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Housing File 38「江戸川ソーラーキャット」

空気、熱、自然素材のハーモニー、小さな家を豊かにする知恵

白州そとん壁の南側外観正面
屋根で新鮮空気を暖め、床下に蓄熱するOMソーラーシステムを採用。外壁はシラスを原料とする100%自然素材の「白州そとん壁」。竣工後、工事会社からプレゼントされたベンチを駐車スペースに置いた。近所の人がそこに座り、1階の和室で過ごす母子とおしゃべりするといった光景も

広がりを感じさせる2階リビング
2階ダイニング側からリビングを見る。ロフトの吹き抜け空間と、天井高を抑えたリビングの対比が際立つ。リビングの収納は吊り戸棚として床面を開放し、広さを感じさせる

ロフトのあるダイニング
ダイニングの左に見える階段との間には、引き戸が仕込まれている。夏、冷房が下階に行かないようにするための工夫だが、小さい子どもの安全確保にも役立つ

簾(す)戸とオリジナルテーブル
ダイニングの窓にすだれを取り付け、外からの視線を遮りつつ外部空間を感じられるようにした。オリジナルテーブルは伸縮式。普段は長さ1300ミリだが、伸ばして延長用の天板を置くと1550ミリになる。テーブルの脚や天板の下にも引き出し収納を設けた。ダイニングの奥には、作業デスクを用意

コンパクトにまとめたキッチン
奥行き1間という小ささをカバーするため、柱の間に収納を組み込んだ。収納棚を床面から浮かせ、視覚的な広がりを確保している

1階和室
限られたスペースを有効利用するため、壁面に収納を設けた。畳と左手開口部側の壁面の間には、暖められた空気の木製吹き出し口が細長く延びる

 若い夫婦と子ども1人の住まいです。江戸川区の住宅地、狭小住宅が並ぶ一画に位置しています。この家も、19坪の敷地に対して、建ぺい率が50%、容積率100%。敷地いっぱいに建てても、延べ床面積19坪の家しかできないという難しい条件でした。

 1階に4畳半の和室と水まわり、2階にダイニングリビングを配し、ロフトを設けたシンプルな家となりました。

 私は、小さな家しか建てられないという条件が、必ずしもマイナス要因とは考えていません。小さな家をつくることに、むしろ積極的な価値を見いだしているからです。

 ちゃぶ台やふとんを活用していた昔の暮らし方のように、生活の仕方次第で、面積が小さくても十分快適に過ごせます。それに小さい家をつくれば、建設資源や生活に使うエネルギーを減らせる。敷地ぎりぎりまで家を建てず、周囲に少し余裕を設けて半戸外スペースとして活用すれば、外部空間ともっと良い関係を生み出せるのではないでしょうか。

 もちろん、狭さを感じさせない設計上の工夫は必要です。江戸川ソーラーキャットでは、次のような工夫を施しました。

 まず、できるだけ床面を見せて、広がり感を与えるため、収納を吊り棚にして、床面が壁の端まで延びるようにしました。床に座って生活すれば、視線が低くなり、空間が広く感じられます。

 扉は、引き戸や引き込み戸にしました。引き戸は上からハンガーレールで吊り、敷居(しきい)をなくしています。余計な線を消し、視覚的に空間を分断しないための配慮です。さらに、部屋の対角線を見せることで、空間の広がりが意識できるようにしました。

 狭い敷地に建てるために、アクロバティックな設計手法を取っているわけではありません。“普通”の手法を使いながら、細部にいたる小さな工夫を積み重ね、住み良い家を目指しました。

 建材は、できるだけ自然素材を使っています。壁材は、調湿や消臭の機能を持つ火山灰のシラスを利用した素材。木材は、紀州産の樹齢50年以上のスギです。その山では、木を1本1本検査して、含水率や強度を表示してくれます。自然素材は、どうしても個々の物性にバラつきがありますが、すべての材について検査データを確認し、確かな素材のみで構成しています。

 吟味した素材を用いるとお金はかかります。でも逆に言えば、小さい家を建てることで、坪単価を上げても総額は抑えられる。むやみに建築面積を増やさない分、きちんとお金をかけて質の良い家が建てられます。

 また、ここではOMソーラーというパッシブソーラーシステム(※)を導入しています。屋根面で新鮮な空気を暖めて家の中に蓄熱させ、換気と同時に床暖房を可能にするシステムです。
平面図
OMソーラーによる空気の流れ

 通常のOMソーラーでは、効率の問題から1階の床だけに熱を回します。しかし、この家では小ささを生かし、浴室を含めた1階の床を通して2階の床まで温風を回しました。集めた熱を1階と2階に切り替えるタイマー付きダンパーを設け、冬の朝でも2階のリビングがすぐ温まるようにしています。

 一般には、壁面から外へ空気を排出しますが、今回は屋根の外に付けるダクトを開発し、屋根面から出すようにしました。その結果、隣接する家に向けて、夏に温風を排出してしまうことが回避できます。

 建築家は「見える形」をデザインするものだと、とらえられがちです。しかし、私は、見えない部分の価値をデザインすることが、プロとしての建築家の役目と考えています。

 健康に良い、ひとつずつ検品した確かな素材を使う。小さな家にして、家族や外部空間と程良い距離感を生み出す。気持ち良い温熱空間をつくる…。これらは、家づくりにおいて、とても大切な要素ではないでしょうか。
(伊礼智/伊礼智設計室)

※パッシブソーラーシステム:地域の気候特性を読み、建物構造などを工夫することで、機械設備に頼らずに快適な住空間を実現するシステム。太陽エネルギーを有効活用して、室内換気や蓄熱を行う。
関連サイト:http://sumai.nikkei.co.jp/style/kokyu/profile.cfm#omsolar

「江戸川ソーラーキャット」

建築データ
  所在地: 東京都板橋区
  家族構成: 夫婦、子ども1人
  竣工: 2003年11月
  敷地面積: 60.72平方メートル
  建築面積: 28.40平方メートル
延べ床面積: 53.84平方メートル
  構造・規模: 木造、地上2階建て
  施工: 田中工務店
設計: 伊礼智/伊礼智設計室
  写真: 熊谷忠宏
連絡先
伊礼智設計室
  代表: 伊礼智
住所: 〒171-0031 東京都豊島区目白3-17-24-4階
  FAX: 03-3565-7344
FAX: 03-3565-7344
  E-MAIL: irei@interlink.or.jp

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