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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 42「TK HOUSE」

隣居する両親のための快適住宅、“機能”をそぎ落としたバリアフリー設計


道路に面する南側のファサード
間口6メートル、奥行き19メートルの南北に細長い敷地いっぱいに建てた2階建て住宅。ルーバーを設け、光と風を取り入れつつ、道路を歩く人からの視線を遮った

前庭と吹き抜けのリビングダイニング
吹き抜けのリビングダイニングの外に、木製デッキを張った前庭を設け、1日の多くを室内で過ごす居住者が、光と風を感じられる空間とした。インテリアは、白い壁面とフローリングでシンプルに仕上げた

人の気配を感じさせる吹き抜け
リビングダイニングは、吹き抜けを通じて、2階の書斎とヘルパーさんの畳部屋につながっている。2階にいても、1階で過ごす奥様の気配を常に感じていられるようにという配慮だ

奥庭を囲むように配置された寝室と浴室
北向きの寝室の外には、約10平方メートルの奥庭を設けた。高い建物に囲まれているが、柔らかい光が差し込み室内は意外と明るい。浴室は、3枚の引き戸で洗面室と隔てている

高窓から光の注ぎ込む階段室
家の中央に配置した階段室は、屋上からの光を取り入れる役目を果たす。階段の段板のすき間を通して、下階まで光が落ちていく

引き戸を用いた玄関
道路に面したルーバーを開けると、半屋外のポーチ。その奥に引き戸の玄関がある

玄関からリビングダイニングに続く廊下
玄関を入ると、緩やかなこう配の廊下がリビングダイニングに導く。車いすの方向転換がしやすいように、玄関内側には1.3×1.8メートルのスペースを確保した

 隣地に住む息子さんから、「80歳を超えた両親の家を建ててほしい」という依頼を受けました。元気なご主人と、介護が必要な奥様というご夫婦です。完全な介護が可能な家のつくりにすること、その上で住まいとして気持ち良く暮らせる家にしたいというのが要望でした。

 設計のポイントは、1階で奥様の生活が完結するようにしたことです。玄関から一直線に延びる緩いスロープの先に、吹き抜けのリビングダイニングを設け、さらに廊下を介して寝室を並べる。ワンルームのように、できるだけひとつながりの空間としました。2階には、ご主人の書斎と通いのヘルパーさんが休憩する部屋、そして息子さんや親せきの方が泊まれる部屋を用意しています。

 車いすで室内を移動する奥様の動きやすさや、介助のしやすさを考え、間仕切りをできるだけなくしました。洗面室と浴室も、3枚の引き戸を開けると一体化するようになっています。玄関や部屋への入り口部分は、車いすの回転を考慮し、十分な広さを確保しました。

 南側のリビングダイニングと北側の寝室の外側には、それぞれ木製デッキを敷いた小さな前庭と奥庭を設けました。家の中でほとんどの時間を過ごす奥様にも、光と風を感じ、緑を目にしてほしいと考えたのです。

 実は、敷地は10階建ても可能な下町の商業地域に位置しており、両側には高層建築が建っています。日照を得にくい場所に、1階で生活する住宅をつくるわけです。設計当初は、室内がかなり暗くなるのではないかと心配していました。

 でも、実際に出来上がってみると、2つの庭を通して予想以上に日が差し込み、明るく気持ち良い空間になりました。小さなすき間でも光の効果はあるものだと、私自身、改めて実感しました。

 リビングを吹き抜けにしたのも、細長い建物の奥まで光を入れたかったからです。さらに、リビングで過ごす奥様の様子を、2階の書斎やヘルパーさんの部屋から見えるようにという狙いもありました。ご主人やヘルパーさんが奥様のそばにいなくても、常にその気配を感じられるようにしたのです。

 介護を必要とする奥様への配慮を考えた住まいですが、「バリアフリー住宅」という言葉から一般に思い浮かべるような機能は、あまり施していません。手すりは、玄関からのスロープなど必要な部分に設置しているだけで、風呂の介助用レールや家庭用エレベーターなどの設備はありません。また、室内こそ床に段差はありませんが、玄関やテラスへの出入り口には数センチの段差を設けています。

 奥様は、ベッドから車いすに移る際も介助が必要です。室内なら自力で車いすを動かせますが、基本的には人の手を要します。ですから、かえって手すりなどの補助的な設備はいらない。風呂の介助用レールも実際に利用する場合は、介助の人が複数必要です。しかし、現実的には、その人手を確保するのは難しいため、あえて導入しませんでした。

 玄関や開口部の段差も同様です。出入りする際に介助する人が必要という状況では、小さな段差があることのデメリットより、段差を設けることで確保できる防音性能の高さや、開口部の掃除のしやすさというメリットの方が大きいと考えました。

 このように、住み手の状況や考えは千差万別です。バリアフリー住宅の設計に、決まった答えはないと考えています。

 設計者として、バリアフリー設計に関するノウハウは欠かせません。しかし、中途半端な知識で一般論を当てはめてしまうと、かえって落とし穴にはまるのではないでしょうか。個別のニーズに応えるために必要なのは、住み手の要望を丁寧にくみ取っていくことです。

 今回の事例では、奥様に介護施設で過ごした経験がありました。そのため、家族が介護のノウハウを十分に持ち、何が必要で、何が不要かを具体的に判断できたのです。こうして、不必要なバリアフリー設備を省いた結果、手すりのない“普通の家”ができました。壁の色は白でまとめ、シンプルモダンな印象の住宅となりました。

 設計者としてうれしかったのは、この家に引っ越してから、奥様の具合が少し良くなったということ。また、巡回介護サービスなどのスタッフも、「明るい家だから」と喜んで訪問してくれるという話を聞いています。

 介護が必要な人はもちろん、そのまわりで支えてくれる人たちにとっても、家は気持ち良い空間であってほしい。バリアフリーであれ、普通の住宅であれ、設計に対する基本的な考え方は何も変わりません。
(植本俊介/植本計画デザイン)

「TK HOUSE」

建築データ
  所在地: 東京都
  家族構成: 夫婦
  竣工: 2003年9月
  敷地面積: 114.31平方メートル
  建築面積: 91.56平方メートル
延べ床面積: 167.64平方メートル
  構造・規模: 鉄骨造り、地上2階建て
  施工: 赤羽建設
工事費: 約3700万円
設計: 植本俊介/植本計画デザイン
  写真: 植本計画デザイン
連絡先
植本計画デザイン
  代表: 植本俊介
住所: 〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-6-7 トーエイハイツ3G
  TEL: 03-3355-5075
FAX: 03-3355-9515
  E-MAIL: info@uemot.com
URL: http://www.uemot.com/

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