「コンクリート打ち放しの住宅がほしい」。建て主のそんな要望から、夫妻2人が住むこの住宅の設計は始まりました。
敷地は新横浜駅近く。起伏が多く、くねくねとした細い農道の入り組んだ場所が宅地化されてきた地区で、細分化された土地に住宅が建て込んでいます。地盤が軟弱なうえに、台形の変形敷地。建ぺい率60%、容積率100%の第一種低層専用住居地域で、道路や北側の斜線制限なども厳しい土地でした。
ご主人は、携帯電話などの開発に携わるプロダクトデザイナーです。生活臭を感じさせないSOHOのようなインテリアを好み、リビングはワークスペースにも使えるクリエイティブな雰囲気を望んでいました。
デザインとは、単なる見かけの美しさを追求するのではなく、筋道を立てて物事を構築していく作業です。軟弱な地盤の土地に重いコンクリートの家を建てるという、一見不合理に思える条件の下、いかに合理的な建物にするのか。鉄筋コンクリートでつくることの必然性をどのように追求するか。それが、設計の課題でした。
ここでは、地面を掘り下げ、その上に敷地いっぱいにRC造の基壇部を置きました。緩い地盤の上に、樽(たる)に見立てた基壇部を船のように浮かべたのです。地下部分の土を取り除くことで、地耐力の負担を減らすのが狙いでした。約40平方メートルの広さを持つRC造の半地下空間は、キッチンと食堂、居間として利用しています。
一方、建ぺい率の制限から、地上部分は敷地全体に建物を建てられません。そこで建物の一部分を欠き取って光庭とし、駐車場としても活用することにしました。建物をくり抜くように配置した光庭には、ご主人自慢のMGのスポーツカーが置かれます。
ご主人は「将来、子どもが生まれても2シーターの車に乗り続けたい」と、今から宣言しています。地面から1.4メートル下がった地下1階のリビングにいると、全面ガラスの高窓を通じて、常に車を間近に見上げることになります。しかし、そのこだわりがあるならば、違和感なく生活できると考えました。
建物全体をRC造にすると重くなるため、寝室と水回りを配置した1階部分と、ゲストルームとなる2階部分は木造にしました。高さ制限内に収めるため、木の箱のような木造部分をRC造のリビングに上から埋め込む形としました。地下1階リビングの天井高は基本的に3.5メートルですが、基壇部に貫入した木造部分の天井高は、2.2メートルです。
また2階のルーフテラスにつなげる必要から、階段を南側に配置しました。そのためキッチンは、階段の裏側に押し込められる形になったわけです。そこで、木造部分を階段部で2つに分割し、すき間から光が差し込むようにしました。階段自体も最小の部材で構成することで、光の透過性を高めています。
木造部分の仕上げには、下地材である構造用合板をそのまま使いました。コンクリート打ち放し部分と同様、素材をそのままむき出しにしたのです。仕上げも塗装もしない代わりに、100ミリピッチで梁に打ち付けた構造用クギまで、意匠上の表現要素として見せています。
内装から仕上げを排したのは、コストを抑える狙いもありました。インテリアは今後時間をかけてつくっていけばいい。まずは、建物の骨格や必要なボリュームをきっちり確保することが大切です。
例えば、RC部分を半地下にすることによって、建築外観の圧迫感を低減しました。家が建て込み、広い空を望めない地域であるだけに、基本的な住環境を自分の敷地内で確保することは何より重要です。
私たちは、建て主の個性を発見し、その上で成り立つオリジナリティーのある住まいの形を提案していきたいと考えています。今回は、車へのこだわりが大きな手がかりになりました。ほかでは実現しないユニークなプランですが、建て主も「私たちの生活スタイルだからこそ成り立つデザイン」と喜んで受け入れてくれました。
(二宮博+菱谷和子/ステューディオ2アーキテクツ) |