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Housing File 31「箱の家58:並木邸」

家族を感じて暮らす、仕切りのない家


2階に浮かぶ箱形の家
1階には6台分の駐車場を確保し、2─3階に住居部分を設けている。1階は鉄骨造りで、住居部分は集成材の木造

2層吹き抜けの居間
2階の居間、台所と3階の子供室、寝室は、吹き抜けで結ばれた一体空間となっている。仕切りを設けず、少ない面積の住空間を最大限広く使うための工夫だ

プライバシーと開放感を両立
2層分の高さいっぱいに設けた開口部は、正面に建つ集合住宅からの視線を避けるため、南の角をかき取るようにしつらえた。テラスの床面は、室内のフローリングと同じ高さにそろえ、室内外を一体化している

書棚と細長いデスクを設けた仕事場スペース
自宅で仕事をする奥さんのための機能的なスペース。横にテラスが続く、気持ち良い空間だ

コンパクトにまとめた2階の水まわりスペース
1列タイプの台所の横に、脱衣室と浴室が続く。数少ない“扉で仕切られた部屋”

壁のない3階のプライベートゾーン
吹き抜けと一体化した3階スペースは、夫婦の寝室と子供部屋が天井までの家具で仕切られている

 間仕切りのない箱形の2層スペースを1室として使う住空間。これまで私が提案してきた「箱の家」の基本形をそのまま2─3階に持ち上げて、1階のピロティ(※)を貸し駐車場としたのが「箱の家58:並木邸」です。

 周辺は、駐車場のニーズが大きい地域で、敷地はもともと貸駐車場として利用されていました。できれば貸駐車場をそのまま残したい、というのが建て主の要望でした。

 ただ、駐車場を1階に設けて、住宅部分を持ち上げると、その分工事費は増えます。そこで、貸駐車場からの収入を計算し、4─5年で1階部分の建設工事費がまかなえることを確認したうえで、決定しました。

 1階は、構造上の必要性から鉄骨造りを採用し、2─3階の住宅部分は、集成材を用いた木造としています。これは、1階と2階以上を熱的に絶縁し、住宅部分の温熱環境を良好に保つためです。1階の鉄骨部分は外に露出しているので、冬になると、とても冷えます。その冷たさを住宅部分に持ち込まないために、構造を分離したのです。

 家族は、施主夫妻と幼稚園に通う男の子1人です。設計に対する要望は、家で仕事をされている奥さんの仕事場と、貸駐車場を確保してほしいということ。あとは、「箱の家」の考え方を十分にご存知のうえで私に依頼されたという経緯もあり、特別な条件はありませんでした。

 敷地が狭いため、建物は平面が7.2×9メートルという小規模なものになりました。

 2階に台所と居間、奥さんの仕事場を配置。吹き抜けでつながる細長い3階部分は、子供部屋と寝室、クローゼットのスペースを家具で仕切りました。洗面所やトイレ以外は、扉で区切らずに、完全に一体化した空間としています。

 1995年の第1号に始まった「箱の家」ですが、設計中のものを含めると、今では100戸以上を数えます。このシリーズで私が提案してきたのは、一室空間という住まい方に加え、断熱・気密性能を向上させたコストパフォーマンスの高い住宅のプロトタイプです。

 経験を積んでいくに伴い、省エネルギー面への配慮など、技術的な蓄積は増えました。一方、建て主側も、箱の家にプラスアルファの要素を求めてくるようになります。私たち自身もやりたいことはたくさんありますから、互いの要求がどんどんふくらみ、様々な要素が付加されてくる。結果、間仕切りの多い事例もできてきました。
 
 その点、並木邸は敷地やコストの条件が厳しく、要求過多になりがちな要素をスパッと切り落とし、キレのいいデザインを実現できました。面積が小さいので、部屋を仕切りようがない。初心に戻り、当初の箱の家が提案してきた住まい方を、クリアに表現できたと思います。

 建て主にとっても、設計を考えているときは夢がふくらみ、色々な機能や空間を足したくなるものです。しかし、今回のように、最初からこれしかないと思い切れば、それで十分快適に住める。人間はそうした適応力を持っていますし、特に小さな子供は新しい環境にすっとなじんでいきます。

 「箱の家」に建て主が感じている魅力は、シリーズとして続いてきたことに対する信頼感が支えているのだと思います。それは、熱環境や省エネ、コスト性だけではなく、家族が一緒に暮らしているという雰囲気を、肌で感じ取れることに対する安心感でもあります。

 最近、「住宅とは、子供のためのものだ」と強く感じるようになりました。

 現代は、核家族すら解体しつつあって、夫婦も家庭内別居していたりする。“家族”にこだわらない時代になっています。

 しかし、子供には家族が必要不可欠です。プライバシーを保ちたければ、家の外でいくらでも確保できる時代だからこそ、家にいる時くらいは、家族が一緒にいたい。建て主は、それを直感的に分かっているのでしょう。実際、子供ができたから箱の家にしようと考えた、という方が多くいます。

 子供が18歳くらいになるまでは、一緒に過ごすことを大切にする。そんなニーズに応えているのが「箱の家」ではないかと思います。
(難波和彦+界工作舎)

※ ピロティ:建物1階部分に設けられた壁のない空間。駐車スペースや遊び場などに使われる。壁がないので、延べ床面積には含まない。


「箱の家58:並木邸」

建築データ
  所在地: 東京都杉並区
  家族構成: 夫婦、子ども1人
  竣工: 2002年8月
  敷地面積: 97.19平方メートル
  建築面積: 55.89平方メートル
延べ床面積: 130.95平方メートル
  構造・規模: 鉄骨造り+木造、地上3階建て
  施工: フワ建設
  設計: 難波和彦+界工作舎
工事費: 2377万円
写真: 坂口裕康
連絡先
  難波和彦+界工作舎
  代表: 難波和彦
住所: 〒150-0001
東京都渋谷区神宮前3-16-10
  TEL: 03-3478-5579
FAX: 03-3478-5686
  E-MAIL: KAI@kai-workshop.com
URL: http://www.kai-workshop.com/index/index.htm
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