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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 22 「スパニッシュコートのある家」

稽古場のあるスキップフロアの家、独立した3つの空間を中庭がつなぐ

丸い小窓でプライバシーを守りつつ光を採る
間口が狭く、奥行きの深い敷地。通りに面した北側外観から、中の様子を伺い知ることはできない。壁に開けた丸い小窓は、プライバシーを確保しながら、客室に光を採り入れるためのデザイン。夜は小窓から漏れる光が、美しい外観を演出する

家全体をつなぐ中庭
中庭をL字型に配置。稽古場に面した1階東側の中庭から階段を上ると、リビングに面した2階南側テラスにたどりつく。この階段はフラメンコの舞台としても利用される

屋根のないリビング、2階南側テラス
居住スペースに隣接した南側テラスは、もう1つのリビング。お茶を飲んだり、友達を招いたりする空間。L字型に配置した中庭は、家全体をつなぎ、多目的に活用できるようデザインした

高低差で領域を分けた居住スペース
2階のリビングから半階上がると書斎。もう半階上がると寝室。間仕切りはなく、高低差だけで領域を分けている。リビングは2層分の高さをもつ

視覚的に広く見せる効果をもつテラス
リビングの前に設けられたテラスは、レベルをそろえたことで、室内と一体化した空間として利用できる。テラス自体は、奥行き2.7メートルしかないため、閉塞感を感じさせないよう、外周の壁に窓を設けた

小窓から光が漏れるゲストルーム
スペインから来客があったときに使われる客間。居住スペース、稽古場とは玄関を別にし、ホテルの一室ような孤立した部屋。北側外壁の丸窓は、そのままゲストルームの採光のための窓となっている

大きな窓をもつ浴室
浴室は、北側が大きなガラス張りとなっている。外壁でしっかり囲われているため、通りからは見えないが、浴室からは周囲の家並みが眺められる

 都内の50坪の土地に建つ、30代独身女性の家です。彼女はフラメンコ・ダンサーなので、その稽古(けいこ)場と、スペインからの来客用のゲストルーム、そして自分のためのゆとりのある居住スペースが欲しいと、私のところにやってきました。

 彼女の生活において、フラメンコは切っても切り離せないもの。好きなときにいつでも使える稽古場が必要だ、と。しかし、フラメンコ教室をそこで開きたいので、生徒たちが訪れることを考えると、居住スペースとは隔離したい。そこで、外から出入りしやすい1階に広い稽古場を配置し、その上に居住スペースを載せ、一度玄関を出ないと行き来ができないよう、空間を完全に独立させることにしました。

 同様に、海外からの来客のためのゲストルームも、ひとり暮らしの彼女にとっては切り離したいところ。ホテルの一室のように孤立させ、居住スペースのプライバシーは確保することを考えました。つまり、1つの建物の中に3つの異なった性質の空間があり、お互い干渉しないように独立させるプランです。

 この家の構成の特徴は、断面図に表れています。稽古場の部分が1.5層分の高さになったことで、家全体がスキップフロアの形式をとっています。稽古場から外部階段を使って、半階上がったところにゲストルーム、また半階上がると、居住スペースの玄関に出ます。

 プライバシーが確保された居住スペースは、間仕切りのないワンルーム。スキップフロアを利用して、レベル差だけで領域を分けています。2階リビングから、半階上がったところが書斎。そして、また半階上がると寝室です。ひとり暮らしだから、壁で部屋を区切る必要がない。天井が高く、実際の面積より視覚的に広く感じられるのびのびとした空間になりました。

 この建物に光と風をどう取り入れるかは、悩みどころでした。私は、家づくりにおいて、中庭をつくることをテーマとしています。内部空間と一続きになった中庭は、光や風のためだけでなく、もう1つ部屋があるように感じられ、屋外パーティーを開くなどアクティビティの幅を広げます。何と言っても、室内では得られない開放感があります。特に、周りに家が建て込んだ都心居住で庭をつくるなら、プライバシーや防犯上からも、外からのぞかれる心配のない中庭形式が一番有効です。

 この家は、独立した空間が異なるレベルに存在しているので、どのように中庭を配置するかが問題でした。最終的に、間口が狭く奥行きの長い敷地であったことから、L字型を選択。1階の稽古場の東側と、2階のリビングの南側をつなぐ配置です。

 まず、隣地との境界に中庭の外周となる壁を立て、プライバシーを確保する。施主が、スペイン風の中庭にあこがれていたことから、塗装にスタッコ(西洋風しっくい)を採用しました。そして、稽古場、リビングそれぞれのレベルに合わせるために、コーナー部分に階段を設け、高低差がついた中庭(テラス)としています。両方の中庭はつながっているので、切り離された稽古場と居住スペースが、ゆるやかに連続するようになりました。施主は、この中庭を使って行き来することもできます。

 完成後、稽古場と一続きになった1階東側の中庭は、階段を利用したフラメンコのステージとして使われています。また、2階南側のテラスは、リビングとつながったお茶を飲むスペースになり、友達を招いてのパーティー空間にもなります。室内とレベルを合わせたことによって、使える中庭となり、生活をより一層楽しむための空間として機能しているようです。

 家を建てる方に言いたいのは、“生活を楽しんでほしい”ということ。事務所を訪れた人には、まず「家で何がしたいのか」を聞きます。即座に答えられない方がほとんどですが、それは難しく考えるから。「学校から帰った子供と会話しながら、料理がしたい」とか、「おいしく食事をとりたい」とか、そんなことでかまいません。その人なりの生活の楽しみ方が見えれば、そこからアイデアが広がり、設計作業も楽しくなるのです。

 「何畳の部屋が欲しい」とか「オープンキッチンにしたい」とか、具体的な設計は建築家の仕事で、その人が“どんな生活を送りたいか”が、家づくりでは最も重要です。私は最初の段階で、平面図を土台に施主とじっくり話し合います。合意が得られて、初めて模型なり、パースで見せる。その人の生活に基づいた領域づくりをする前に、空間デザインが先行するのは間違っていると思うからです。

 私は、ブティックや飲食店などのインテリア、商店建築も多く手掛けてきました。売れる店をつくるために徹底したデザインを追求してきたので、空間の演出法は心得ているつもりです。しかし、住宅では、ただスタイリッシュなだけの使いづらい家をつくることはできない。生活を楽しみたい施主と一緒に家づくりを進めることが、私にとっての仕事の楽しみ方なのです。
(安井秀夫・安井秀夫アトリエ)


「スパニッシュコートのある家」

建築データ
  所在地: 東京都江戸川区
  家族構成: 1人
  竣工: 2002年7月
  敷地: 142.57平方メートル
  建築面積: 84.01平方メートル
  延べ床面積: 211.64平方メートル
  構造・規模: RC構造・一部鉄骨造、3階建て
  設計: 安井秀夫(安井秀夫アトリエ)
  写真: Nacasa&Partners
連絡先
  安井秀夫アトリエ
  代表: 安井秀夫
住所: 〒150-0002
東京都渋谷区渋谷4-3-27青山コーポラス302
  TEL: 03-3498-5633
  FAX: 03-5466-7621
  E-MAIL: yasuia@blue.ocn.ne.jp
  HP: http://www.yasui-atr.com
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