
  竣工: 2008年10月
  敷地面積: 825平方メートル
  建築面積: 90平方メートル
延べ床面積: 90平方メートル
  構造・規模: 平屋建て、鉄筋コンクリート造り
  設計: 中村拓志/NAP建築設計事務所
  施工: 屋代工務店
連絡先  
  NAP建築設計事務所
  代表: 中村拓志
  住所: 〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-15-7-1F
  TEL: 03-5426-0105
  FAX: 03-3428-0886
  E-MAIL: nakamura@nakam.info
  URL: http://www.nakam.info/
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