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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 32「とーい」

透かして囲う、格子でつながるまちと住まい

光によって表情を変えるアルミの格子
道路側外観。当初は木製の格子を計画したが、防火のための行政指導によってアルミに変更。奥行きのある格子の1本1本が光を反射し、季節や時刻によってさまざまな表情をつくりだす

明るくゆとりのある玄関ホール
玄関ホール。地窓の向こうがテラス、右手は台所に続く。カーブする階段は勾配がゆるやかで、らせん階段に比べ、踏み板もゆったりしている

濡れ縁と連続する茶の間式リビング
リビングは中央に掘りごたつ、そのまわりに琉球(りゅうきゅう)畳を敷いて座敷ふうに使う。フローリングは国産の御堂(みどう)マツのむく材。正面の収納家具の向こう側が台所で、左右どちらからも行き来できる

家族の気配、まちの息吹が伝わる個室
2階の子供室。スノコ状の廊下の下はリビングにつながっており、吹き抜けの先にはまちの景色がのぞく

広い濡れ縁がまちと家との緩衝帯に
2階の廊下(繋・つなぎ)からテラスを見下ろす。格子の内側にアンズとツバキを、外側にはムベやアケビを植え込んだ生け垣をつくり、まちにも緑を提供する

格子全体がやわらかく輝く夕景
夕暮れどき。窓の明かりが格子を照らし出し、通りから見ると、壁全体がぼんやり光っているよう

 東京都内の住宅密集地に建つ、母ひとり子ひとりの住まいです。

 23坪の敷地に対し、法で定められた建ぺい率は50%。建物が建てられる面積は、11坪強に過ぎません。いまどきの言い方なら、「狭小住宅」に分類されるところでしょう。しかし、「狭小住宅」を「狭小」たらしめるのは、土地の狭さや法規制限ではなく、敷地の中に閉じこもろうとする意識ではないでしょうか。

 建物の規模は小さくとも、敷地の外、まちや道とかかわり合えば、決して「狭小」にはならないはずです。家族を守り、包み込みつつ、まちにもつながる仕掛け。そのために有効な手法のひとつが、日本の伝統的な意匠である「格子」です。

 この家では、敷地東側の道路面と、南側隣家との境界の一部を背の高い連子格子(れんじごうし)の塀で囲みました。道行く人の目の高さまでは子持ち格子とし、隙間を細くしてあるので、室内はのぞかれにくくなっています。しかし、明かりは漏れるし、音は聞こえる。生活の気配は伝わります。

 通りを歩いているとき、そこに住む人の暮らしの息づかいが伝わってくると、ほのかな安心感が得られるでしょう。これは住む人にとっても重要なことで、中で何が起きているかわからないほど囲われていると、プライバシーは保たれても、本当の守りにはなりません。家とまちとが、お互い適度に意識しあうことが必要ではないでしょうか。

 平面計画はきわめてシンプル。生活の中心となる1階のリビングは、畳敷きの茶の間的な空間で、居間も食堂も客間も兼ねています。

 広さはわずか8畳程度に過ぎませんが、外には格子で囲まれた、奥行き2.7メートルの濡れ縁が続きます。格子があることで、気兼ねなく窓を開け放しておけるし、格子を透かして、まちの景色や風や光を呼び込めます。小さな家でも、無限の広がりを享受できるのです。

 2階は母親の寝室と子供部屋。2人きりの家族ですから、個室同士、また個室と共有空間とのつながりを大切に考えました。
 
 上下階を結ぶ階段は、建物の規模に比べ、ゆとりを持ってつくっています。ゆるやかにカーブを描くフォルムは、見た目に美しく、上り下りもらく。上がりきったところは、3畳ほどの「ホワイエ」としました。廊下であり、個室の延長でもある、余白のような空間です。

 2つの個室は、東西2つの廊下(繋・つなぎ)を通して双方向に行き来できます。このうち、テラス上の吹き抜けに面したつなぎの床はスノコ状になっており、リビングからの暖気が上がってきます。温度差によって、自然に風が抜けていく。空気の流れを促し、熱を逃がす仕掛けは、住まいに欠かせないこととして考えています。

断面イラスト

 また、家族は成長し、変化していくものです。家族構成が変わっても、柔軟に対応できる家づくりを常に心がけています。

 そのための第一条件は、丈夫な骨組みづくり。私は、金物を使わず、木を木で組む工法を採用しています。金物を使わない方が、狂いにくく、長持ちする。まず頑丈な構造ありきで、デザインはあとからついてくるものです。

 比較的広い住宅ならば、親の部屋を子供の部屋に、子供の部屋を親の部屋にというように、家の中でぐるぐる引っ越しできるような間取りを考えますが、ここでは、リフォームのしやすさを念頭に置きました。輪郭さえ残せば、あとはどこをどう変えるのも自由です。

 家を建てることは、まちづくりに参加することです。この家は、一見、無機質な四角い箱ですが、格子を透かして気配を伝え合うことで、まちにかかわっています。夜、室内の明かりがつくと、格子全体に光がまわる。平凡な家並みの中に、大きな行灯(あんどん)をともしたような、あたたかな風景が生まれました。
(瀬野和広/設計アトリエ)


「とーい」

建築データ
  所在地: 東京都杉並区
  家族構成: 母、子ども1人
  竣工: 2003年 10月
  敷地面積: 76.04平方メートル
  建築面積: 37.67平方メートル
延べ床面積: 75.34平方メートル
  構造・規模: 木造、地上2階建て
  施工: sobi(創美)
  設計: 瀬野和広+設計アトリエ
工事費: 約 2300万円
写真: 石井雅義
連絡先
  代表: 瀬野和広
住所: 設計アトリエ
〒165-0034東京都中野区大和町1-67-6 MT COURT308
  TEL: 03-3310-4156
FAX: 03-3310-4353
  E-MAIL: aaj-seno@pop06.odn.ne.jp
URL: http://www1.odn.ne.jp/
aaj69100/
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