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Housing File 59「四季のある家」

南だけが開けた密集地の家に、変化に富む景色を描き出す


恵まれた景観を享受する大開口
南側外観。幅1メートルほどの細道を挟んで公園に面している。2階は景観を室内いっぱいに取り込む全面開口。1階右側の子供室は開口部を奥まらせ、隣家との間にコンクリートの壁を立てた。1階左側の縦長の開口は浴室

遠くの山並みまで一望できる2階LD
2階南面のリビングダイニング。天井は窓に向かって高くなっている。内装は落ち着いた雰囲気にまとめ、窓外の明るい景色に意識を向けさせる

モミジを切り取る額縁のような開口
1階南面の子供室。サッシはすべて壁の内側に引き込める。軒とウッドデッキ、コンクリートの壁によって、景色の美しい部分だけを切り取った

細長い開口で視界を絞り込む
1階南面の浴室。細長い開口部とその先に延ばしたコンクリートのブリッジによって視界を絞り、遠くの竹林に意識を向かわせる。眺めを邪魔しないよう、洗い場やシャワーは浴槽の左手に配している

“離れ”のような落ち着いた和室
1階北側の和室は、土間からにじり口を通って入る“離れ”のような空間。植え込みだけを巧みに切り取る開口部によって、周りが隣家に囲まれていることを忘れさせる

通り土間のある吹き抜けの玄関
建物中央部に位置する玄関は、2方向にドアを持ち、通り抜けできる広がりのある空間。吹き抜けの上にあるトップライトから明るい光が降り注ぐ

入り組んだ建物をつなぐ吹き抜け空間
2階南側のリビングと北側の寝室は吹き抜けを挟んで連続している。仕上げ材をそろえ、全体を一体感のある空間にした。写真正面はデスクを造り付けたマルチスペース

 住宅設計という仕事には、建築だけでなく、土地購入、家具、税金まで含めたトータルな資金計画も含まれると考えています。この住宅の場合は、土地探しからお手伝いしました。

 この敷地は長さ30メートルもの細い路地を含み、かつては廃屋が建ち、野草が生い茂るさびれた場所でした。周囲には隣家が迫り、ぎざぎざに切り取られたいびつな形をしています。ただ、南側の1方向には、遠くまで緑の広がる豊かな景観が開けるのです。

 長く売れ残っていたために、土地価格は周辺相場のおよそ3分の1。これなら、建築費に十分な資金を充てられます。土地の抱える多くの欠点を補って余りある、絶景の住宅ができると確信しました。

 まず、視界の開ける南に向けて、大きな開口部のある建物を配します。ここまでは、誰もが同じように考えるでしょう。問題は、隣家に囲まれた敷地北側です。ここには最も効率的に面積が確保できるよう、敷地形状に沿って建物を斜めに置きました。

平面図  この結果、軸線が斜めにずれた南北2つの棟と、その間の三角形のゾーンが生まれます。これら3つのゾーンをいかに活用するか。1方向だけ開けた敷地の中に、変化に富んだシーンを作り出すため、開口部の取り方には徹底してこだわりました。

 まず、南棟1階の子供室は、隣地から枝を張り出す見事なモミジを借景とします。ウッドデッキを延ばし、コンクリートの壁を立てて視界を切り取ることで、額縁に入れた絵画のような効果を狙いました。

 同じく南棟1階の西側に位置する浴室・洗面・トイレは細長い筒状の空間。ちょうど望遠鏡をのぞくように視界が絞られ、視線はまっすぐ公園の竹林へ導かれます。

 南棟2階のリビングに上がれば、眼前に遠くの山並みを望む雄大なパノラマが開けます。ここは角までガラスで包んだ全面開口。傾斜天井が窓に向かって広がる、開放的な空間です。

 中央の三角ゾーンの上はトップライトを開き、上下階を貫く吹き抜けとしました。2階を仕切る引き戸はすべて全開可能で、この吹き抜けを介してフロア全体が一体感のある大空間になります。

 吹き抜けの下、三角ゾーン1階は、北の前面道路と敷地南側の細道、2方向からアプローチできる玄関です。通り抜け可能な土間が、北棟1階の和室をほかの部屋から切り離し、まるで“離れ”のような雰囲気を与えます。

 和室には、4面すべてに開口を設け、“離れ”らしさを演出しました。隣家に面した北側は雪見障子、土間に面した南側は小さな地窓。西側にはヤマボウシの姿を楽しむ縦長のスリット、東側には敷地境界の植え込みをのぞく横長のスリットを開けました。

 住宅は生活の場である以上、建築デザインだけを追求しても意味がありません。美しい眺めを得るには、開口部の取り方はもちろん、視界に生活用品を露出させずに済む設計が必要です。建築空間に似合う家具を置くには、当初から予算に組み込んでおかなくてはなりません。緻密(ちみつ)な理論の裏付けがあってこそ、デザインが成り立つのだと考えています。
(甲村健一/KEN一級建築士事務所)


「四季のある家」

建築データ
  所在地: 横浜市緑区
  家族構成: 夫婦+子ども1人
  竣工: 2004年4月
  敷地面積: 202.34平方メートル
  建築面積: 80.24平方メートル
延べ床面積: 144.73平方メートル
  構造・規模: 鉄骨造り一部木造、地上2階
  施工: 株式会社大明建設
設計: 甲村健一
  写真:

松岡満男

連絡先
KEN一級建築士事務所
  代表: 甲村健一
住所: 〒226-0004 神奈川県横浜市緑区鴨居町2629-5
  TEL: 045-938-8090
FAX: 045-938-8091
  E-MAIL: kohmura@ken-architects.com
URL: http://www.ken-architects.com/
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