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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 19 「鎌倉A邸」

日本の伝統を現代風にアレンジ、自然素材を用いた健康によい家

ベンガラ、しっくいを外壁塗装材として使用
軒裏の塗装材は、天然の鉱物を顔料にしたベンガラ。調合は京都の職人に依頼した。白い壁の部分にはしっくいを使っている

切妻の瓦屋根に覆われた安定感のある家
切妻の大屋根は、実際の面積よりも大きな空間に見せる効果があり、構造的にも無駄がない。瓦は断熱性に優れた日本古来の材料。一部にサイディングやペアガラスを使うなど、伝統的材料と新建材を適材適所で使い分けた

加茂縞の織物を張った襖
素材をむき出しで使うことが条件だったが、それだけでは味気ない。間仕切りの襖には、新潟の加茂縞という織物を張った。シンプルな柄でありながら、空間の雰囲気を引き締める

襖を開け放すことで用途が広がる和室
奥の和室は夫婦の寝室、手前の和室は食事室として使われるが、襖を開け放せば大勢の人を呼べる客間にもなる。用途を限定しない、日本文化の知恵。奥の床の間脇の襖には、唐紙を張った

階段まわりは子どもたちの多目的スペース
2階は子どもたちのためのスペース。階段を上がってすぐの場所に多目的スペースがある。書斎と吹き抜けによってつながることで、上下階に一体感をもたせた

障子によって光のコントラストを弱める
縁側との間仕切りには障子を用いた。外からの強い日射しも、障子を通した柔らかい光となって部屋を照らす。強い色彩の襖の織物や唐紙は、障子越しの光によって、より味わい深いものとなる

 鎌倉に建つこの家は、博物館に勤めるご主人と図書館の司書である夫人、そして小学生のふたりの子ども、計4人の住まいです。以前から、敷地の近くに住んでいましたが、家族全員がアトピー性皮膚炎に悩まされていました。住宅の間取りや新建材などが原因と考えられる健康上の問題から、新たに家を建てることにしたのです。

 施主の希望は、柱、梁、壁などはすべて自然素材を使い、塗装や化粧をせずにむき出しのままにしたいということでした。そこで私は、日本の伝統文化を生かした住宅設計を目指すことにしました。時代錯誤と受け取られるかもしれませんが、伝統的な住まいは、日本の気候風土にあっているうえに、人間の健康に害を与えるような素材は使っていないなど、多くの利点を持っているからです。

 もちろん、昔の技術をそのまま使うわけではありません。隙間風などは入らないように、外と接する部分は、信頼性の高い現代工法を採り入れました。ガラスにはペアガラスを用いて断熱性能を高め、同時に、熱い空気を2階から外へ逃がすように換気のルートもきちんと確保します。

 1階は、夫婦の膨大な蔵書を収める書斎と、和室2間、台所などの水回りを配置しました。和室はときによって食堂にもなり、客間にもなり、夫婦の寝室にもなります。間仕切りを開け放せば、大勢でパーティーもできます。用途に融通が利くのも、日本の伝統家屋ならではの知恵です。また、間仕切りをすべて閉じても、風が通り抜けるように欄間を設けました。

 2階は、子どもたちのためのスペース。吹き抜けによって書斎とつなげることで、上下階に一体感を生み出しました。

 施主の希望から、柱や梁、天井にムクのスギ材をむき出しで使いましたが、そのままではログハウスのように見えてしまう。そこで、空間の雰囲気を引き締めるために、和室の襖には新潟の加茂縞という織物を張りました。また、床の間脇には唐紙を、縁側との間仕切りには障子を張りました。障子を通して射し込む柔らかい光が、強い色彩の織物や唐紙をより味わい深いものへと変えています。

 一方、外壁は天然の鉱石を顔料にしたベンガラで塗装。赤と黒のベンガラを調合したあずき色です。一部を白い壁にするために、しっくいも使いました。

 伝統的な材料や工法には、多くの知恵がつまっています。在来工法を私が好んで用いるのは、何百年と建ち続けている、その実績があるからです。そして、日本の風土に最も適しているからこそ、残ってきたのだと思うのです。また、リフォームしやすいという利点もあります。それらの技術を過去のものとしてしまうのではなく、現代の技術とうまく融合させることで、健康によい快適な家ができるのです。
 
 もうひとつ、私が積極的に取り組んでいることに、施工の分離発注があります。通常であれば、建築家は設計した後、施工会社に一括して現場の指揮を任せます。分離発注という方法では、施主が個々の職人と契約し、建築家が施主の代理としてそれぞれの職人を手配し、現場での工程を監理します。

 ですから、毎日現場に通うことになり、それによって完成度も上がる。自分が職人のひとりになったようで、ものをつくっていることを実感することもできます。施主には毎日メールで現場報告を入れるなど、監理者の責任を果たし、信頼を得ました。工事会社を通す方法に比べて、金額も抑えられるので、施主にとっても悪いことではないはずです。

 職人の手配、工程スケジュールの調整、工事費の管理と、すべてを建築家である自分が担当する分離発注という方法をとるまでには、随分と長い時間が必要でした。同じ金額でも質の高い家をつくりたい、自分も施主も幸せになれるような方法はないか、と模索し続けてきた20年の経験があるからこそ、自信を持って提案できる方法だと思います。
(藤本幸充・鎌倉設計工房)


「鎌倉A邸」


建築データ
  所在地: 神奈川県
  家族構成: 夫婦、子ども2人
  竣工: 2003年3月
  敷地: 194平方メートル
  建築面積: 76平方メートル
  延べ床面積: 128平方メートル
  構造・規模: 木造、2階建て
  総工費: 約2200万円
  設計: 藤本幸充(鎌倉設計工房)
  写真: 藤本幸充
連絡先
  鎌倉設計工房
  代表: 藤本幸充
住所: 〒220-0023
神奈川県横浜市西区平沼1-40-9-1015
  TEL: 045-312-6604
  FAX: 045-316-1453
  E-MAIL: info@kamakobo.com
  HP: http://www.kamakobo.com
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