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Housing File 26 「下馬の4軒長屋」

新発想の現代長屋、敷地から生まれたコーポラティブの新しい形


旗竿敷地のアプローチ
写真左に隣接するアパートの庭を取り込むような、オープンな北側外観。右手は2002年に竣工した、同じく北山 恒+architecture WORKSHOPによる「下馬の連続住居」

コンクリート打ち放しのリビング
壁はコンクリート化粧打ち放し。アパートが隣接する南面は、床から天井までのガラスで明るさを確保し、視線の高さまで張ったフィルムが外部の視線をさえぎり、プライバシーを守る

開放感あふれる浴室
1階に設置した浴室および洗面所。ガラス越しに螺旋(らせん)階段を臨む。螺旋階段のスチールの踏み板には穴が開けられ、屋上のハイサイドライトから差し込む光を地階まで透過させる

地階に設けたフリースペース
プランの異なる4ユニットを、居住者がライフスタイルに合わせて選択。フリースペースの使い方は、入居者によって様々で、現在、House-A、C、Dはベッドルーム、House-Bはスタジオやアトリエとして使用している

スケルトンとインフィル
「シンプルかつ機能的」をコンセプトに、基本の空間構造は共通だが、間取りや内装、設備などは、住む人が自由に決めた。フィルムを張った南側の窓は、近接するアパートに対するプライベート対策

やわらかな光を街に放つ
柔らかな室内の照明が映しだされる夕景。玄関前のガラスブロックは地階の光を放出する

 若者の街としてにぎわう渋谷から、わずか数キロの世田谷区下馬。住宅や古いアパートが密集する住宅街の一角に、「下馬の4軒長屋」は位置しています。建物の西側には、2002年に竣工した「下馬の連続住居」が、北側には2階建てのアパートが隣接し、細い私道によってアプローチしなければならない、いわゆる「旗竿(はたざお)敷地」に計画されました。

 様々な集合住宅の形態があるなかで、今回「長屋」としたのには理由があります。東京都の「旗竿敷地に集合住宅を建てる場合は、長屋でなければならない」という条例です。そのため、グランドレベルの1階を、南北に細長い短冊(たんざく)状に4分割し、法的には「4軒の長屋」の形態としています。

各戸配置図
House-A-D。4色に色分けされた各戸の3層配置図

 しかし、窓のない短冊状の細長い間取りでは、快適な住空間の確保が難しい。そこで、地階および2階を1階とは異なる「田の字型」に分割し、各戸を細長いスペースから四角く広いスペースへと開放させました。同時に、下階と上階の移動によって広さを体感する3層の空間構成プランです。

 例えば、3層配置図の黄で着色したHouse-Aは、1階では一番西側、地階では南側、2階では北側に部屋を配しています。螺旋(らせん)階段を活用し、空間移動を存分に楽しめる遊び心を計画に盛り込みました。

 上下の移動手段となる螺旋階段は、屋上の塔屋に設けられたハイサイドライトから注ぐ光の通り道。地階まで透過させるために、階段の踏み板には、大小の穴を開けたスチール板を使用しました。階段室に面する浴室やリビングは、ガラスによって仕切ることで、住居内に光がまわるように計画しています。

 地階から屋上階までの室内温度や空気環境は、可逆ファンによるリターンダクトを設けた重力換気(※1)でコントロールしており、階段室は、その空気が流れるダクトの役割を担っています。今年3月に竣工しましたが、住んでいる方々から、夏の暑さによる不快感はほとんどなかったと聞いています。温度差を巧みに利用すれば、空調設備は最小限に抑えることができます。環境への負荷を軽減するとともに、無駄な設備を省き、限られた建築費を有効に使うというのが、私のスタンスです。

 1階の天井高は、建築基準法で定める最低の高さ2.1メートルに設定しました。上下階の移動の負担を少なくする一方、2階の天井高を3メートルと十二分に取ることができ、室内をより広く感じさせる効果を発揮します。

断面図

 2階の南北各戸に設けた全面のガラス窓は、上下に2分割しています。視線の高さまで張ったフィルムは、外部の視線をさえぎり、プライバシーを守ると同時に断熱効果を高めます。耐候性を考え、ガラス面の内側から片面張り付けとしました。上部は、空だけが見える開口となっています。

 北側に隣接するアパートには、「4軒長屋」に面して庭があります。北側からのアプローチとなるため、建物をセットバックし、この庭を一体として大きな空地を囲むコートヤードのように計画し、空間の広がりを感じるエントランスとしました。

 また、地階は、1、2階よりも北側に1.8メートル張り出す形になっています。建築基準法で定める建ぺい率が、地階には適用されないことを利用したのです。地階への採光のために設けたガラスブロックは、夜は地下室の明かりを外部へ放出し、その存在を街へ主張します。

 耐震対策にも十分配慮しています。1階の長屋部分には、耐震RCのフィーレンデール構造(※2)を採用しました。橋りょうなどに多く用いられる構造だけあって、建物の軽量化が図れ、建物にかかる負担を軽減することができます。さらに、階段を支える柱で屋根のスラブを支持することで、軽やかな塔屋をつくっています。

 この計画のもうひとつの新たな提案として、屋上に設置したプランターがあります。屋上スペースは、このプランターによって4分割されています。仕切られてはいても、ハーブや野菜、花などの栽培を通して、住み手相互のコミュニケーションが得られる。「個」を尊重しながらも、コミュニティーが自然と形成されていく仕掛けです。「集合住宅」ならではの利点といえるでしょう。

 今回の計画では、建物全体のイメージ、窓や設備の位置などの「スケルトン」(※3)を理解し、住みたいという4人の施主に集まっていただきました。その後は、住む人が、間取りや内装、設備などを自由に決める「インフィル」(※4)によって、「スケルトン-インフィル方式」の住宅が完成しました。

 「コーポラティブ(Cooperative)」という言葉には、「共同、組合」といった意味があります。つまり、コーポラティブ住宅とは、共同することによって住宅を手に入れる、いわゆる住宅の共同購入の仕組みをいいます。

 旗竿敷地の制約条件を、コーポラティブ長屋の形で生かしたところに、今回のハウジングプロジェクトの特色があります。相続などの事由で、広い屋敷跡などが細分化されるという基本的課題は残っています。しかし、敷地の特性が、新たな都市住宅の発想を生むきっかけを与えてくれ、ユニークな住宅設計が実現できたと考えています。
(北山 恒/architecture WORKSHOP)

※1 重力換気:温かい空気は上へ、冷たい空気は下へという、室内外の温度差による空気の重さの違いを利用した換気方法
※2 フィーレンデール構造:トラス構造の一種。縦・横材を格子状に組み合わせ、はしごを横にしたような構造。軽量化が図れるため、橋梁などに多く用いられる
※3 スケルトン:集合住宅などにおける、構造躯体(壁・床・窓など)および設備などの基本構造の設計
※4 インフィル:集合住宅などの建物において、基本構造(スケルトン)以外の個人専用の間取り・内装・設備などの可変部分


「下馬の4軒長屋」

建築データ
  所在地: 東京都世田谷区
  用途: 集合住宅
  竣工: 2003年3月
  敷地面積: 232.97平方メートル
  延べ床面積: 364.59平方メートル
  構造・規模: 鉄筋コンクリート造り、地上2階+地下1階
  構造: 構造計画プラス・ワン
  設備: 団設備設計事務所
  施工: 新日本建設株式会社
  設計: 北山 恒+architecture WORKSHOP
写真: 阿野太一
連絡先
  有限会社アーキテクチャーワークショップ
  代表: 北山 恒
住所: 〒106-0046
東京都港区元麻布2-14-21-BF
  TEL: 03-5449-8337
  FAX: 03-5449-4822
  E-MAIL: aws@archws.com
  HP: http://www.archws.com/
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