この家を特徴付けているのは、吹き抜けのリビング・ダイニングを中心に連続する空間構成と、大きな開口部に設置したベイマツの格子戸です。特に南面は1階と2階をほぼ全面開口とし、格子戸によって光や風の取り入れ方を調整できるようにしました。
建て主は、ご夫婦と美大に通う長女の3人家族です。
1階は、引き戸を介してつながるリビング・ダイニングと和室。2階には、吹き抜けを挟んで夫妻の主寝室と長女の寝室を並べました。長女の寝室の北側には、引き戸を閉じると独立するアトリエを用意しています。吹き抜けに面した2階ホールはもう1つのアトリエとなっていて、工芸の趣味を持つ夫人もここを使います。
1、2階の各室は、引き戸を開け放つと吹き抜けを中心に空間がつながります。ご主人も家で過ごす時間が長く、家族3人が家の中にいることも多いようです。それぞれが自分の居場所を確保しつつ、適度な近さを感じられる構成としました。
同時に意識したのが、自然を生かした室内環境のコントロールです。ご家族はエアコンが苦手ということでした。敷地は横浜市の郊外に位置し、面積に余裕があるなど周辺条件も良かったため、深い軒や格子戸などを工夫して日射や風を積極的に利用することにしました。
格子戸は、閉じたままでも光と風を取り込む装置となります。1.3メートル突き出した軒や南面を貫く2階バルコニーが夏の強い日射を遮り、太陽高度の低い冬には格子の間から室内に日が差し込みます。軒が出ているので、多少の雨なら窓を開けても大丈夫。1階は、格子の内側にはめ込んだ障子が、入り込む光に柔らかさを加えます。
ゆったりした敷地のやや北寄りに建物を配し、南側だけでなく、アプローチとなる北側にも小さな庭を用意しました。家の中心となるリビング・ダイニングには北側にも格子戸の開口を設けて南北の庭を視覚的につなげ、風の通り道を確保しました。
実は、吹き抜けのリビング・ダイニングを中心にした構成や格子戸のある大開口は、私が以前手がけた家を参考にしています。夫人が、その家の夫人と趣味を通じた知り合いで、家を訪れた時に設計を気に入ってくださったのです。「同じ造りの家が欲しい」というのが当初の要望でした。
ゆったりした敷地条件なども似ていましたが、先例では家族が夫婦2人だったのに対し今回は3人であるなど、生活スタイルは異なります。そこで基本的な考え方は踏襲しながら、今回の家族にふさわしい空間構成を考えました。
例えば、2階の北側にある2つのアトリエは、この家族の暮らし方に合わせて用意したものです。アトリエ空間を充実させるために、先例では北側の端に寄せていた階段をリビングと和室の間に設けました。当初、夫妻は「階段によって、リビングと和室の連続性が失われてしまうのでは」と心配していましたが、雰囲気の似たリビング階段をもつ住宅を見ていただき安心してもらいました。
竣工から1年ほどたちました。設計の意図どおり、夏は風が通って涼しく、冬も晴れた日は入り込む日差しで暖かいとのこと。朝晩だけ、1階のガス温水式床暖房を利用しているそうです。光に包まれた空間で気持ち良く過ごしているというお話を聞き、うれしく思っています。
(多羅尾直子/タラオ・ヒイロ・アーキテクツ)
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