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こだわりのデザイナーズ住宅

Housing File 55「武庫之荘の家」

障害をかかえても暮らしやすい家、アクティブなバリアフリー住宅


近隣の風景に溶け込むシンプルな外観
鉄筋コンクリートの1階に木造の2・3階を載せた混構造。道路側は壁面を両隣にそろえ、チャコールグレーのシンプルな表情をつくっている

南に張り出して光と風をとらえる
東側隣地から見た外観。東西両側に同じような建売住宅が並んでいるため、敷地の南側にぽっかり風通しのいい空間が空いていた。そこに建物を張り出させて採光と通風を得た

内外をスムーズにつなぐ玄関
大きな開口部を備えた玄関。入り口間際までワゴン車を直接乗りつけることができる。奥の寝室、トイレ、浴室まで段差のない床で連続し、ぐるぐると回遊できる動線になっている

日当たりのいい南向きの居間
2階南面の居間は、明るく日当たりのいい空間。バルコニーのサッシは左右に引き分けて全開できる。雨が降り込まないよう庇(ひさし)がかかっており、気軽に外の空気に触れることができる

建物の南北を風が通り抜ける
居間から北側のデスクスペースを見通す。右手前が台所、その裏手にエレベーターが隠れており、さらに和室が続く。ここは建物の南端から北端まで見通しが開ける部分

リビング北側には多目的なコーナー
2階北側には、ちょうど腰掛けられる高さの段差で和室を設けた。リハビリや休憩など多目的に利用する。その奥はカウンターを作り付けた、デスクワークスペース兼廊下

段差や下がり壁が空間に変化を与える
和室は下がり壁で抑えた落ち着いた空間。トイレの出入りに際し、いったん腰掛けて身支度を整える場所でもある。2階は吹き抜けの居間、和室、天井高を抑えたデスクスペースと空間の変化に富む

 ご主人は50代半ばの若さですが、5年前に脳梗塞(こうそく)によって右半身の自由を奪われました。その後、中古の建売住宅に移ったものの、狭さゆえに身動きもままならず、2階に上がることもできません。隣家の日陰になる薄暗い1階に、閉じこもるような暮らしを余儀なくされていました。

 私はそれまで、身体障害者の住宅を設計したことはありませんでした。しかし、一般に「バリアフリー」とされる設計が、このご家族に有効かどうかは疑問です。奥さまと話し合った結果、「ご主人の体の状態に合わせた、オリジナルのバリアフリー住宅をつくりましょう」ということになったのです。

 そこで、私たちはバリアフリーの教科書を開くことなく、ご主人とご家族の生活行為を徹底的にリサーチすることから始めました。介護や外出など1日の行動調査はもとより、起居、移動の動作一つ一つを、写真やビデオ、スケッチに記録したのです。この調査に基づいて、左で杖をつく歩行に合わせた左回りの動線計画が生まれ、手すりの高さや太さ、ベンチの高さなどのディテールが決定しました。

玄関の上り下りに使うベンチ。ご主人に試してもらって角度や高さを決めた

自動車から車いすで直接出入りできる玄関
 建て替えの目的は、ご主人の体の負担を減らすことばかりではありません。障害を抱えていても、できるだけ主体的に生活してほしい。家の中を自力で動き回れるような、アクティブな住環境を提供したいと考えました。

 リハビリや趣味のための外出も多いので、玄関は重要です。車のドアの開き勝手と車いすの搬出入を考え、大きな開口部と広いタタキ、段差の小さな上がり框(かまち)をもつ、ゆとりのある空間を確保しました。

 生活の中心は、日当たりのいい2階に設定します。奥さまの立つ厨房(ちゅうぼう)を中心に据え、そのまわりに居間、リハビリや休憩に使用する和室、トイレ、夫婦で使うデスクカウンターを配しました。居間の南面には深い庇(ひさし)をかけたバルコニーがあります。発病後、思うように外気に触れることができなくなったご主人のための半戸外空間です。

 この2階の床は、車いすで動き回ってもきしむことなく、しっかりと生活を支えてくれるものでなくてはなりません。そのため、1階を鉄筋コンクリート造りとし、その上に木造の2・3階を載せました。床というより、人工の地盤を造るようなイメージでした。

 同時に、コンクリート造りの1階には、万一の災害に備えたシェルターとしての役目も期待されています。これは、阪神・淡路大震災を経験した奥さまの希望によるものでした。

 上下階の移動のためにホームエレベーターを設置しましたが、階段も17段の緩やかな勾配にしてあります。この家での暮らしに慣れてから、ご主人は、ゆっくり時間をかけて自分の足で2階に上がるようになったと伺いました。毎日の生活が、リハビリにつながっていくことでしょう。

 よく、「老後に備えてバリアフリーにしましょう」と言いますが、将来どんな障害が生じるか分からない以上、抽象論にならざるを得ません。建てる時点でできることがあるとすれば、それぞれの場所の用途を決めつけないプランを作っておくことではないでしょうか。手すりを付けたりといったディテールと、住宅全体の計画とは、分けて考えた方がいいと思います。

 住宅設計で大事なのは、その敷地の中で、どうすれば日当たりや風通し、眺望などの快適性が得られるか、を探り当てることです。空間のダイナミズムを演出するための吹き抜けや、スキップフロアなどが、果たして必要でしょうか。私は、場所の性格を規定するような空間づくりはしません。シンプルでフラットな区画をつくり、いつでも使い道を交換できる状態にするよう考えているのです。
(吉井歳晴/WIZ ARCHITECTS)

「武庫之荘の家」

建築データ
  所在地: 兵庫県尼崎市
  家族構成: 夫婦+子供2人
  竣工: 2004年1月
  敷地面積: 113.50平方メートル
  建築面積: 68.08平方メートル
延べ床面積: 169.49平方メートル
  構造・規模: 1階壁式鉄筋コンクリート造り、2・3階木造
  施工: 明和建設
設計: 吉井歳晴
  写真:

大竹静市郎、
WIZ ARCHITECTS(文中)

連絡先
WIZ ARCHITECTS
  代表: 吉井歳晴
住所: 〒550-0015大阪府大阪市西区南堀江1-26-27-809
  TEL: 06-6536-0034
FAX: 06-6536-7448
  E-MAIL: yoshii-wiz@nifty.com
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