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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 20 「S.I.BUILDING」

街に浮遊するリビングテラス、垂直志向の店舗付き都市住宅

宙に浮いた黒いコンクリートが個性的なファサード
上層にいくほど開放感のあるプラン。3階を黒いコンクリートで囲み、ファサードのアクセントとした。水平垂直のラインが絡み合った表情が特徴的。各階に設けたスリットから自然を取り込み、街とコンタクトする

直径1200ミリ、トップライトのあるアウトドアリビング
4階はバスなどの水回りと5メートル角のアウトドアリビングで構成。空に向けて開放された空間だ。コンクリート打ち放しの壁に埋め込まれた照明は、室内まで続く

内と外にとっての床の間
テラスは内と外との緩衝帯、都市の縁側。床の間のようなコンクリートの棚はそのまま室内へと続く。この棚の施工中にできた雨粒の模様の一部分を残して「自然がつくりだす表情」とした

ピクチャーウインドーのあるベッドルーム
外に向かって大きく開いたベッドルーム。全面ガラスではあるが、テラスと街路樹の樹冠がつくりだす距離感によって、外部の視線は気にならない。不必要な機能を表出させない、ミニマムで落ち着いた空間

黒と赤でコーディネートされたショップ
1階はフランス製の高級オリジナルバックを扱うショップ。黒をベースに赤をきかせたインテリアが高級感を演出する。建物全体を包む個性自体が看板

夕闇に浮かび上がる「S.I.BUILDING」
シンプルな外観が室内照明で豊かな表情をみせる。住み手の意志を外観で伝える「もてなし」のビルディング

 「S.I.BUILDING」は、福岡市の中心部のはずれ、大きな池のある「大濠(おおほり)公園」と、海の見える丘にある「西公園」に挟まれたエリアにあります。ここは住宅地域と商業地域の接点であり、都会のにぎわいと緑の多い住宅街の佇まいを併せ持った立地です。

 敷地は間口5.6メートル、奥行き13.7メートルの狭小地。施主が自ら営む高級かばん店との併用住宅を依頼されました。施主との対話の中でわかったことは、プライバシーやセキュリティーも大切だが、公園が身近にあるという周辺環境をとても気に入っており、自分の庭を持つ以上の魅力を感じている、ということでした。

 これまで郊外の仕事が多かった私には、「都心に住むとはどういうことか」という問いがありました。だれしも自然豊かな田舎に対するあこがれと、同様に都会に対するあこがれを持っています。都会には、人が集まるエネルギーがある一方、そこから排せつされるマイナスのエネルギーに悩まされるという、相反した状況が常に渦巻いています。

 都会のストレスの渦中に住みながら、自分を開放していく生活を両立できないだろうか。快適な都市生活を積極的に送るためのバランスを求めて、プランニングが始まりました。

 1階は高級かばん店、2階が食事スペースと客間、3階が寝室、4階は風呂と洗面があるだけのリビングです。各階は細長い筒型の形状で、ひと間続きのような間取りです。内部のコンクリートの棚がそのままテラスに続くなど、水平の広がりを強調しながら、狭小感を克服しています。

 セキュリティーのため、窓などの開放部は道路側に限定しました。ガラス一枚で都会と向き合う緊張感を嫌い、全てテラスを介して外の風景が展開する空間構成となっています。このテラスが、都市、自然、生活との関係をうまく調整します。テラスの壁に落ちる影の移ろいが時の刻みを感じさせ、棚の一輪の花が内外になごみを伝えます。

 テラスを囲む壁や床にはスリットを入れました。すべてを閉じないで、どこかに隙き間を感じていたい、街の風景や気配ともつながっていたいという欲求への配慮です。

 上階にいくほどテラスは広くなり、視界も広がってきます。2階からは青々と葉を茂らす街路樹が見え、3階では街路樹と空が、そして4階からは大空しかみえません。1階から4階への上昇感覚によって、建築が一種の「ストレス開放装置」に変容するとでもいうのでしょうか。

 実は、施主の希望は当初3階建てでした。しかし、この場所に立ったとき、「4階から何かが始まりそうだ」という予感がしたのです。4階の半分はテラスで、約5メートル角のアウトドアリビングとしてデザインしました。空に向けて開け放たれた直径1200ミリの空隙により、四季折々の自然の移ろいを感じながら過ごせます。降り込む雨や雪すら、美しいと思えるでしょう。

 もともと一人で住む都会の家を求めていた施主の意向に沿って、4階はフルに楽しむ空間として設計しました。食事やお酒を大勢で、また一人で楽しんだり、花火大会を眺めるにもちょうどいい場所です。

 奥行きの深いコンクリート打ち放しの庇(ひさし)と、壁で囲まれた陰影のある表情がビルの顔。商業的にもシンプルなファサードの方が引き立つと考え、目立った看板はつけないことにしました。そして、3階の床と壁を宙に浮いたような黒のコンクリートで囲い、垂直方向の建築ファサードを分節化。ショップも黒を基調色に、照明を組み込んだ赤いスリットで分節しています。

 内と外を呼応させることも、ビルの顔づくり作業と考えました。職住一体のビルでは、こうした住まいとショップで構成される建物の外観が、ひとつのサインとなり、街の表情に豊かさをもたらすのではないでしょうか。

 私が設計する際に意識することは、場づくりです。心地よい空間は、余白や隙き間に呼び込まれる光、影、風、音といった事象によって成立すると考えています。同時に、空間が住む人の様々な行為を誘発する力を持つことによって、生活の豊かさを支えると思います。

 設計者にとって、住まいづくりは様々な価値観、人生観と出会える仕事です。そこで過ごす時間をどれだけ深くつくれるかは、施主との対話の中から生まれてきます。どんな環境にあっても、その人らしい時間を取り戻せる場所をつくりたいと思います。
(森 裕・森裕建築設計事務所)


「S.I.BUILDING」

建築データ
  所在地: 福岡市中央区
  家族構成: 夫婦
  竣工: 2002年9月
  敷地: 77.75平方メートル
  建築面積: 61.62平方メートル
  延べ床面積: 196.08平方メートル
  構造・規模: RC造、4階建て
  総工費: 約4760万円
  設計: 森 裕(森裕建築設計事務所)
  構造: 野口豊高建築構造設計
家具: 材山工房
施工: 伊佐工務店
写真: Nacasa&Partners、森裕建築設計事務所
連絡先
  株式会社 森裕建築設計事務所
  代表: 森 裕
住所: 〒851-0032
福岡県福岡市南区塩原4-5-31
  TEL: 092-542-2707
  FAX: 092-542-2711
  E-MAIL: info@maostyle.com
  HP: http://www.maostyle.com/

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