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Housing File 56「小向の二世帯住宅」

大スパンの木造で、限られた室内に広がりを与える


最大限の空間を確保した建物の外観
やや密集した住宅地の中で、事務所と二世帯住宅を3層に積み上げた。斜線制限の下で利用できる空間をフル活用し、必要な機能を組み合わせている

アンズの木を正面に抱くテラスまわり
南の庭に、家族の思い出の詰まったアンズの木を残した。2階の親世帯のリビングは、アンズの木がよく見えるように開口部とテラスを設けている

十分な日差しを得る3階北側のリビング
3階の子世帯のリビングは、東側のテラスに面した窓や南側に設けた高窓からの光により、北側とは思えない明るさを確保。集成材と独自の金物を用いた「SE構法」のため、木造ながら広い空間となっている

斜線制限を逆手に利用した採光と収納
3階のリビングから個室方向を見る。斜線制限がかかるので、南側の個室は北側のリビングやキッチンより天井高を低く抑えられている。その差を利用して、リビングには高窓を設けた。天井が低くてもかまわないキッチンの上部には小屋裏収納をつくった

引き戸によりフレキシブルに使いこなせる個室
3階の南側には3つの個室を並べている。引き戸で仕切ることもできるので、子供の成長に合わせた自在な使い方が可能だ。現在はまだ、小学校低学年、幼稚園、と子供が小さいため、開け放して利用している

コンパクトにまとめた親世帯のリビング
親世帯のリビングは2階の南側に配置した。建て替えの前からあったアンズの木がよく見えるように、南側に窓を設けている

多目的に使える1階和室
1階、事務所の横に設けた和室。接客のほか、子供が病気のとき仕事をしながら看病できるように寝かせておいたり、来客の宿泊部屋に用いたり、多目的な用途に使える

 親の家を建て替え、家業の事務所を併設した二世帯住宅にしました。

 1階に事務所と和室、駐車場を並べ、2階に親世帯の生活スペースと水回り、3階に子世帯の生活スペースをそれぞれ積み重ねています。建物の中央部に配した階段と外部に設けた鉄骨階段によって、これらの階を内外で結び付けました。

 2階の親世帯のリビングは、もともと植えてあったアンズの木がよく見える南側に配置しました。一方、3階の子世帯のリビングはあえて北側に置き、南側に3つの個室を並べています。斜線制限により北側の方が天井高を高くできる点を活用した間取りです。

 個室との天井高の差を生かし、リビングには高窓を設けて採光を確保しました。東面に設けたテラスに面して天井いっぱいの窓を設けた設計ともあいまって、北側の部屋とは思えない明るく気持ちよい空間に仕上がっています。

 南側に並べた3つの個室は引き戸で仕切り、フレキシブルな使い方に対応できるようにしました。子供が小学校と幼稚園に通う現在は、開け放して広い1室に。子供たちが成長したら引き戸を閉めて使い、さらに成長したら、間仕切り壁を設けられるよう想定しています。

 実は当初、この土地に事務所と二世帯住宅の入る家を建てたいという話を伺った時は、「それだけの機能が入るだろうか」と思いました。都市周辺にありがちな、厳しい条件の敷地だったのです。

 やや密集した住宅地に位置し、前面道路は3.7メートル幅しかありません。敷地条件から、容積率は160パーセントしか使えないという状況でした。

 建て主側からは2台分の駐車場や、それぞれの世帯に水回りが欲しいといった要望が出ていました。でも、すべての要望は盛り込めません。家族と話し合った結果、駐車場は1台分に減らし、浴室は両世帯が共用することで落ち着きました。

 一方で、3階と屋上にはテラスを設けました。外とのつながりを与え、限られた空間の中で広がりを感じさせる場を提供したかったからです。実際、天気の良い日には屋上テラスから富士山を見晴らすことができ、とても気持ちいいんですよ。

 この家の特徴の一つは、「SE構法」という木構造を採用していることです。集成材を用いて特殊な金属継ぎ手で接合したSE構法は強度が高く、約2間(3.6メートル)の長さの梁を使うことができます。一般の木造に比べて耐力壁が少なくて済み、室内に広い空間を確保できるのがメリットです。

 また準耐火構造として認められているため、柱や梁といった木部をそのまま見せる仕上げを採用できます。一般の木造では軒高を9メートル以内に抑える必要がありますが、それも、この構法の場合、12メートルまで許されます。木造だけれども、鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りに近い、広がりのある空間構成が可能になるのです。

 今回は敷地にかかる建築規制との関係から、建物の高さは10メートル未満に抑えていますが、それでも一般の木造より1メートルほど高くできました。その分、3階リビングの天井高をゆったり取れましたし、キッチンの上には小屋裏収納を設けられました。

 それでいて、木造で建物が軽いため、鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りで用いる杭基礎は必要ありません。十分な強度を確保しながら、価格は鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りに比べて安いというメリットもありました。こうした構造の話は一見地味ですが、気持ちよく、そして性能の高い生活空間を構築するためには欠かせない要素です。

 デザインは見栄えの良さだけを追い求めるものではありません。しっかりとした骨格を用意したうえで、いかに質の高い空間に仕上げていくか。私は、そんなバランスのとれた設計を目指しています。
 (田中友章/フォルムス)


「小向の二世帯住宅」

建築データ
  所在地: 川崎市幸区
  家族構成: 親夫婦+子夫婦+子2人
  竣工: 2004年12月
  敷地面積: 112.26平方メートル
  建築面積: 67.35平方メートル
延べ床面積: 165.80平方メートル(駐車場・ロフト面積を含まず)
  構造・規模: 木造・地上3階建て
工事費: 4150万円(建築・設備工事一式。消費税別)
  施工: 米屋建設
設計: (建築)田中友章/フォルムス (基礎構造)MUSA研究所
  写真:

堀内広治

連絡先
フォルムス
  代表: 田中友章
住所: 〒214-0014 川崎市多摩区登戸2710-6 302号
  TEL: 044-931-3681
FAX: 044-931-3682
  E-MAIL: mail@forms-jp.com
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