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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 35「美しが丘の家」

土壁がつくる端正な表情、自然素材のモダン住宅

樹間に佇む土壁の外観
東側外観。奥行きの深い庭を通り抜け、北側の玄関に至る。土の外壁、レッドシダーの目隠しなど、自然素材でつくられた建物は、樹木の緑にしっくりとなじむ

木の香り漂うリビング空間
床はヒノキ、天井は杉、壁は土と杉板。木の香りとやわらかな質感に包まれたリビングを、自然の風が通り抜けていく。写真右手はキッチン。奥の壁の中は階段室で、その向こうに和室や子ども室が配されている

戸外の光と緑につながるLDK
リビングから東の庭を見通す。掃き出し窓の外にはデッキが伸び、室内空間の延長として使える。白いカーテンは、杉製の家具と同じデザイナーの作品

天窓の光が照らす杉板の階段
杉板の壁にはさまれた階段ホールの上に、トップライトを設置。2階から見下ろすと、高窓、テラス、1階の庭と、上下に重なる外部空間が見通せる

ガラスの欄間でつながる天井
2階個室の間仕切り壁は2.1メートルの高さしかなく、その上はガラスの欄間になっている。仕切られた部屋部屋に連続性を持たせ、天窓の光を行き渡らせる仕掛け

緑豊かな庭を楽しむデッキ
東側に広い庭をつくり、そこへ向かって4畳半の広さがあるデッキを張り出した。窓を開け放せば室内と一体につながり、活用度の大きいアウトドアリビングとなる

 家族5人と犬4匹、猫2匹が共に暮らす家です。3人の子どもたちは個室が必要な年ごろであり、人とペットが快適に過ごす工夫も求められました。

 三方を道路に接し、東西に長い敷地。この恵まれた立地を生かし、南面の広い横長の建物をつくることも検討しました。しかし、そこへ必要な部屋を並べると、廊下が長くなり、面積が大きくなりすぎます。そこで、あえて正方形に近いかたちにまとめ、敷地の西側に寄せて配置しました。

 その結果、東側には建物の平面とほぼ同じボリュームの庭が生まれます。庭の樹木は道路の桜並木とつながって、豊かな緑の帯をかたちづくり、近隣の風景の一部となりました。

 建物の輪郭となる外壁は、内も外も土で塗られています。北側を除く3面すべてが道路に向けた住まいの「顔」であり、光と通風を調節するフィルターですから、窓の開け方はとくに入念に計画しました。

 1階南と東は、大型の木製建具をはめ込んだ掃き出し窓。居間から東の庭に向けては、4.5畳大のデッキを突き出し、室内の延長として使えるようにしました。玄関は北側で、東西両方の道路からアプローチできます。さらに、西には犬用デッキ。ここは、犬専用のシャワーコーナーに連続しています。

 2階の3面には、建物の内側に入り込むテラスを設けました。このテラスは、個室のそれぞれに光と風を呼び込み、また部屋同士をゆるやかにつなぎます。

 中の間仕切り壁はすべて杉板で、土の外壁とは区別しています。土壁は、内外の境界を確立するもの。木の壁は、家族のニーズに応じて組み替えが可能です。とくに細かく区切られた2階では、間仕切り壁の高さを2.1メートルに抑えました。部屋の中から見上げると、天井が隣室へと続き、家全体を包み込んでいることが感じ取れます。

 床は1階がヒノキ、2階が杉です。ダイニングテーブルや机、イスもデザイナー・森豪男さんによる杉製家具。杉は柔らかく、傷つきやすいけれど、肌触りがやさしく、心地よい材料です。

 私はいつも、昔から当たり前にあった材料と技術を使って、家づくりをしたいと考えています。それは何も、昔の生活に戻ることを意味するのではありません。土や木を使って、現代の生活に適した軽やかな家を建てたい。

 人間が幸せに過ごせる空間をつくるには、自然の材料をできるだけ加工せずに使うのが、一番ではないでしょうか。そのためには、木の性格や土の個性を知り抜いた、熟練した技術が欠かせません。高い意識と技術を備えた職人たちと協働し、手間をかけるべきところにはかける。それが、住まいのクオリティーを支えるのだと考えます。

 住宅には、住む人が暮らしに求める夢やさまざまな生活上の要請を盛り込まなくてはなりません。設計者の仕事は、それをいかに整理し、抽象化して、一個の建築物に昇華させるかということ。私がイメージするのは、シュプレマティズム(絶対主義)の画家マレーヴィチの「白の上の白」という連作です。白い地に描かれた白い四角形──そのくらい削ぎ落とされた表現の中で、快適さと機能を成立させられればと願っています。
(伊藤寛/伊藤寛アトリエ)


「美しが丘の家」

建築データ
  所在地: 神奈川県横浜市
  家族構成: 夫婦、子ども3人
  竣工: 2002年 4月
  敷地面積: 263.85平方メートル
  建築面積: 78.25平方メートル
延べ床面積: 156.50平方メートル
  構造・規模: 木造、2階建て
  施工: 横溝工務店
設計: 伊藤寛
  写真: 輿水進(協力:扶桑社「新しい住まいの設計」)
連絡先
伊藤寛アトリエ
  代表: 伊藤寛
住所: 〒214-0038神奈川県川崎市多摩区生田8-29-13
  TEL: 044-922-6412
FAX: 044-922-6413
  E-MAIL: ito@ito-kan.com
  URL: http://www.ito-kan.com
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