TOPLiving Styleこだわりのデザイナーズ住宅

こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 34「「代沢の家」

しっかりした骨格の中で、しなやかに住みこなす

ボリュームを抑えた外観
西側のエントランス方向から見る。斜線制限に沿った傾斜屋根の高さを7メートルに抑え、閑静な住宅地にあって圧迫感のないボリュームを目指した

眺望を確保する大きな開口を設けたリビング
敷地が高台にあるため、東南方向に視界が開ける。2階リビングのコーナーを欠き込み、大きな開口を確保して外部とのつながりを与えた。バルコニーは、床面と壁にグレーチングを用い、適度な視線の透過を狙っている

傾斜屋根を生かした吹き抜けのダイニング
リビングからダイニング方向を見る。階段の右手に設けた細長い窓は、隣接する2棟の隣地境界線の延長線上に位置する

お気に入りの絵画が並ぶ主寝室
1階つき当たりの主寝室。コンクリートの壁、モルタル塗りの床という無機質な空間に並んだ色鮮やかな絵画や古い家具に、住む人の個性が感じられる

テラスに面した独立キッチン
ダイニングに続くキッチンには、外にテラスを用意した。木製ルーバーによって外からの視線を遮られたテラスは、洗濯物干しなど日常の生活に有効利用されている

光が注ぎ込む階段室
1階の階段室の向こうに主寝室が見える。閉じたコンクリートの箱ながら、要所に設けられた開口部を通して光が注ぎ込んでくる

シンプルな素材による玄関まわり
1階の玄関方向を振り返る。天井や壁のコンクリート、スチールの階段、パネルヒーター、それぞれの質感と単純な構成が、空間の強さと心地良さを感じさせる

 住む人が上手に住みこなすことで、空間の力が最大限に引き出される。「代沢の家」は、住み手と建築がうまく相乗効果をあげている住宅です。

 敷地は、お屋敷街だった閑静な住宅地にあり、洋館風の一軒家が建っていた土地を4分割したものの1つです。クライアントは、ご主人がフランス人のご一家。事業を営むご主人、ピアノを教えていらっしゃる奥さん、そして2人の息子さんという家族構成です。

 周囲は、同じように細分化された宅地に、容積率いっぱいの住宅が並んでいます。分割された土地の南側区画で、一見条件が良い敷地ですが、南に面している分、斜線制限が厳しい。一方、高台に位置しているため、東南に向けて眺望が開けているという利点もありました。

 こうした条件の下で、どれだけ明るく広がりを持った家をつくり出せるかが、設計のテーマでした。

 住宅自体は、箱形のシンプルな形です。2階にロフトのある吹き抜けのリビングルームを設け、地下1階にピアノスタジオと子供部屋が1つ。1階が主寝室とクローゼットで、もう1人の息子さんは2階のロフトを自室にしています。

 RC造りの箱である住宅の中で、眺望が得られる南東側だけ平面を欠き込み、大きな開口を設けました。特に2階は、屋根の形に沿った斜め天井ともあいまって、光と風が入り込む心地良い空間となることを意図しています。

 建て主は、デザインに対する意識の高い人でした。個室やクローゼットの確保など基本的な条件を提示したうえで、「デザイン上、おかしい所があれば、建築家として指摘してほしい」という姿勢でした。デザインを大切にしながらも、機能とのバランスを重視する。そんなフランス人らしい美意識へのこだわりを感じました。

 コストに対する考え方も明快です。明示した予算の中でできることは実施し、無理なことはそぎ落とす、というはっきりした判断基準を持っていました。

 例えば、セントラルヒーティングを導入したこともあって、仕上げにはあまりコストがかけられませんでした。当初は、床に大理石を使いたいという希望だったのですが、「必要なら、後から工事すればいい」と、モルタル仕上げで納得されました。

 家族の生活は10年もすれば変わっていきます。そのため私たちは、住宅を設計する際にすべてを作り込まず、住む人の自由が利く部分を残しておきたいと考えています。その点、この家は、住み手がとてもメリハリのある使い方をしていると言えるでしょう。

 地下1階のピアノスタジオは、いわばファミリールーム。大きなテレビや壁面いっぱいの本棚など、生活に必要となる雑多な要素は、すべてこの部屋に収容しています。音楽を聞いたり、テレビを見たりといった行動はここでするわけです。

 これに対し、2階のリビングは、パーティーなどを行うパブリックなスペースという位置づけです。

 絵画やステレオ、ル・コルビュジェのテーブル、プルーヴェのイスなど、置いてあるのは厳選された物だけ。RC造りの空間は無機質でドライですが、お気に入りの物をうまく持ち込んで、心地良さを生み出しています。しかも、気張ったところがない。どこか、力の抜けた感覚で空間を楽しんでいるのです。

 もっとも、こうした自由さを受け止めるには、きちんとした空間の骨格がなければいけません。時間を経過しても長もちするような、しっかりした骨格をつくり上げることは、もう1つの設計の目標でした。

 その際、手掛かりとなるのが外部環境との関係です。例えば、土地の起伏や道路形状、敷地境界の位置といった環境は、長い目で見ても変化する可能性が低い。そうした変わりにくい外部の要素と建物を、どう結び付けていくかを常に考えています。

 代沢の家の場合、南東方向に土地が下がっているため、広い眺望が確保できます。この条件が、基本的に変わることはないでしょう。ですから、その環境に素直に合わせるように大きな開口部をつくりました。

 また、ダイニングの階段脇には、縦長の窓を設けています。この窓は、実は隣に建つ2軒の住宅の敷地境界線の延長線上に位置しています。そのため、窓の外は先の道路まですっと視界が開けるのです。

 建物の高さを7メートルに抑えているように、この住宅を外から見ると、とてもこぢんまりとしています。しかし、中に入ると、意外な広がりを感じます。これは、外の環境をうまく取り入れた結果、内部空間に豊かさをもたらすことができたからではないかと思います。
(杉千春+高橋真奈美/プラネットワークス)


「代沢の家」

建築データ
  所在地: 東京都世田谷区代沢
  家族構成: 夫婦、子ども2人
  竣工: 2003年6月
  敷地面積: 88.89平方メートル
  建築面積: 44.35平方メートル
延べ床面積: 149.70平方メートル
  構造・規模: RC壁式造り、地下1階・地上2階建て(ロフトあり)
  施工: 鈴木興業
工事費: 3700万円
  設計: 杉千春+高橋真奈美/プラネットワークス
写真: Andy Palaski
連絡先
プラネットワークス
  代表: 杉千春+高橋真奈美
住所: 〒150-0033 
東京都渋谷区猿楽町29-18 ヒルサイドテラスA-3
  TEL: 03-5459-1360
FAX: 03-5459-1242
  E-MAIL: plannet@fd.catv.ne.jp
URL: http://www.plannetworks.com
平面図
おすすめ情報(PR)