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都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
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都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

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「TUTU」
成長する家


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若手建築家と若い建て主

 家づくりの際、建て主が価値観の共有を求めて、同世代の建築家を指名することは少なくありません。 
 昨今の住宅建築シーンに「若手建築家」が登場する背景にも、雑誌メディアに影響を受けた「若い建て主」の存在があります。

 おそらく若手建築家の部類に入るであろう私も、2年ほど前、私より「若い建て主」に指名されました。ご主人が27歳、奥様は31歳の時です。
 独身時代から別々の賃貸アパートに暮らしていた2人は、ご主人の実家で一緒に住んで間もなく結婚することを決め、新居を探し始めます。
 共働きの2人は、家賃を支払い続けるより、分譲マンションを取得したいと考えていましたが、条件に合うものがなかなか見つかりません。
 「初めは賃貸でも仕方がないか……」と、あきらめかけていた時、ある土地情報が2人の前に舞い込んできました。

 敷地は都営地下鉄新宿線の某駅から程近い小さな更地。間口は3.5メートル、奥行き11メートル。敷地面積11坪という狭小地ながら、周辺には住宅や緑も多い閑静なエリアでした。
 ここはご主人が生まれ育った場所に近く、今でも多くの親せきが近くに住んでいます。なじみの深いその環境に、2人はあっという間に引きつけられました。
 なんといっても決め手となったのは、800万円という土地の安さです。オーダーメードの家づくりを可能にするこのリーズナブルな価格こそが、新生活を始める若い2人に、土地の購入を決意させたわけです。 
 しかし、新築を考えていなかった2人の前に、なぜこのような土地情報が突然現れたのでしょう。

 実は、この土地の購入に一役買ったのが、不動産会社を経営しているご主人のお母様でした。普通はあまりお目にかかることができない「競売物件」だったのです。
 優良狭小地は市場に出回る機会が少なく、仮に出たとしても売り切れが必至。エンドユーザーがこのような情報を早いタイミングで取得するのは、簡単なことではありません。それゆえ、用地取得では、不動産のプロが身近にいるかどうかが運命の分かれ目になるのです。

 「マンションの購入ばかり考えていましたから、家をつくることは全く考えていませんでした」

 笑いながらそう話す若い2人の傍らで、電光石火の早業で優良狭小地を競り落とした母親が優しくほほ笑んでいます。 
 土地情報の提供は、母親から迷える息子への最善のアドバイスであり、ささやかな「結婚祝い」であったのかもしれません。
外壁は裏側に断熱材が付いた黒のガルバリウム鋼板。建物は周囲にある緑の中にしっとりとたたずんでいる

ファサードの大部分を占めるシャープなスチールサッシが、スクエアな建物の表情をさらに引き締めている

トップライトからリビングに降り注ぐ光が時間とともに常に変化し、空間に様々な表情を与えている

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