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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 24 「雙徽第(そうきてい)」

古典とモダンの共存、能舞台と茶室のある住まい

玄関は「雙徽八景」のプロローグ
式台と称される玄関の上部。60ミリ×120ミリのベイマツの角材を等間隔に設置。トップライトからの自然光をやわらかく透過させ、もてなしの空間を演出する

伝統とモダンの架け橋
1階より吹き抜け部を見上げる。「カエル股」と呼ばれる構造材は、施主の家紋「雙徽」をモチーフとした。2階の吹き抜け部を渡る階段は、透明の強化ガラスを使用。階段の構造体である鉄骨の裏をベンガラ色に着色し、木造の和風空間にモダンテイストを加えた

段差によって仕切られた居住スペース
2階フロアは、吹き抜け空間を挟んで、約1メートルの高低差をつけた。実際の面積より、視覚的に広さを感じられる。フローリングはカリンのむく材。手すりは、煎茶の源流である万福寺を典拠とする「卍崩し」がモチーフ

こだわりの茶室
施主と共に銀閣寺を訪ね、採寸やスケッチをもとに実現したこだわりの空間。年を経るにつれ、銀閣寺の同仁斎に似た風格の出る素材を選択した。真行草の「真体」を現す

四季の移ろいを取り込む能楽堂
白い肌が美しい青森ヒバを床板などに使用した能舞台。舞台側面の杉板との素材の対比が美しく、また面白い。湾曲した吹き寄せ化粧垂木のリズム感が、古典の空間にモダンなアクセントとなっている

モチーフを盛り込んだもてなしの広間
煎茶のための京間八畳数寄屋風の茶室。折り上げ天井の間接照明が、やわらかな空間をつくっている。真行草の「行体」を表す

階段の踊り場を利用したオルガン室
天響楼(オルガン室)は、現在、電子オルガンが置かれているが、いずれは施主手作りのパイプオルガンを設置する予定。源氏香之図(げんじこうのず)の「明石」をモチーフとした木製の手すりが、エキゾチックな空間を演出する。源氏香とは組香(=何種類かの香りを組み合わせ、その香木の香りを嗅ぎ当てる遊び)のひとつで、施主と設計者の出身が明石に近いことから「明石」が選ばれた

雙徽第に付属する八角の草庵
家紋をモチーフにした茶室は、床面積はわずか1.9坪。木造在来工法で建てられている。真行草の「草体」を表す
武蔵野の樹林に佇む「雙徽第」
トップライトに積もる落葉の清掃などのため、屋根に出る開口部を2カ所設けた。建物の東面には窓がないため、西面にはできる限り開口部を確保した

 「雙徽第(そうきてい)」と名づけられたこの建物は、都心から1時間足らず、国立市内に残る武蔵野の原生林と竹やぶのなかに、ひっそりと佇んでいます。約224坪の広大な敷地。しかし、東側は、関東ローム層と多摩川の河岸段丘との境目の崖の下に位置するという、厳しい立地条件でした。

 施主は40代前半の男性医師。クリニックを経営するかたわらで、煎(せん)茶を本格的に学ぶ茶人であり、上方舞は師範名取という実力の持ち主です。また、漢詩や篆刻(てんこく)などをたしなむ文人でもあり、古典の風雅を追求する施主のこだわりを盛り込んだ家です。

 施主からの要望は、謡い(うたい※1)の稽古(けいこ)場となる能楽堂と、煎茶のための茶室を設けること。従って、和のテイストは必然といえます。しかし、崖下という立地から、純木造の建物は不可能です。そこで、崖に面した建物の東側面と地下の躯体をRC構造としました。

 この邸宅に施主が与えたコンセプトは、「雙徽(そうき)八景」。雙徽とは、琴柱(ことじ※2)をモチーフにした施主の家紋のこと。このモチーフを室内の随所に用い、住宅に8つの風景をつくり出しました。

 それは、客間である「宝処関(ほうしょかん)」、オルガン室である「天響楼(てんきょうろう)」、四畳半茶室の「同仁斎(どうじんさい※3)」、居間である「白遥(はくよう)」、八畳茶室の「雙徽亭」、地唄舞の舞台である「岳潜(がくせん)」、富士山を遙かに望む「観峰露(かんぽうろ)」、庭に設けた隅切角(八角)の茶室「含翠廬(がんすいろ)」。

 この家の玄関は2階にあり、外階段でアクセスします。外階段は、「雙徽八景」へのプロローグ。1階には能舞台や茶室が配置され、この家を訪れた人は、室内の階段を1段下がるごとに、まるで古典の世界に誘われるかのような感覚を覚える仕掛けになっています。客人は、まずは「隔簾(かくれん)」という竹のベンチで一服。

 そして、式台(玄関)を通ると、すぐに宝処関が配されています。式台とは、古来より籠(かご)に乗るための板床を指し、客人を迎え入れる座敷が、この家において最上の間であることを示そうという、施主の心遣いを反映したものです。

 2階には、玄関と客間、オルガン室のほか、居間、キッチン、浴室、トイレなどの居住スペースを配置。客間と居住空間の間には、吹き抜け部を設け、さらに1メートルほどの段差をつけました。吹き抜け部は、いわば川。橋に見立てた階段によって、2分された空間が一体化し、実際の面積よりもより広さを体感させます。屋根高の差を利用した天窓からは、屋外の原生林を臨むことができ、室内にいながら、四季の移ろいを感じることができます。

 居住スペースの隣に配した同仁斎は、銀閣寺の同仁斎を寸分違わず模したものです。茶を追求する施主のこだわりから、最も長い時間を過ごす居住空間に、異なる時代の異なる様式をはめ込みながら、いつも身近に触れていられる安心感を創出しました。

 東面は崖に面しているため、窓を開けても採光が望めません。そこで、開口部を最小限にし、その代わりとして、約2.5メートル四方のトップライトを設けました。コンクリート打ちっ放しの壁を生かしたモダンなオルガン室は、トップライトから差し込む光によって、幻想感を漂わせます。和風を基調としていますが、古典とモダンが錯そうする雰囲気を楽しみたいという、施主の遊び心を反映しています。

 内階段でつながる1階は、能舞台と八畳の数寄屋風広間。いわゆる舞いや茶の修行の場です。能舞台は、青森ヒバの白い木肌と香りが、空間の格調と稽古場の緊張感を高めています。また、舞台の鏡板に当たる北側は、全面開口が可能で、樹林や竹林など四季折々の表情を取り込み、舞台を演出する効果を狙っています。

 「雙徽第」の設計は、試行錯誤の連続でした。施主には様々な要望があり、一方で、予算という制約がありました。能舞台や真行草(しんぎょうそう※4)の3つの茶室と、一見、贅(ぜい)を尽くした邸宅といった感がありますが、実は、こうした特別な設え以外は、ごく一般的な木造在来工法です。天井材にはシナ合板や杉柾化粧合板を、また、随所にベイマツなどの安価な材料を用いています。

 「不可欠なものは何か」「本質的なものは何か」「省けるものは何か」をしっかり見極めれば、限られた予算の内でも、十分に施主の夢をかなえることはできる。そのメリハリが、住宅設計の可能性を広げるのです。
(大島健二/OCM一級建築士事務所)

※1 謡い(うたい):日本音楽(特に近世邦楽)の声楽の種目分類のひとつ。歌詞の意味内容よりも、旋律の変化など、音楽的情緒表現を重視する種目。地歌・箏曲(そうきょく)・長唄・端唄・うた沢・小唄など。うたもの
※2 琴柱(ことじ):琴の胴の上に立て、弦を支える「人」の字形の道具。これを移動して、音調の高低を調節
※3 同仁斎(どうじんさい):足利義政による現存最古の書院。文人たちの社交の場であると同時に、茶の湯が行なわれていたといわれ、草庵(そうあん)茶室、また、四畳半茶室の原型とされる
※4 真行草(しんぎょうそう):漢字書体の真書(楷書)・行書・草書のこと。転じて、華道・庭園・俳諧などにも使われる。「真」は正格、「草」はその変形した優雅な形、「行」はその中間


「雙徽第(そうきてい)」

建築データ
  所在地: 東京都国立市
  家族構成: 1人
  竣工: 2002年11月
  敷地: 739.28平方メートル
  建築面積: 147.02平方メートル
  延べ床面積: 316.21平方メートル
  構造・規模: RC構造一部木造在来、地下1階、地上2階建て
  施工: エム企画設計開発
  工事費: 約80万円/坪
  設計: 大島健二(OCM一級建築士事務所)
  写真: 大島健二
連絡先
  OCM一級建築士事務所
  代表: 大島健二
住所: 〒150-0013
東京都渋谷区恵比寿1-7-2-33
  TEL: 03-3441-3499
  FAX: 03-3441-3499
  E-MAIL: oshima@ocm2000.com
  HP: http://www.ocm2000.com/
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