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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 28「横浜の家」

内外の境界を消し去った開口部、空へと広がる住空間


水平ラインの美しい、深い庇
軒樋の姿を隠し、長く伸びた庇。床と同レベルのデッキが、外部空間を住まいの一部に変える

外へと伸びていく小幅板の天井
建具の框(かまち)やレールを隠した、小幅板目透かし張りの天井。米松材と黒い布が描く、美しいストライプが部屋の外まで続く

天井高や角度で表情を変える大空間
リビングからダイニング方向を見る。平面はシンプルな四角い部屋に、天井の流れるような目地と勾配が変化を与える

手元を隠し、すっきりした対面式キッチン
ダイニングからキッチン方向。木のカウンターの反対側がキッチン。カウンター下部はダイニング側から使う収納

ギャラリーのような玄関ホール
天井と壁は、おのおの仕上げ方法の異なる珪藻土。はめ殺し窓から外光を、棚の下の地窓から外気をとり入れる

立地条件を生かし眺望を楽しむ
デッキ夕景。敷地南側に開けた展望を満喫する

落ち着いた印象の外観
東側外観。北隣の家の眺望を損なわないよう配慮し、建物東側を低く抑えている

 敷地の南側は斜面で、隣家の屋根越しに見晴らしが開ける好条件。南西に桜の木があり、さらにその向こうには、横浜ランドマークタワーが姿を見せます。この恵まれた眺望をほしいままにする、大きな開口部が特徴の住まいです。

 私はいつも、開口部を「内外の境界」ととらえてデザインします。とくにこの家のように外部の条件がすぐれている場合、境界そのものの存在感を消し去りたい。内外が切れ目なくつながり、居住空間が外へと広がっていくような感覚を得たいと考えました。

 開口部に窓枠や下がり壁などが現れると、そこで視線が留まり、境界を強く意識してしまいます。そこで、この家では、小幅板を目透かしに張った天井を軒裏まで連続。室内から外まで同じ間隔で並ぶ板のすき間に、カーテンレール、障子、網戸、雨戸の鴨居(かもい)枠を隠し込みました。さらに、軒先では、樋(とい)も隠しています。家の中から見ると、天井が外まで伸び、空に向かってふっと消えていくようです。

 軒の出は1.5メートル。これだけあると、外のデッキまで内部空間のように感じられます。同時に、夏の強い日差しが大きな窓から室内に差し込むのを防いでくれます。

 天井の高さや質感は、居住空間の印象を大きく左右します。天井が高く、見通しが十分確保された場合は、のびやかさが感じられ、低く抑えれば、落ち着いた印象が得られます。ここでは、階段をリビング内部に取り込み、1.5階の高さから、南西の大開口部に向かって開くように下る勾配天井とすることで、ゆったりとした内部空間を生みだしています。

 この勾配天井に包まれたリビング、ダイニング、キッチンは、ひとつの空間にありますが、すべてが見通せるのではなく、微妙に見え隠れする関係になっています。ソファを置くためのよりどころとして立てた壁は、約1.2メートルの高さ。上部は照明になっており、柔らかな境界をつくります。ダイニングと対面式のキッチンには、カウンターを設け、手元を隠しました。その結果、ワンフロアーでありながら、それぞれの空間の自立性を確保することができました。

 LDKの南西に大きな開口部を設けた代わりに、東西は閉じ、広い珪藻土(けいそうど)の壁面を見せています。部屋というのは、開放的すぎても落ち着かないもの。一方を開けたら片方は閉じ、壁を広く取ることも設計の定石のひとつといえるでしょう。

 米松(べいまつ)の小幅板を張った天井は、意匠として美しいだけでなく、機能面でもすぐれています。板のすき間に見えるのは黒い不織布で、その内側に吸音材が仕込んであります。天井が雑音を吸い込んでくれるので、大空間でも音が反響せず、静かで心地よい環境が保てるのです。

 さらに、天井のすき間は、暖気のリターン口(吸気口)としても有効です。この家では施主の希望で採用しませんでしたが、私はいつも、ファンコイルを用いた温風暖房を提案しています。これは、温水で温めた空気を床下に巡らせる暖房方法。基礎コンクリートに熱を蓄えるので、家全体が暖まり、なおかつ冷めにくいという特長があります。

 床下を温めた空気は、窓や壁に沿った吹き出し口から立ち上がり、室内を通って吸気口に吸い込まれ、再び循環器へと戻っていきます。小幅板の天井では、天井全体が吸気口として機能するので、効率の高い暖房が実現できるのです。

 この暖房方法と外断熱との組み合わせで、家じゅう温度差の少ない、快適な環境をつくることが可能になりました。ファンコイルの機械は10─15万円程度ですから、一般の床暖房と比べ、格段にローコストでもあります。

 建築デザインは、快適な室温や清潔な空気、人間の心理に及ぼす影響といった、機能を満たしてこそ成立するものです。また、音も、住み心地のうえで重要なポイント。その意味で、外断熱、ファンコイルによる温水暖房、意匠性と機能を兼ね備えた小幅板の天井という発見は、私の建築の本質を大きく変えるものでした。

 これまで、戸建て住宅だけで120軒ほどつくってきました。基礎、壁、開口部、断熱など、住まいには普遍的な要素があり、ある家で得た発見は、ほかの家にも応用できる可能性が十分にあります。経験を積むことが貯金になり、設計のレベルアップにつながってきたと自負しています。

 現在では、ファンコイルに井戸水を回す冷房も実現しています。また、トイレなども含めた空気の対流、循環方法を考えた建築計画を構想中。合理的で快適、しかも美しい住空間を追求していきたいと考えています。
(藤原昭夫・結設計)


「横浜の家」

建築データ
  所在地: 神奈川県横浜市
  家族構成: 夫婦、子ども2人
  竣工: 2002年10月
  敷地面積: 273.53平方メートル
  建築面積: 120.41平方メートル
延べ床面積: 157.13平方メートル
  構造・規模: 木造、地上2階建て
  施工: 渡邊技建
  工事費: 約3337万円
  設計: 藤原昭夫(結設計)
写真: 斎部 功
連絡先
  結設計
  代表: 藤原昭夫
住所: 〒103-0012
東京都中央区日本橋堀留町2-5-7クレストフォルム日本橋1005
  TEL: 03-5651-1931
FAX: 03-5651-1934
  E-MAIL: office@yui-sekkei.co.jp
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